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疎かにされる論理 ~ なぜ利上げが株価下落要因なのか

発行済 2016-09-20 13:25
更新済 2023-07-09 19:32

20日、21日の両日、日米で金融政策に関する重要なイベントがある。

日銀の「総括的な検証」の中身が何なのか、FOMCが追加利上げに動くかが市場の注目点。

市場が日米の金融政策に注目をするのは、「金融緩和なら通貨安・株高」「利上げなら通貨高・株安」という「方程式」を前提にしているからだ。

確かに教科書的にはこうした思い込みは間違いではない。しかし、何故利上げが株安要因になるのかをきちんと理解している投資家は多くない。

利上げが株安要因になるというのは、ミクロ面からの「理論株価」と、資産運用面での「ポートフォリオ・セオリー」の両面から説明することが出来る。

「理論株価」算定の最もポピュラーな考え方である「配当割引モデル(DDM:Dividend Discount Model)」に従えば、株価というのは将来受け取れる配当金の現在価値の合計だと定義される。

現在価値とは将来受け取る配当金を「金利」で割り戻したもので、計算の際に「金利」は分母に登場する。分母が大きくなればその値は小さくなるので、「金利」が上昇すれば「現在価値」は小さくなり、「理論株価」も下がるという関係にある。

また、あまり知られていないことだが、多くの投資家に知られている「PER(株価収益率)」も「金利」の関数である。

PERについては「一株利益の何倍まで株価が買われているかを測る指標」という説明が一般的だが、同時に「r:資本コスト」と「g:一株利益の成長率」を用いて「PER=1/(r-g) という数式(但しr>g )でも表される。この「r:資本コスト」の中に「金利」が含まれており、「金利」の上昇によって「r」が大きくなる分、分母が大きくなり、理論PERは下がるという関係にある。

このように、「金利」が上昇するとPERは理論上低下することになるので、一株利益が変わらなければ株価はPERが低下する分下落することになる。

次に、運用上の「ポートフォリオ・セオリー」では、金利が上昇する局面ではポートフォリオ全体の「デュレーション(Duration)」を短くするのが鉄則である。

「デュレーション」とは、「資金回収期間」を表す指標であり、同時に「金利感応度」を測る指標でもある。

金利が上昇する局面では、「資金回収期間」の短縮化と、資産の残存期間の短期化を図るのがセオリー。「金利感応度」は期間が長い資産の方が大きい。例えば、日本の短期国債(1~3年)の金利感応度は2.02であるのに対して、長期国債(7~11年)のそれは8.41と4倍以上になっている(「Nomura Bond Performance Index 国債」ベース)。

金利が上昇するということは、価格が下落するということであるから、金利上昇局面では「金利感応度」のより低い短い債券にシフトしていくというのがセオリーとなる。

債券のように満期のない株式は、永久債券という側面を持っており、最も「デュレーション」の長い資産だともいえる。従って、セオリー上、金利上昇が見込まれる局面では株式の組み入れ比率を引き下げるのがリスクコントロール上論理的な動きとなる。

1990年代半ば、当時国内株式のファンドマネージャーをしていた筆者は、FRBが市場予想より早めに利上げに向かった局面で、「FRBが利上げ局面に入ったことを考えると、株式組み入れ比率を引き下げる必要がある」との判断に基づき、運用上許容される範囲の下限まで株式の組み入れ比率を下げた。

そのことを月に一回開催される運用本部の運用会議の席上で発表したところ、複数の年配部長連中から叱責されることになった。

「後になって間違っていたと泣き言を言うんじゃないぞ!」「お前は(相場に)弱気なんじゃなくて(性格が)気弱なんだ!」。

結局この会議では常務命令で組み入れ比率を元に戻すことになった。しかし、当時はバブルが崩壊し投資信託の解約が続いていたので、株式を買増さなくても勝手に組み入れ比率が上昇していく環境であった。それ故、筆者は株式を買増すことなく、組み入れ比率が上昇するのを待つことにした。

その結果、そのファンドは東洋経済の調査で年間パフォーマンス2位になり、泣き言を言わなければならない状況に追い込まれることはなかった。

当時はまだ50代以上の年配ファンドマネージャーが多かったこともあり、会社としてファンドマネージャーにアナリスト資格取得は義務付けられていなかった。しかし、筆者に最も強く罵声を浴びせたのはアナリスト資格を持ったベテラン運用部長だった。

このベテラン運用部長の弱点は、債券、金利に関する知識と経験がなかったことと、債券運用をベースに出来ているポートフォリオ理論を理解できていなかったこと。

今週の日米の金融政策に関するイベントに向けて、メディア等は利上げがあるか否か、その後の「相場」がどのように動くかといった「相場観」に基づくコメントで溢れかえっている。

しかし、金融や資産運用の基本である「金利」に関する知識や「ポートフォリオ・セオリー」を無視したドタ勘に基づいた「相場観」はほとんど意味がないもの。

個人が楽しむ投資ならいいが、人様の命の次に大切なお金を預かる立場の人間が、「金利」や「ポートフォリオ・セオリー」を無視して「95円になる」「株価は復活する」と繰り返す光景は異様でしかない。

運用で大切なことは、理屈を理解したうえで現実的修正を加えていくことだ。

実際の運用は「運用理論」が想定しているような桃源郷で行われるものではない。しかし、理屈や理論を知らないで運用するということは、自分がどのようなリスクをどのくらい取っているのかが分からないだけでなく、うまくいかなかった際に何処に引き返せばいいのか判断がつかない「迷子運用」を行っていることでしかない。

運用に必要なもう一つの要素は「時間」である。今の金融市場は「過去」の「結果」であり、将来の「原因」になるものだ。従って、「過去」から「現在」へのプロセスを無視しては「将来」を正しく評価することは難しい。

さらに、「現在」と「将来」を繋ぐ架け橋は「金利」であり、「金利」は資産運用上必要不可欠な知識である。これは、株式運用でも同じこと。

多くの投資家は、資産運用に必要不可欠な「金利」や「金融政策」を飛ばし、テクニカル分析で収益を出すことを目指している。

これは、難しい知識など身に付けなくても収益が得られる可能性があるからだが、テクニカル分析がある程度の効果を持つということは、投資家が時代に関わらず同じ過ちを繰り返してきているからに他ならない。従って、「過去」を知ることはテクニカル分析の効率性をも向上させるものでもある。

アナリストの株価予想の精度が、素人とほとんど変わらないレベルなのは、彼らが「現在」を基準に「将来」を予測し、「過去」を無視しているからだ。

資産運用には「知識」が必要不可欠であるのと同時に、「現在、過去、未来」を繋げる時間軸の考え方が極めて重要だ。

「金利」や「金融政策」、「ポートフォリオ・セオリー」の知識などなくても収益を上げることが出来ると思っている人も多いのが現実である。確かに、難しい理論など知らなくても投資は可能である。

特に政府が奨励するような、株や投資信託を買うだけの「投資」なら、知識などなくても、資金だけあれば十分だ。

しかし、金融市場の参加者の多くは、「金利」や「金融政策」、「ポートフォリオ・セオリー」を知っている。従って、こうした知識なく「投資」をすることは可能だが、知識を持った投資家がどのように動く可能性があるのかを考えるための知識を持っておけば、収益機会は増えるはずである。

自分が使うかどうかではなく、使っている投資家が多いということは認識しておかなければならない。日本人が何時までも「裁定取引」を理解できないのも、四半世紀以上「貯蓄から投資へ」というスローガンが掲げられるなかで日本人の金融リテラシーが向上しないのも、「金利」や「金融政策」、「ポートフォリオ・セオリー」を軽視し続けているからだ。

政策金利がゼロ近傍になり、金融政策が非伝統的なものに偏ったことで「金利」や「金融政策」は一層軽視されるようになって来ている。しかし、今週開催される日銀金融政策決定会合とFOMCは、資産運用、投資において大きな変曲点になる可能性ある。

「金融緩和策が打ち出されれば内容にかかわらずリスクオン」「利上げが打ち出さればリスクオフ」といったデジタル思考ではこの先の金融市場を乗り切っていけない時代に突入しているかもしれないからだ。

金融市場や金融政策は複雑さを増してきている。その中で重要なことは、「相場観」を養うことではなく、「金利」や「金融政策」をはじめ、「ポートフォリオ・セオリー」といった基本を再認識すること。こうした基本は、投資だけでなく、ビジネスや実生活にも生かせるからだ。

こうした観点から、その時々の旬なテーマを材料に、「金利」や「金融政策」、「ポートフォリオ・セオリー」などを身に付けていくことを目的とした「近藤駿介 マーケット・エコノミー研究会」という定例会を開催していく予定です。

「近藤駿介マーケット・エコノミー研究会」の第1回は、10月5日(水)19:15から恵比寿ガーデンプレイスDMM.com本社会議室で開催します。DMM Loungeのメンバーの方だけでなく、ビジター参加も可能ですので、是非お誘いあわせの上ご参加ください。定員20名です。

詳細とお申し込みはこちらから。
https://event.dmm.com/detail?event_id=73883

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