昨日(23日)は、東京MXテレビの「WORLD MARKETZ」に出演し、金融市場や金融政策に関していろいろお話しをさせて頂いた。
いろいろお話しをしたが、ポイントは「1984年のプラザ合意以降多くの投資家が抱いて来た政策当局が市場をコントロール出来るということは幻想になった」「2016年は金融政策の限界を知る年になる」ということ。
今週末26、27日の両日に上海でG20が開催されるが、ここでも投資家が期待する有効な政策合意がなされることには期待するのは危険だ。特に、中国に構造改革を期待するというのは、豚が空を飛ぶことを夢見るようなもの。
昨年から顕在化して来た中国経済の失速は、リーマン・ショック後に突き付けられた課題に対して、世界経済が正しい回答を見付けられていないことを示したものだと捉えるべきだろう。
リーマン・ショックは、膨らまし過ぎた投資銀行のバランスシートが破裂したことによって生じたショックである。この膨らませ過ぎたバランスシートの破裂によって生じた損失を投資銀行自身が負担出来れば問題はなかったが、それが出来る状況ではなかったことが不幸の始まり。
バランスシートが破裂した際にそのショックを抑え込むには、別の主体がバランスシートを膨らませてそれを支えるしかない。リーマン・ショック時にその役を果たしたのが、中国を筆頭とした政府だった。
しかし、財政問題を抱える先進国政府のバランスシート拡大には限界があり、先進国は早々に限界に達し、政府に代わって中央銀行がバランスシートを拡大する役を担っていった。
一方財政自由度の高かった中国は、4兆元(当時のレートで約56兆円)という大規模は財政支出で世界経済を救うと同時に、世界第2位の経済大国にのし上がっていった。これが世界経済に中国バブルを生む原因となった。
しかし、その中国ではシャドウバンキング問題を始め、大規模財政支出の副作用も現れて来た。大きな問題は、世界第2位の経常収支国である中国の人民元が、政府の介入なしでは下落してしまうという現実である。
これは経常収支(概ね貿易収支とサービス収支の合計)の黒字を上回る資本が中国から流出していることを意味するもの。そしてそれは、大規模な財政支出と海外からの資金を背景とした「投資」で成長してきた中国の成長モデルが崩れたことを意味するものであり、中国経済全体としては緊縮財政に向かうのと同じこと。
投資銀行から政府へ、そして中央銀行へとバランスシート拡大の主役は変わって来たが、中央銀行と中国の次に誰がバランスシートを拡大する主体となるのか。企業なのか、はたまた個人なのか・・・。
結局はリーマン・ショック後に突き付けられたこの課題に対して国際社会は有効な回答を示すことが出来ないうちに時間切れになってしまった格好。
市場には未だに金融緩和に対する根強い期待が残っている。しかし、金融政策の効果は薄れていく方向にある。
金融政策は「引くことは出来ても押すことは出来ない」といわれる。単純に言えば潜在的な有効需要(購買力を伴った需要)を引出すことは出来ても、有効需要自体を作り出すことは出来ないということ。したがって、有効需要が減少している過程では金融政策の効果も低下して行くことになる。
さらに、番組でチャートを示したが、日銀は法定準備預金の約27倍もの資金を放出している。この資金は、現在の経済規模、GDPを支えるのに不必要な資金でもある(実体経済は法定準備預金だけで回る)。実体経済を維持するのに必要な資金の27倍もの不必要な資金は、金利という武器を失った中央銀行がコントロールするのに余りにも多い。
しかもこうした問題を抱えるのは日本一国ではない。FRBやBOE(イングランド銀行)、さらにはECBも同じような政策を取っている。有効需要が乏しくなって来ている中で、こうした実態経済に不必要な資金を、金利という武器を失った中央銀行がコントロールするのは至難の技だと言える。
このようにいうと「マイナス金利があるじゃないか」という反論が出ると思うが、日銀は「マイナス金利の拡大」と「量的緩和拡大」を両立させることは出来ないのが現実だ。この辺は2月22日付有料メルマガ「近藤駿介のAnother Sense 『マーケット・オピニオン』」の中で解説しているので、是非お読み頂きたい。
オイルマネーを始めとした実需の投資資金が減少した金融市場は、今後は新たな落ち着きどころを探すことになりそうだ。
こうしたなかで、日経平均株価は16,000円を挟んだ動きになって来ている。日経平均のボラティリティ(21日ベース)は先週(15~19日)に50%台に乗せた。ボラティリティの50%超えは2014年5月にバーナンキFRB議長(当時)がテーパリングに言及した直後の混乱局面以来のこと。
昨年8月のチャイナショック時のボラティリティが45%程度だったことと比較すれば、今回のボラティリティが高いことが分かる。同時に、この先さらにボラティリティが上昇して行く可能性よりは、徐々にボラティリティは低下して行く可能性の方が高いと言える。
上昇し過ぎたボラティリティが沈静化して行く局面では、一方的な方向に株価が動くのを阻止する力が働くので、「思ったよりは底堅い」「思ったより頭が重い」という展開になりやすい。今週はこうした局面に差しかかったと見ておくべきだろう。
投資家が気を付けるべきことは、政策当局の力を過信し過ぎないことだ。過信し過ぎるとその反動でボラティリティの高い局面を招くことになる。
さらに、投資家にとって最も恐ろしい局面は、「株価の下落とボラティリティの低下が共存する局面」だということを認識することだ。こうした局面で、割安感を基準にした押目買いは自殺行為に近い。新たな落ち着きどころを探す局面(ボラティリティの低下と株価の下落が共存する局面)が訪れた際には、無駄な押し目買いをしない勇気も必要だ。
いろいろお話しをしたが、ポイントは「1984年のプラザ合意以降多くの投資家が抱いて来た政策当局が市場をコントロール出来るということは幻想になった」「2016年は金融政策の限界を知る年になる」ということ。
今週末26、27日の両日に上海でG20が開催されるが、ここでも投資家が期待する有効な政策合意がなされることには期待するのは危険だ。特に、中国に構造改革を期待するというのは、豚が空を飛ぶことを夢見るようなもの。
昨年から顕在化して来た中国経済の失速は、リーマン・ショック後に突き付けられた課題に対して、世界経済が正しい回答を見付けられていないことを示したものだと捉えるべきだろう。
リーマン・ショックは、膨らまし過ぎた投資銀行のバランスシートが破裂したことによって生じたショックである。この膨らませ過ぎたバランスシートの破裂によって生じた損失を投資銀行自身が負担出来れば問題はなかったが、それが出来る状況ではなかったことが不幸の始まり。
バランスシートが破裂した際にそのショックを抑え込むには、別の主体がバランスシートを膨らませてそれを支えるしかない。リーマン・ショック時にその役を果たしたのが、中国を筆頭とした政府だった。
しかし、財政問題を抱える先進国政府のバランスシート拡大には限界があり、先進国は早々に限界に達し、政府に代わって中央銀行がバランスシートを拡大する役を担っていった。
一方財政自由度の高かった中国は、4兆元(当時のレートで約56兆円)という大規模は財政支出で世界経済を救うと同時に、世界第2位の経済大国にのし上がっていった。これが世界経済に中国バブルを生む原因となった。
しかし、その中国ではシャドウバンキング問題を始め、大規模財政支出の副作用も現れて来た。大きな問題は、世界第2位の経常収支国である中国の人民元が、政府の介入なしでは下落してしまうという現実である。
これは経常収支(概ね貿易収支とサービス収支の合計)の黒字を上回る資本が中国から流出していることを意味するもの。そしてそれは、大規模な財政支出と海外からの資金を背景とした「投資」で成長してきた中国の成長モデルが崩れたことを意味するものであり、中国経済全体としては緊縮財政に向かうのと同じこと。
投資銀行から政府へ、そして中央銀行へとバランスシート拡大の主役は変わって来たが、中央銀行と中国の次に誰がバランスシートを拡大する主体となるのか。企業なのか、はたまた個人なのか・・・。
結局はリーマン・ショック後に突き付けられたこの課題に対して国際社会は有効な回答を示すことが出来ないうちに時間切れになってしまった格好。
市場には未だに金融緩和に対する根強い期待が残っている。しかし、金融政策の効果は薄れていく方向にある。
金融政策は「引くことは出来ても押すことは出来ない」といわれる。単純に言えば潜在的な有効需要(購買力を伴った需要)を引出すことは出来ても、有効需要自体を作り出すことは出来ないということ。したがって、有効需要が減少している過程では金融政策の効果も低下して行くことになる。
さらに、番組でチャートを示したが、日銀は法定準備預金の約27倍もの資金を放出している。この資金は、現在の経済規模、GDPを支えるのに不必要な資金でもある(実体経済は法定準備預金だけで回る)。実体経済を維持するのに必要な資金の27倍もの不必要な資金は、金利という武器を失った中央銀行がコントロールするのに余りにも多い。
しかもこうした問題を抱えるのは日本一国ではない。FRBやBOE(イングランド銀行)、さらにはECBも同じような政策を取っている。有効需要が乏しくなって来ている中で、こうした実態経済に不必要な資金を、金利という武器を失った中央銀行がコントロールするのは至難の技だと言える。
このようにいうと「マイナス金利があるじゃないか」という反論が出ると思うが、日銀は「マイナス金利の拡大」と「量的緩和拡大」を両立させることは出来ないのが現実だ。この辺は2月22日付有料メルマガ「近藤駿介のAnother Sense 『マーケット・オピニオン』」の中で解説しているので、是非お読み頂きたい。
オイルマネーを始めとした実需の投資資金が減少した金融市場は、今後は新たな落ち着きどころを探すことになりそうだ。
こうしたなかで、日経平均株価は16,000円を挟んだ動きになって来ている。日経平均のボラティリティ(21日ベース)は先週(15~19日)に50%台に乗せた。ボラティリティの50%超えは2014年5月にバーナンキFRB議長(当時)がテーパリングに言及した直後の混乱局面以来のこと。
昨年8月のチャイナショック時のボラティリティが45%程度だったことと比較すれば、今回のボラティリティが高いことが分かる。同時に、この先さらにボラティリティが上昇して行く可能性よりは、徐々にボラティリティは低下して行く可能性の方が高いと言える。
上昇し過ぎたボラティリティが沈静化して行く局面では、一方的な方向に株価が動くのを阻止する力が働くので、「思ったよりは底堅い」「思ったより頭が重い」という展開になりやすい。今週はこうした局面に差しかかったと見ておくべきだろう。
投資家が気を付けるべきことは、政策当局の力を過信し過ぎないことだ。過信し過ぎるとその反動でボラティリティの高い局面を招くことになる。
さらに、投資家にとって最も恐ろしい局面は、「株価の下落とボラティリティの低下が共存する局面」だということを認識することだ。こうした局面で、割安感を基準にした押目買いは自殺行為に近い。新たな落ち着きどころを探す局面(ボラティリティの低下と株価の下落が共存する局面)が訪れた際には、無駄な押し目買いをしない勇気も必要だ。