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焦点:自然災害相次ぐ豪州、総選挙は対策訴える無所属候補が「台風の目」

発行済 2022-05-20 15:29
更新済 2022-05-20 15:37
© Reuters.  史上最悪レベルの森林火災と洪水を経験したオーストラリアでは、気候問題を重視する新たな無党派層が21日に行われる連邦総選挙に激震をもたらしかねない勢いだ。写真はニューサウ

© Reuters.  史上最悪レベルの森林火災と洪水を経験したオーストラリアでは、気候問題を重視する新たな無党派層が21日に行われる連邦総選挙に激震をもたらしかねない勢いだ。写真はニューサウ

[シドニー 17日 ロイター] - 史上最悪レベルの森林火災と洪水を経験したオーストラリアでは、気候問題を重視する新たな無党派層が21日に行われる連邦総選挙に激震をもたらしかねない勢いだ。現政権は主要な選挙区でプレッシャーを受けており、この国の政治状況が一変する可能性もある。

気候変動問題に関する政府の無策ぶりに憤る候補者らは、穏健な有権者の票を主要政党から奪うことを狙い、環境問題を争点とした選挙運動に力を入れている。

「気候変動問題に対して現実的な行動がとられていないという不満が高まっている」と語るのは、無所属のアレグラ・スペンダー候補(44)。富裕層が多いシドニーのウェントワース選挙区から立候補している。「科学やビジネスというより、むしろイデオロギー問題になっている。だが、気候変動の証拠に対する合理的で釣り合いの取れた対応こそ、人々が求めているものだ」

マッキンゼー・アンド・カンパニーの元アナリストという経歴を持つスペンダー氏は、女性を中心とする20人以上もの無所属候補の1人だ。こうした候補者らが議席獲得を狙うのは、伝統的に保守的な、主として都市部の選挙区である。選挙資金の一部は、気候変動対策を推進しようとする候補者の支援を掲げて3年前に設立されたファンド「クライメート200」から得ている。

この中には、「青緑(ティール)の無所属」と呼ばれるようになった候補も何人かいる。「青」のカラーで象徴される穏健派リベラルに向けて「緑」、つまり気候変動対策を訴える、という組み合わせを反映する呼称だ。

世論調査を見る限り、このグループは、環境、反腐敗、ジェンダー平等といった政策で有権者の関心を集めつつあり、世界有数の石炭・天然ガス輸出国であるオーストラリアの有権者が離反することを恐れて気候変動問題に曖昧な態度をとってきた既存政党を脅かしている。

自由党の党首として2018年8月に就任したスコット・モリソン首相は、今回の選挙で政権を失い、9年間の保守派政権は終わる可能性があると見られている。先週実施された世論調査によれば、労働党が80議席を獲得し、多数派政権樹立に必要な76議席を上回ると見られている。この調査では、現政権与党は63議席に減少、残り8議席を小規模政党と無所属が獲得すると予想している。しかし、前回の選挙と同様に世論調査の予想が外れれば、無所属議員がキャスティングボートを握る与野党伯仲の状況、いわゆる「ハング・パーラメント(宙吊り議会)」が生じる可能性がある。

最近の世論調査によれば、政権の最有力閣僚であり自由党の次期党首として衆目の一致するジョシュ・フライデンバーグ財務相でさえ、クーヨン選挙区(メルボルン)の議席を失いかねない。相手は「青緑」の無所属候補、神経科医師のモニーク・ライアン氏だ。メルボルンでは、別の無所属候補であるジャーナリスト出身のゾーイ・ダニエル氏も世論調査で首位を走っている。

スペンダー候補は、ボンダイの他、国内で最も富裕層の多い港湾地域を含むウェントワース選挙区で、幅広い階層の有権者の支持を集めているようだ。

ボンダイで期日前投票を済ませたジェス・ダニエルさん(36)は、自分にとって最も優先度の高い争点として「気候変動問題」を挙げた。「自分の幼い息子のことを考えている。今、ここだけの問題ではない」

イアン・トレサイスさんはこれまで58年間保守系候補に投票してきたが、青緑のTシャツを着て、スペンダー陣営のボランティア1000人の中に身を投じている。

ボンダイの期日前投票所でチラシ配布中だったトレサイスさんは、ロイターに対し「気温が3度上昇すれば世界は煮え立ってしまう」と語った。「1.5度でもかなり茹だっているのに」

2016年に発効したパリ協定は、地球温暖化による気温上昇を産業革命以前の水準に比べて摂氏2度以下に、できれば1.5度に抑制するという目標を掲げている。

<「荒廃と破滅」>

昨年5月に独立系シンクタンク「ローウィー・インスティチュート」が公表したアンケート調査では、気候変動問題に対する懸念の高まりが見られる。「地球温暖化は深刻で切迫した問題である」に同意するオーストラリア人は、前年の56%から上昇して60%に達した。

しかし、大都市を離れ、ここ数年で国内最悪レベルの自然災害に見舞われた地域に移ると、依然として深刻な意見対立が見られる。

ニューサウスウェールズ州南岸、閑静なリゾートの街コンジョラは、2019年から2020年にかけての通称「黒い夏」に森林火災に蹂躙(じゅうりん)され、その数週間後、さらには最近でも洪水が発生しているが、こうした自然災害と気候変動との関連を疑問視する人々もいる。この森林火災が発生したのは、オーストラリア史上最も高温・少雨の年の後だった。

「最近では、クシャミをしても気候変動のせいにされる」と、コンジョラの森林火災を目撃したバリーさん(59)は語る。彼は、気候変動対策活動家ににらまれることを恐れて、ファーストネームだけの公表を望んでいる。

国内の石炭・天然ガス生産の中心地と同じく、コンジョラの一部の住民にとっても、気候科学への不信感は、雇用や生活コスト上昇の懸念と絡み合っている。世論調査によれば、この2つが依然として有権者にとって最重要の課題だ。今年1─3月のインフレ率は20年ぶりの高水準に達しており、有権者は金利上昇が始まったことに危機感を抱いている。

化石燃料産業はオーストラリアのどの州でも大きな雇用を生み出している。オーストラリアの中央銀行によれば、同国の経済生産に占める鉱業部門のシェアは11.5%、化石燃料は輸出額全体の約4分の1に達している。

「今回の選挙の争点は気候変動で、自分は気候変動対策を最小限にとどめる政権に投票したい」とバリーさんは述べた。「石炭火力発電所を閉鎖すれば雇用が犠牲になるからだ」

もう1人のコンジョラ住民、高校で理科を教えているサマンサ・ニーショーさんは、スキューバダイビング用のタンクを背負ってプールに飛び込み、火災を生き延びた。今回の選挙で自分にとって最も重要な争点は気候変動だと言う。

「気候変動はとても多くの人に荒廃と破滅をもたらすだろう」とニーショーさん。「現政権が続投して、何も手を打たないというのは考えられない。この気候変動を巡る議論において、オーストラリアは非常に重要な国なのに」

<変わる勢力図>

パリ協定が掲げる「地球温暖化を2度以下に抑える」という目標の達成に向けて、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、世界全体で温室効果ガス排出を2030年までに50%削減し、2050年までに実質ゼロにする必要があるとしている。

オーストラリアはその目標から大幅に遅れており、3月にはアントニオ・グテレス国連事務総長から「非協力的」という烙印(らくいん)を押された。

モリソン首相の連立政権は、2030年までに排出量を2005年比で26─28%削減し、2050年までに排出量を実質ゼロにすることを公約したが、これは先進国では最も消極的なレベルだ。

気候変動を巡る長年の論争を経て、国内政治家の多くは、産業界や一部の有権者からの反発を恐れて、再生可能エネルギーの促進や脱化石燃料への挑戦から尻込みするようになった。

国民党党首であるバーナビー・ジョイス副首相は選挙遊説の中で、クリーン・エネルギーに向かう動きを「移行(トランジション)」とは呼ばないと発言した。「雇用喪失に等しい」というのが理由だ。野党である労働党は、わずかながら気候変動対策に積極的であり、2030年までに排出量を43%削減すると公約している。

これによって、「青緑」の無所属候補者がもっと先鋭的な排出削減目標を掲げた選挙活動を行う余地が生まれている。この勢力はすでに同国の政治に影響力を持つようになっており、既成政党を守勢に追い込んでいる。

ニューサウスウェールズ州のマット・キーン州財務相兼エネルギー相は、自由党を代表して、有権者に対し、進歩的な自由党候補者と議席を争う「青緑」候補者には特に投票しないように警告した。

キーン氏は先週末、シドニー・モーニング・ヘラルド紙に寄稿し、「進歩的な意見が中道右派政党から失われたときに何が起こるかは、米共和党を見ればわかる」と述べた。

© Reuters.  史上最悪レベルの森林火災と洪水を経験したオーストラリアでは、気候問題を重視する新たな無党派層が21日に行われる連邦総選挙に激震をもたらしかねない勢いだ。写真はニューサウスウェールズ州ブレッドボで2020年2月、消火活動を行う消防隊員(2022年 ロイター/Loren Elliott)

気候変動問題を研究するエコノミストで、オーストラリア国立大学教授のフランク・ジョッツォ氏は、より厳格な気候変動政策に向けた全般的な変化が進行していると語った。

「気候変動対策を掲げる無所属候補の何人かが、それぞれの選挙区でこれほど大きな注目と支持を集めているという事実は、勢力図を変化させるだろうし、すでに競合する政党、特に自由党との力関係は変わりつつある」

(Kate Lamb記者、翻訳:エァクレーレン)

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