■開発パイプラインの動向
(1) MN-166(イブジラスト)
MN-166は、気管支喘息及び脳梗塞発症後の治療薬として杏林製薬が1989年に日本で上市した医薬品で、すでに320万人以上の患者に処方されており、安全性に関しては良好な医薬品となっている。
メディシノバ {{|0:}}は、2004年に多発性硬化症を適応疾患として独占的・全世界(日本、中国、韓国、台湾を除く)での再許諾可能な開発販売のライセンス(点眼薬を除く)を取得し、現在は中枢神経系疾患における6つの適応領域において開発を進めている。
各開発動向は以下のとおり。
○進行型多発性硬化症 多発性硬化症は寒いところに住む20〜40代の若い白人に多い病気で、日本では非常に少なく、厚生労働省では難病指定されている疾病である。
症状としては、手足のしびれ、目が見えなくなる、失禁、歩行困難などを引き起こす。
これは神経線維を取り巻くミエリン(電線を被覆する絶縁体のようなもの)が炎症で壊れ、神経伝導がうまく伝わらなくなることで発症すると考えられている。
「進行型」とは、症状が回復することなく時間経過につれて悪化するタイプを指す。
多発性硬化症の患者数は世界で約210万人、米国で50〜80万人、日本では約1万人と言われており、このうち約半数が時の経過とともに進行型となる。
現在、治療薬としてはβインターフェロンなどの注射薬や経口薬など複数の医薬品が上市されており、世界市場で1兆5,000億円の規模となっている。
ただ、いずれも多発性硬化症の再発抑制や寛解※期間を延長する効果はあるが、進行型多発性硬化症には効果がないものが多く、多発性硬化症治療薬全般に関して言えることであるが、効果があったとしても副作用が非常にきつく、安全かつ治療効果のある医薬品がないのが現状となっている。
※寛解・・・症状が落ち着いて安定した状態 MN-166の開発状況に関しては、2013年より米国でフェーズ2の治験を開始しており、2015年5月に予定していた250人の患者登録が完了し、2017年夏頃に治験が完了する予定となっている。
同治験に関してはNIHより11.3百万ドルの助成金が得られており、クリーブランド・クリニックやNeuroNEXT(NIHの下部組織)が中心となって、全米28ヶ所の医療施設で治験が行われている。
MN-166には、病気の進行を遅らせる、またはストップさせる効果が期待されているほか、再発寛解型でも寛解期間を延長する効果が期待できるため、治験結果が注目される。
結果が良好であれば、既存薬が副作用の強い薬剤しかない中、安全性の高い経口薬であるだけに市場の注目度が一気に高まる可能性が高い。
○ALS(筋萎縮性側索硬化症) ALSとは、脳及び脊椎の神経細胞にダメージを及ぼす進行性の神経変性疾患のこと。
症状としては、手足など特定の筋肉を動かすための脳からの指令が何らかの理由で届かなくなることで筋肉が萎縮し弱まっていき、その結果、随意運動が不自由となる。
病状末期には全身の運動麻痺に至り、人工呼吸器などの補助が必要となる。
診断されてからの平均生存期間は2〜5年で、米国ALS協会によれば、米国内の患者数は約3万人、毎年5〜6千人が新たに診断されていると言う。
また、日本では約9,000人となっている。
現在承認されている治療薬としてはリルゾールがあるが、その効果は余命を数ヶ月延ばすことができるといった限定的なものであり、効果の高い治療薬の開発が望まれている。
MN-166の開発状況としては、2014年10月よりカロライナ・ヘルスケアシステムの神経科学研究所・神経筋ALS-MDAセンターにてフェーズ2の治験を開始(60人予定、2015年2月30人登録済み、期間は合計で12ヶ月間)、2015年4月の安全性に関する中間解析結果で安全性には問題がなかったことを発表している。
2015年12月には有効性についての中間解析結果を米国の学会で発表する予定(最初の30人の解析結果)となっており、その動向が注目される。
また、2015年9月には新たに酸素吸入器(NIV)のサポートを受けている進行ALS患者も治験対象に加えるプロトコル修正がFDAより承認され、新たに60名を登録して治験を行っていく予定となっている。
今後の治験スケジュールは患者登録の進捗に依存するため、フェーズ2の治験期間としてはまだ未確定となっている。
○クラッベ病治療薬 クラッベ病とは遺伝性の神経変性疾患で、米国では10万人に1人の割合で発症する希少疾病である。
現在のところ根治療法がなく、症状緩和のための補助的な治療のみが行われている。
発症時期により早期乳児型、晩期乳児型、若年発症型、成人発症型の4つのタイプに分けられているが、約9割は早期乳児型で、生後6ヶ月以内に発症するタイプである。
初期症状として、易刺激性(些細なことで過度に号泣するなど)、手足のけいれん、神経反射の欠如、授乳困難などが見られ、病気の進行とともに筋力の低下、呼吸困難、失明などとなり、多くは2歳までに死に至る。
早期乳児以降に発症するタイプは病気の進行が比較的緩やかで、生存期間も長くなる傾向にある。
クラッベ病も神経変性疾患の一種であり、多発性硬化症やALSと同種の疾病であることから、開発プログラムに組み入れた。
動物モデルでの治験では、中枢神経で生じる脱髄の軽減、神経症状・発育などの悪化の軽減といった効果が確認されている。
現在は、フェーズ2に向けた準備を進めている段階だが、2015年6月にFDAよりオーファンドラッグ指定を受けている。
クラッベ病に関しては、希少疾病で市場規模も大きくないが、開発を進めるもう1つの狙いとしてFDAが発行する「優先審査バウチャー」の取得要件に当てはまる可能性が高いことが挙げられる。
「優先審査バウチャー」は2009年にFDAが創設した制度で、開発費用に比べて市場規模が見込めない希少疾病などの治療薬の開発促進を目的としたもの。
一定要件(小児用のオーファンドラッグ、または熱帯病)を満たした新薬の製造販売承認を取得した企業に対して付与される。
同バウチャーを取得した企業は、どのような開発品でも1品目に限って承認審査を優先的に行うことが可能となる(審査期間が10ヶ月間から6ヶ月間に短縮)ほか、他の企業に売却することもできる。
新薬の開発競争が激しい中で優先審査を受けられるメリットは大きく、「優先審査バウチャー」の価値は100〜300億円とも言われている。
クラッベ病での製造販売承認を取得すれば、それだけで100~300億円の価値が生じることになるだけに、今後の開発動向が注目される。
○覚せい剤(メタンフェタミン)依存症 MN-166は覚せい剤依存症の患者を対象とした治療薬として、UCLAにてフェーズ2の治験(140人予定)を2013年より行っている。
薬物依存症患者は体内の薬物が減少すると「離脱症状」が生じ、再度薬物を使用する循環に入ることが知られているが、「離脱症状」が生じる原因として、脳内のグリア細胞の活性化が関与していることが判明している。
グリア細胞の働きを抑制する効果があるMN-166による治験に関しては国立薬物濫用研究所(NIDA)からも助成金が出ており、また、2013年2月にはFDAからファストトラックの指定も受けるなど、その治療効果にかかる期待は大きい。
米国でのメタンフェタミン使用者数は約44万人に上ると言われており、経済損失は年間で約234億ドルにも上ると言われているためだ。
ただ、治験の進捗状況は思うように進んでいないのが難点となっている。
治験対象者が治療希望の覚せい剤中毒者に限定されているほか、3回/週×12週間の外来通院による治験であるため、被験者が途中で脱落してしまうケースも多いためだ。
ただ、既に実施済みのフェーズ1b治験では治療効果が現れている患者も実際に出ていることから、今後の動向が注目される。
○オピオイド(ヘロイン、処方鎮痛剤)依存症 オピオイド依存症患者を対象とした治験は、コロンビア大学及びニューヨーク州精神医学研究所(NYSPI)にて2012年よりフェーズ2(24人予定)の段階で実施されている。
NIDAから助成金を得て治験が進んでいるが、今後4年間でさらに11百万ドルの追加助成金を得る可能性があるとの通知も受けており、覚せい剤依存症と同様、期待の大きい治験となっている。
米国での依存症患者は約190万人、うちヘロイン依存患者は約51.7万人、経済損失は年間500億ドル超と言われている。
治療薬としては複数上市されており、世界で12億ドル(2011年時点)の規模となっているが、中毒性・安全性の面から医療現場ではあまり処方されていないのが現状となっている。
○アルコール依存症 アルコール依存症の治療薬として、UCLAにてフェーズ2aの治験を2014年より開始し、2015年6月に患者登録を完了している(24人)。
国立アルコール濫用・依存症研究所(NIAAA)から助成金を得て治験を進めている。
米国のアルコール摂取障害患者数は約1,730万人で、経済損失は年間2,240億ドルと言われている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
メディシノバ {{|0:}}は、2004年に多発性硬化症を適応疾患として独占的・全世界(日本、中国、韓国、台湾を除く)での再許諾可能な開発販売のライセンス(点眼薬を除く)を取得し、現在は中枢神経系疾患における6つの適応領域において開発を進めている。
各開発動向は以下のとおり。
○進行型多発性硬化症 多発性硬化症は寒いところに住む20〜40代の若い白人に多い病気で、日本では非常に少なく、厚生労働省では難病指定されている疾病である。
症状としては、手足のしびれ、目が見えなくなる、失禁、歩行困難などを引き起こす。
これは神経線維を取り巻くミエリン(電線を被覆する絶縁体のようなもの)が炎症で壊れ、神経伝導がうまく伝わらなくなることで発症すると考えられている。
「進行型」とは、症状が回復することなく時間経過につれて悪化するタイプを指す。
多発性硬化症の患者数は世界で約210万人、米国で50〜80万人、日本では約1万人と言われており、このうち約半数が時の経過とともに進行型となる。
現在、治療薬としてはβインターフェロンなどの注射薬や経口薬など複数の医薬品が上市されており、世界市場で1兆5,000億円の規模となっている。
ただ、いずれも多発性硬化症の再発抑制や寛解※期間を延長する効果はあるが、進行型多発性硬化症には効果がないものが多く、多発性硬化症治療薬全般に関して言えることであるが、効果があったとしても副作用が非常にきつく、安全かつ治療効果のある医薬品がないのが現状となっている。
※寛解・・・症状が落ち着いて安定した状態 MN-166の開発状況に関しては、2013年より米国でフェーズ2の治験を開始しており、2015年5月に予定していた250人の患者登録が完了し、2017年夏頃に治験が完了する予定となっている。
同治験に関してはNIHより11.3百万ドルの助成金が得られており、クリーブランド・クリニックやNeuroNEXT(NIHの下部組織)が中心となって、全米28ヶ所の医療施設で治験が行われている。
MN-166には、病気の進行を遅らせる、またはストップさせる効果が期待されているほか、再発寛解型でも寛解期間を延長する効果が期待できるため、治験結果が注目される。
結果が良好であれば、既存薬が副作用の強い薬剤しかない中、安全性の高い経口薬であるだけに市場の注目度が一気に高まる可能性が高い。
○ALS(筋萎縮性側索硬化症) ALSとは、脳及び脊椎の神経細胞にダメージを及ぼす進行性の神経変性疾患のこと。
症状としては、手足など特定の筋肉を動かすための脳からの指令が何らかの理由で届かなくなることで筋肉が萎縮し弱まっていき、その結果、随意運動が不自由となる。
病状末期には全身の運動麻痺に至り、人工呼吸器などの補助が必要となる。
診断されてからの平均生存期間は2〜5年で、米国ALS協会によれば、米国内の患者数は約3万人、毎年5〜6千人が新たに診断されていると言う。
また、日本では約9,000人となっている。
現在承認されている治療薬としてはリルゾールがあるが、その効果は余命を数ヶ月延ばすことができるといった限定的なものであり、効果の高い治療薬の開発が望まれている。
MN-166の開発状況としては、2014年10月よりカロライナ・ヘルスケアシステムの神経科学研究所・神経筋ALS-MDAセンターにてフェーズ2の治験を開始(60人予定、2015年2月30人登録済み、期間は合計で12ヶ月間)、2015年4月の安全性に関する中間解析結果で安全性には問題がなかったことを発表している。
2015年12月には有効性についての中間解析結果を米国の学会で発表する予定(最初の30人の解析結果)となっており、その動向が注目される。
また、2015年9月には新たに酸素吸入器(NIV)のサポートを受けている進行ALS患者も治験対象に加えるプロトコル修正がFDAより承認され、新たに60名を登録して治験を行っていく予定となっている。
今後の治験スケジュールは患者登録の進捗に依存するため、フェーズ2の治験期間としてはまだ未確定となっている。
○クラッベ病治療薬 クラッベ病とは遺伝性の神経変性疾患で、米国では10万人に1人の割合で発症する希少疾病である。
現在のところ根治療法がなく、症状緩和のための補助的な治療のみが行われている。
発症時期により早期乳児型、晩期乳児型、若年発症型、成人発症型の4つのタイプに分けられているが、約9割は早期乳児型で、生後6ヶ月以内に発症するタイプである。
初期症状として、易刺激性(些細なことで過度に号泣するなど)、手足のけいれん、神経反射の欠如、授乳困難などが見られ、病気の進行とともに筋力の低下、呼吸困難、失明などとなり、多くは2歳までに死に至る。
早期乳児以降に発症するタイプは病気の進行が比較的緩やかで、生存期間も長くなる傾向にある。
クラッベ病も神経変性疾患の一種であり、多発性硬化症やALSと同種の疾病であることから、開発プログラムに組み入れた。
動物モデルでの治験では、中枢神経で生じる脱髄の軽減、神経症状・発育などの悪化の軽減といった効果が確認されている。
現在は、フェーズ2に向けた準備を進めている段階だが、2015年6月にFDAよりオーファンドラッグ指定を受けている。
クラッベ病に関しては、希少疾病で市場規模も大きくないが、開発を進めるもう1つの狙いとしてFDAが発行する「優先審査バウチャー」の取得要件に当てはまる可能性が高いことが挙げられる。
「優先審査バウチャー」は2009年にFDAが創設した制度で、開発費用に比べて市場規模が見込めない希少疾病などの治療薬の開発促進を目的としたもの。
一定要件(小児用のオーファンドラッグ、または熱帯病)を満たした新薬の製造販売承認を取得した企業に対して付与される。
同バウチャーを取得した企業は、どのような開発品でも1品目に限って承認審査を優先的に行うことが可能となる(審査期間が10ヶ月間から6ヶ月間に短縮)ほか、他の企業に売却することもできる。
新薬の開発競争が激しい中で優先審査を受けられるメリットは大きく、「優先審査バウチャー」の価値は100〜300億円とも言われている。
クラッベ病での製造販売承認を取得すれば、それだけで100~300億円の価値が生じることになるだけに、今後の開発動向が注目される。
○覚せい剤(メタンフェタミン)依存症 MN-166は覚せい剤依存症の患者を対象とした治療薬として、UCLAにてフェーズ2の治験(140人予定)を2013年より行っている。
薬物依存症患者は体内の薬物が減少すると「離脱症状」が生じ、再度薬物を使用する循環に入ることが知られているが、「離脱症状」が生じる原因として、脳内のグリア細胞の活性化が関与していることが判明している。
グリア細胞の働きを抑制する効果があるMN-166による治験に関しては国立薬物濫用研究所(NIDA)からも助成金が出ており、また、2013年2月にはFDAからファストトラックの指定も受けるなど、その治療効果にかかる期待は大きい。
米国でのメタンフェタミン使用者数は約44万人に上ると言われており、経済損失は年間で約234億ドルにも上ると言われているためだ。
ただ、治験の進捗状況は思うように進んでいないのが難点となっている。
治験対象者が治療希望の覚せい剤中毒者に限定されているほか、3回/週×12週間の外来通院による治験であるため、被験者が途中で脱落してしまうケースも多いためだ。
ただ、既に実施済みのフェーズ1b治験では治療効果が現れている患者も実際に出ていることから、今後の動向が注目される。
○オピオイド(ヘロイン、処方鎮痛剤)依存症 オピオイド依存症患者を対象とした治験は、コロンビア大学及びニューヨーク州精神医学研究所(NYSPI)にて2012年よりフェーズ2(24人予定)の段階で実施されている。
NIDAから助成金を得て治験が進んでいるが、今後4年間でさらに11百万ドルの追加助成金を得る可能性があるとの通知も受けており、覚せい剤依存症と同様、期待の大きい治験となっている。
米国での依存症患者は約190万人、うちヘロイン依存患者は約51.7万人、経済損失は年間500億ドル超と言われている。
治療薬としては複数上市されており、世界で12億ドル(2011年時点)の規模となっているが、中毒性・安全性の面から医療現場ではあまり処方されていないのが現状となっている。
○アルコール依存症 アルコール依存症の治療薬として、UCLAにてフェーズ2aの治験を2014年より開始し、2015年6月に患者登録を完了している(24人)。
国立アルコール濫用・依存症研究所(NIAAA)から助成金を得て治験を進めている。
米国のアルコール摂取障害患者数は約1,730万人で、経済損失は年間2,240億ドルと言われている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)