[コロンボ 1日 トムソン・ロイター財団] - スリランカで配送の仕事をしているマイケル・サジスさん(29)にとって、バイクを動かすガソリンなしでは仕事にならない。しかし、未曽有の経済危機に陥った同国では、各地のガソリンスタンドで在庫が枯渇し、燃料補給は「至難の業」になっている。
サジスさんは、時に徹夜で並んでまで補給をしなければならないケースもあった。ガソリンの入手可能場所を定期的に更新してくれるフェイスブックのグループページを見つけるまでは――。
「この経済危機にあって燃料補給は『なくした針』のように、探し出すのはほぼ不可能だ。だが、このグループはまるで磁石で、私は大して時間を無駄にせずガソリンを見つけることができた」と、サジスさんは胸をなで下ろしている。
スリランカは今、1948年の独立以来、最悪の経済危機に直面している。これは新型コロナウイルスのパンデミックで頼みの観光産業が痛手を受けたことや、原油価格高騰、政治家の人気取りで行った減税による財政悪化が重なった結果だ。慢性的な外貨不足のせいで国内のインフレは進み、燃料から医薬品、その他さまざまな生活必需品の輸入もままならない。
国民の間ではそうした事態に対処するため、フェイスブックやワッツアップ、インスタグラム、ツイッターといったソーシャルメディア・プラットフォームを活用し、必需品を見つけたり、困っている人々に届けるための募金を呼びかけたりする動きが広がっている。
ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)のデジタル人類学者、クレイグ・ライダー氏は「われわれが目にしているのは、これらのプラットフォームを革新的な方法で駆使し、燃料や他の必需品のニーズを個別かつ直接的に満たそうとしている光景だ」と説明した。
ただ、いわゆるデジタル格差が「大問題」となり、オンライン空間のアクセスに不平等さをもたらしていると付け加えた。
スリランカにおけるソーシャルメディアと社会の関係性を研究しているライダー氏は「都市と地方、北部と南部、男性と女性、富裕層と貧困層、若者と高齢者の間で(デジタル面の)格差が根強く残っている」と話した。
<国民性を反映>
世界的に見ても、ソーシャルメディア・プラットフォームは、今回のパンデミックを含めたさまざまな危機に際し、人々が資源や不可欠なサービスを手に入れるのを助けるという面で、重要性が増し続けている。パンデミック期間には、空き病床や酸素ボンベ、ワクチンの入手にフェイスブックやツイッターが活躍した。
スリジャヤワルダナプラ大学のプラサド・ジャウィーラ教授(コンピューター科学)は、スリランカの場合、多くの国民がオンライン空間の方が支援を求めやすいと感じていると指摘。「スリランカ人は一般的に、『助けて』とお願いすることは居心地が悪いと思っている。しかしソーシャルメディアなら、対面でなくプロフィールだけを通じたやり取りなので、普段と違った振る舞いができる」とトムソン・ロイター財団に語った。
マーケティング企業ケピオスのリポートによると、スリランカのインターネット利用者は1100万人余りと人口の約半分に当たり、今年初め時点でフェイスブックとツイッターの利用者は、それぞれ710万人前後と30万人近くだった。
その影響力の大きさを物語るように、政府の危機対応のまずさに対する抗議デモが一部で暴動に転じた今年4月初め、政府は「落ち着いた情勢の維持」を大義名分として、約15時間にわたって全国的にソーシャルメディア接続を遮断した。この措置を巡っては、政府内からも批判が飛び出した。
<募金活動も後押し>
インターネットを利用できないか、しにくい環境にある世帯を支援する団体に必要な物資を届けるための資金調達にも、ソーシャルメディアが活用されている。
ツイッターとインスタグラムを通じて募金活動を始めた児童文学作家のスシャンティ・ポンウィーラさんは「ソーシャルメディアは支援活動家、もしくは少なくとも活動家と接点がある人たちを見つける上で役に立った。ソーシャルメディアで彼らの活動についての更新状況を見れば、われわれが誰を信頼し、手を差し伸べるべきか判断するのに有効だった」と語り、自身の募金運動で4000ドル(140万スリランカルピー)を集めたと付け加えた。
西部と中部の貧しい家庭に毎週約1000食を提供している慈善団体、コミュニティー・ミール・シェアの共同創設者で元看護師のナディーカ・ジャヤシンゲさんは、資金の大半をオンラインで「篤志家」から調達したと明かす。4月にはネットで出会った「素敵な婦人」の好意で、一時的に食事ができる場所を確保したという。
<効果に限界も>
ツイッターは、病院が喉から手が出るほど欲しかった医薬品や現金を手に入れることにも役立った。
コロンボのある産婦人科の病院に勤務する医師は、ツイッターや他のソーシャルメディアの投稿を通じて、約300万スリランカルピー相当の医薬品や関連用品を得られたと述べ「そのおかげで患者の日々の治療を続けられるし、病院としての緊急医療対応にもプラスとなる」と感謝を口にした。
ただ、ソーシャルメディアといえども、全ての人に不足物資を届ける力はない。料理宅配アプリの配送員をしているシャキール・ハフィーズさん(37)は、先に登場したサジスさんと同じフェイスブックのグループにメンバー登録している。
ところが最近、コロンボ郊外にある自宅から約6キロ離れたガソリンスタンドに朝5時に着いたのに、すぐにガソリンがなくなってしまった。
その後、グループの更新状況を頼りに4カ所以上のスタンドに足を運んだにもかかわらず、列に並んでいる間にいずれもガソリンは在庫切れ。「ある場所では5時間以上も待ったのにガソリンはなかった。時間を浪費しただけで家に戻り、その日の配送の仕事は何もできなかった」と肩を落とした。
(Dimuthu Attanayake記者)