[上海/香港 14日 ロイター] - 中国の電池メーカーで深セン市場に上場している欣旺達電動汽車電池が14日、スイス証券取引所(SIX)に重複上場を果たした。地政学的な緊張から米国での資金調達が難しくなる中で、中国企業が米国以外の市場での調達に動いている様子が浮き彫りになった。
スイスでの上場案件は、知名度が高くて規模が大きい過去のニューヨーク上場案件に比べると規模で見劣りし、いずれも上場済みの企業ばかりだ。しかし上海市場とロンドン市場の株式相互乗り入れ制度が今年スイスとドイツに拡大されたことで、スイスでの上場を計画する中国企業は増えている。
欣旺達電動汽車電池は設備容量で民生用バッテリー業界最大手。スイス上場により4億4000万ドルを調達し、14日に株式の取引が始まった。
中国企業はこれまでに医薬品・医療機器メーカーの楽普医療器械や車載電池大手の国軒高科など計8社がグローバル預託証券(GDR)の発行を経てスイスで重複上場し、調達額は総額25億ドル余りに達している。
スイス証取への提出書類によると、さらに中国企業十数社がGDR発行によるスイス上場を計画している。
UBSの中国グローバグバンキング部門を率いるマンディー・ジュー氏は、欧州でのGDR発行は中国企業が海外市場で資本を調達する「追加的なチャネル」になると述べた。しかもそれが米国と香港での上場が落ち込むタイミングに重なった。
リフィニティブによると、中国企業による米国での上場規模は昨年には総額128億ドルだったが、今年は年初来で1億5250万ドルにすぎない。
デロイトによると、中国企業が好む香港の新規株式公開(IPO)市場も1─9月の上場規模が81%落ち込んだ。
ジュー氏はUBSが複数の中国企業とまとまった規模のGDR発行計画を進めていると述べたが、社名や目標額は明らかにしなかった。UBSは規則が整った場合のフランクフルト上場についても中国企業と協議しているという。
ジュー氏は、欣旺達のスイス上場は画期的なことで、基礎的諸条件がしっかりした中国企業は、引受幹事団が適切な投資家の特定を支援できる限り、市場環境が悪くても投資家の意欲を掻き立てることができることを示していると述べた。UBSはゴールドマン・サックスとともに今回の案件で共同グローバルコーディネーターとブックランナーを務めた。
UBSによると、欣旺達のGDR発行には申し込み期間に海外の投資家から強い引き合いがあった。そのため同社は調達額を50%近く上積みするオプションを行使し、調達規模が当初の3億ドルから膨らみ、規制当局の認める上限近くに達したという。
中国企業のスイス上場は見通しが明るい一方、規模が比較的小さい。株式相互乗り入れ制度によるスイス上場はこれまでで最も規模が大きいのが国軒高科の6億8500万ドル。
マーカム・バーンスタイン・アンド・ピンチュクのドルー・バーンスタイン共同会長は、規制面の障害がなくなり、企業監査を巡る米中対立が解消しさえすれば、中国企業にとって最良の選択肢が米市場であることに変わりはないと述べた。
「今のところ明らかに企業は選択肢が増え、市場もさまざまなものを提供している」が、多くの取引所にとって「実際のところ規模がなく、流動性もない」と言う。
(Samuel Shen記者、Scott Murdoch記者)