[ロンドン 11日 ロイター] - フロンティア市場の株式は、新型コロナウイルスのパンデミックによる急落からの立ち直りという面で、有力新興国株に比べて苦戦を強いられている。流動性が枯渇し、投資家の資金流出が相次いでいるからだ。
最近数カ月の間に、BMOグローバル・アセット・マネジメントが7800万ドルのフロンティア株ファンドを閉鎖し、アバディーン・スタンダード・インベストメンツも投資信託を手じまった。昨年にはベアリングスもフロンティア株から撤退している。
ファンドマネジャーらの話では、フロンティア株ファンドの運用総額は2014年の約150億ドルから、足元で40億ドル近くまで落ち込んだ。14年当時は、それ以前にあまりにリスクが大きいとみなされていたナイジェリアやレバノンといった数々のフロンティア市場国に、急成長や特異な投資のストーリーを期待する形で投資資金の流入が活発化したものだ。
しかしサマセット・キャピタル・マネジメントのフロンティア市場担当アシスタントマネジャー、ファーガス・アーガイル氏は「過去3年間はずっと資金が流出している」と明かした。
もっともアーガイル氏は「これはある面で幾分警戒すべきだが、別の面ではかなり心強い要素になる。既にフロンティア市場は多大な痛みを受け、あまたの資金が逃げ去っているため、それほど大きな市場心理の変化が起きなくても本格的な回復につながる」と前向きにとらえている。
資金流出が止まらない背景には、さまざまな危機や資本規制などフロンティア市場に付随する追加的なリスクに見合うだけのリターンが得られないことへの失望感がある。そして2月下旬にパンデミックが世界的な株安を引き起こして以来、投資家の落胆は一段と増大した。
なぜなら2月以降、MSCIのフロンティア市場指数<.dMI7400000PUS>は6.3%下落した一方、新興国市場指数<.dMIEF00000PUS>は同じ期間で10%上昇しているからで、幾つかのフロンティア株ファンドの運用成績はもっと低調だ。
EPFRグローバル・データによると、18年4月からはフロンティア株から毎月資金が流出しており、投資家がいかにフロンティア市場のリスクを敬遠しているかが分かる。
またコプリー・ファンド・リサーチのディレクター、スティーブン・ホールデン氏は、ファンドのうち何らかのフロンティア市場投資をしている割合は41%と過去最低で、平均ウエートも過去13年のレンジの下限に当たる0.82%にとどまっていると指摘した。
MSCIのフロンティア市場指数から近くクウェート株が除外されることも、事態悪化の一因だ。クウェート株は指数における国別ウエートが36%と最も高かったが、MSCIが今月末から新興国市場指数に区分変更する方針。フランクリン・テンプルトン・エマージング・マーケッツ・エクイティのディレクターでフロンティア市場と中東・北アフリカを担当するバッセル・カトゥーン氏は「(新興国市場指数へのクウェートの)格上げはフロンティア市場指数の安定性と全体的な流動性、およびファンドの値動きに激震をもたらした。パッシブ運用の資金フローによって基礎的条件がゆがめられているからだ」と説明した。
<ハイテク株不在>
パンデミック後に先進国全体で推定12兆ドル規模の経済対策が打ち出され、投資家がフロンティア市場から資金を引き揚げる原因になったとの声も聞かれる。
これらの経済対策は当然のごとく先進国の株価を押し上げ、有力新興国もその恩恵を受けたが、中央銀行の政策パワーが乏しいフロンティア市場国にはプラスの影響は波及していない。
フィエラ・キャピタルのフロンティア市場担当シニア・ポートフォリオマネジャー、ドミニク・ボーカーイングラム氏は「現時点では、株式市場の値動きは企業収益の伸びが左右しているわけではない。金融政策や財政政策、ロックダウンの観点からの新型コロナウイルスに対する反応といった数多くの外的要因が存在するからだ」と主張。さらに平時なら株価を動かす企業収益に関しても、上半期のフロンティア市場は米国もしくは新興国に比べてさえない内容にとどまったと付け加えた。
フロンティア株低迷の理由としては、ロックダウン期間中に活発に買われたハイテクなどの「在宅関連銘柄」の不在も挙げられる。ファンドマネジャーらの間では、ベトナムに拠点を置くFPT (HM:FPT)やモロッコのハイテク・ペイメント・システムズ (CS:HPS)などがフロンティア市場の代表的なハイテク株として人気だが、両社ともMSCIの指数には採用されていない。
対照的に米S&P総合500種 (SPX)におけるハイテク株のウエートは33%前後に上り、これらの銘柄の上昇が市場全般をけん引した。
コロネーション・ファンド・マネジャーズのグローバル・フロンティア市場責任者ピーター・リージャー氏は「アップルやマイクロソフト、アマゾンの株式のリターンは30-70%で、こうした数字に目を奪われた人々は他の銘柄のリターンを見てみる必要があると感じなくなっている」と話した。
<回復の芽>
ただ、米大統領選で民主党候補のバイデン氏が勝利を確実にして、地政学環境の予測可能性が高まったため、一部のファンドマネジャーはフロンティア株の反転上昇に賭ける動きを見せている。
一方で米中貿易摩擦が解消しない場合も、ベトナムやバングラデシュはむしろ、追い風が強まるはずだ。
サマセット・キャピタル・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ジョージ・バーチ・レイナードソン氏は「われわれはかなりポジティブだ。フロンティア市場の株価収益率(PER)はおよそ14倍で、新興国は20倍、先進国は28倍なので、大幅な割安感がある。これは歴史的にも最大級のディスカウント率と言える」と語り、新規投資を呼び込むとの期待を示した。
ラッセル・インベストメンツのシニア・ポートフォリオマネジャー、キャサリン・ハスバーグ氏は、フロンティア株は第3・四半期に入って新興国株と先進国株をアウトパフォームしており、既に立ち直りの萌芽が出てきたかもしれないと述べ、新型コロナワクチンが実用化されれば観光客が戻ってきて多くのフロンティア市場国の景気回復を後押しするだろうと予想した。
(Tom Arnold記者)