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アングル:比のNFTゲームブーム、暗号資産急落で残った巨額損失

発行済 2023-05-04 07:56
更新済 2023-05-04 08:00
© Reuters. 外国で出稼ぎ労働をしていたフィリピン人のジャン・カルロ・マクグレイさん(32)は、新型コロナウイルスのパンデミックに伴うロックダウン(都市封鎖)で身動きが取れなくなった時

[マニラ 26日 トムソン・ロイター財団] - 外国で出稼ぎ労働をしていたフィリピン人のジャン・カルロ・マクグレイさん(32)は、新型コロナウイルスのパンデミックに伴うロックダウン(都市封鎖)で身動きが取れなくなった時期に、価格が高騰していた暗号資産(仮想通貨)を活用して、故郷にいる何十人もの失業者に稼ぎを提供できる手段をついに見つけた、と思った。

マクグレイさんが着目したのは、ブロックチェーン技術と複製不可能なデジタル資産「非代替性トークン(NFT)」を駆使し、「アクシー」と呼ぶモンスターを育成して互いに対戦させ、仮想通貨を入手できるというゲーム「アクシーインフィニティ」だ。

だが、「プレーで稼ぐ」チームを結成したマクグレイさんの夢は、暗号資産急落とともにあっという間に消え失せ、100万フィリピンペソ(1万8000ドル)の損失だけが残された。

「何もなくなった。私のアクシーインフィニティの資産は無価値になったので、手放した」という。

娯楽性と投機性を兼ね備えたアクシーインフィニティは、より多くの人々を仮想通貨の世界に誘導するとみなした投資家の視線も引きつけた。

アクシーインフィニティのプレーヤーは、ゲーム内で勝ち取ったトークンの「SLP」を仮想通貨に換金できる仕組みで、しばらくの間は魅力あふれる場所になったようだ。

このゲームには、アクシーを購入する原資のないプレーヤーは「スカラー」として「マネジャー」からアクシーを借り、稼いだSLPをマネジャーと分配するスカラーシップ制度がある。

マクグレイさんはマネジャーで、チームメンバーのスカラーは当初1週間で5000-1万ペソの収入を得ていた。ただ、他のマネジャーと異なり、マクグレイさんは自らの取り分をゼロにし続け、チームメンバーが稼ぎを全額手にできるようにしていたという。

<スカラーとマネジャー>  

暗号資産ゲームの情報サイトによると、アクシーインフィニティのデイリーアクティブユーザーは、最盛期に270万人まで膨らんだ。だが、足元では約25万人に落ち込んでいる。プレーヤーの半数はフィリピンの人々で、他の多くもインドネシア、ブラジル、ベネズエラ、ペルーといった途上国が占める。

NFTゲームに投資しているイールド・ギルド・ゲームズ(YGG)は、働き口がなく、政府の支援も限られている新興国でスカラーシップを提供することを優先していると述べた。

しかし、マクグレイさんをはじめとする多くのマネジャーは、仮想通貨全般の急落に伴ってSLPの価値が2022年2月のピークから99%も下がったため、大きな損失を抱えてしまった。

22年3月、アクシーインフィニティのプレーヤーが送金に利用していたブロックチェーンからハッカーが約6億1500万ドル相当の暗号資産を盗み出したという事件も、このゲームに痛手となった。

<ぬれ手にあわ>

フィリピン人のビジネスマンで仮想通貨トレーダーでもあるクリストファー・クルスさん(36)は、アクシーインフィニティで200人のスカラーを管理するマネジャー。6割の取り分を得ることで1日当たり最大で60万ペソを手に入れていた。

「麻薬組織のボスになった気分だった。欲しいものは全部買うことができ、当時ショッピングモールで手が出ない商品などなかった」とクルスさんは振り返る。

クルスさんが管理していたスカラーの大半は高校生や、経済的に貧しい地域出身のギグワーカー(単発仕事請負労働者)。1日当たりの収入は450ペソと、首都マニラ以外の地域の最低賃金である470ペソをわずかに下回る金額に過ぎない。

あるフィリピン人の女性医師は、プレーヤーの勧誘は「極めて簡単」で、マネジャーとしての稼ぎは医師の仕事で得た収入に匹敵したと明かした。

<欲望に敗北>

マクグレイさんやクルスさん、この女性医師がゲームに参加した時点で、SLPの価値は3ペソだった。最高値は20ペソで、21年終盤に急落して現在は0.16ペソ前後。クルスさんは「もはや価値はない。ゲームをプレーするのもより難しくなった」と語り、かつて1日当たり150個は得られたSLPも、今では50個の入手も困難だと付け加えた。

多くのスカラーたちも新たな収入源を失ってゲームから離れ、宅配などのギグワーカーに戻ったり、フルタイムの学習に移行したりする生活を送っている。YGGフィリピンのマネジャー、ルイス・ブエナベンチュラ氏は「金銭的見返りのみを動機にしていたプレーヤーは、何か別の対象に向かってしまった」と指摘した。

同氏によると、YGGは関心を持つプレーヤーにアクシーのNFT貸し出しを続けているものの、これらが全て簡単に購入できるようになっているので、以前ほど必要とされていないという。

© Reuters. 外国で出稼ぎ労働をしていたフィリピン人のジャン・カルロ・マクグレイさん(32)は、新型コロナウイルスのパンデミックに伴うロックダウン(都市封鎖)で身動きが取れなくなった時期に、価格が高騰していた暗号資産(仮想通貨)を活用して、故郷にいる何十人もの失業者に稼ぎを提供できる手段をついに見つけた、と思った。写真は2018年8月、フィリピンのイムスの街でゲームをする女性(2023年 ロイター/Erik De Castro)

マニラでマーケティングの仕事をしているエレイン・ティニオさんは一時、収入アップのために毎日最大で4時間もアクシーインフィニティに熱中。最初にもうかったことで興奮してアクシーのNFTに次から次にお金をつぎ込んだ挙げ句、SLPの急落によって5カ月分の給与に等しい20万ペソの損失を被った。

「わたしたちは欲望に負けた」と悔やんでいる。

(Mariejo Ramos記者)

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