[バンコク/クアラルンプール 4日 ロイター] - 東南アジアの製造業セクターは、強い感染力を持つ新型コロナウイルスのデルタ株の広がりで身動きが取れず、半導体やゴム手袋といった製品の世界的な供給に混乱を引き起こし、この地域の景気回復を脅かしている。
今週発表された製造業を対象とする一連の調査では、東南アジアで7月の企業活動が急速に落ち込んだことが分かった。北東アジアや西欧の製造業が減速しながら、なお拡大基調を維持したのとは対照的だ。
デルタ株による東南アジア経済の動揺を増幅しているのは、地域人口6億人に対するワクチン接種の遅れだ。各国政府はワクチンの確保に苦戦し、経済コストの大きいロックダウンを実施しており、多くの工場からは労働者がいなくなった。
東南アジアは幅広く堅実な経済改革の実施や、中国に近いという地の利の恩恵で、世界でも屈指の「打たれ強い」新興地域となり、ここ数十年で起きたさまざまな危機を乗り切ってきた。だが、今回の逆風は、経済成長に新たな脅威をもたらしている。
HSBCのエコノミストチームは、インドネシアとベトナム、フィリピン、タイのワクチン接種率が低いばかりか、使用しているワクチンの効果に疑念があると解説。「つまりこれらの国の人々は現在の感染拡大だけでなく、今後さらに進化するかもしれない別の変異株に対しても脆弱な状況に置かれる。規制を導入しては解除する展開が続き、当面の成長見通しに重圧を与えそうだ」と述べた。
主として労働コストの低さと原材料の入手しやすさが競争力の源泉となっている東南アジアの製造業にとって、デルタ株感染拡大が労働力の供給に影響を及ぼし、生産が大きな制約を受ける事態になっている。
アジア第4位の自動車輸出国で主要自動車ブランドの生産拠点が置かれているタイでは、トヨタ自動車が7月に入って部品不足を理由に、現地工場3カ所の操業を停止した。
<需要満たせず>
タイの加工果物輸出企業、サイアム・アグロ・フード・インダストリーは、外国人労働者に大きく依存しており、これらの従業員がいったん本国に帰った後、国境閉鎖で戻れなくなったため、550人が必要な仕事に400人しか人員を手当てできていない。
同社社長は「毎日350トンの果物が入荷するのに、今処理できるのは250トンにとどまる。なぜなら加工に携わる人手が足りないからだ。当社の一番の出荷先である米国など、輸出市場は強い需要が存在する。問題は生産側にある」と説明した。
サムスン、フォックスコン、ナイキといった世界的な企業の工場があるベトナムの場合も、南部で操業している企業は、規制措置によって夜間は従業員を工場に立ち入らせることができなくなっている。
ベトナム統計総局が先週公表したデータに基づくと、南部の幾つかの都市や省は、7月から導入した厳しい移動制限が原因で工業生産が急低下した。
世界のゴム手袋の約67%を供給しているマレーシアでは、ロックダウンのため、多くのメーカーが6月と7月に操業を停止。その後、業界団体の訴えを受けて規制が緩和され、6割の従業員が復帰した。業界側は、全従業員が稼働できるようにしてほしいと要望しているところだ。
東南アジア製造業の混乱は、既に他の地域にも影響を与えている。例えば、ドイツの半導体メーカー、インフィニオン・テクノロジーズは、マレーシア工場の一時閉鎖で数千万ドルの損失が発生すると予想。そうした工場閉鎖が今度は、インフィニオンの取引先の自動車セクターに波及するだろう。
マレーシア・ドイツ商工会議所のバーンベック最高責任者は、マレーシアの厳格な隔離ルールが、半導体メーカーなど高付加価値製造業にとって、必要な技術専門家の確保も難しくしていると指摘した。
アナリストは、リスクは生産への打撃にとどまらないと警鐘を鳴らす。
ムーディーズ・インベスターズ・サービスは「集中的な経済構造」と政府機構の弱さがあるアジア太平洋経済は、最も痛手が大きくなると予想。「これらは低所得層を伴っており、そこが深い傷を負えば社会的なリスクが増大する公算が大きい。一部では、多大な債務負担がパンデミックに耐えるための政府の財政出動余地を限定してしまっている」と分析した。
(Orathai Sriring記者 Liz Lee記者)