Timour Azhari Andrew Mills
[バグダッド/ドーハ 3日 ロイター] - イラクの首都バグダッドにある旧米軍管理領域(グリーンゾーン)で、カタールが出資する高級ホテル、リクソス・ホテルの建設が進み、湾岸アラブ諸国による投資意欲の高まりを印象付けている。
イラクのスダニ首相は、来年バグダッドで予定するアラブ連盟サミット(首脳会議)の際、470室の豪華な客室とスイートルームを備えるこのホテルで、アラブ諸国の君主を初めとする中東諸国代表をもてなしたい考えだ。
イラク政府は現在、中東地域からの投資誘致に力を入れている。同国経済は数十年間にわたる戦争や政情不安で荒廃した一方、記録的な石油収入の恩恵で、急速に増加する少なくとも4300万人の消費需要の喚起に拍車がかかっている。
イラクは2017年に過激派組織「イスラム国」(IS)を撃退して以来、比較的平穏な状態だ。ただ、政権を握るイスラム教シーア派内の派閥争いや、最近では親イラン組織からの攻撃など、散発的な暴力が発生している。
イラクの主要貿易相手国は現在、中国、イラン、トルコだ。
だが、イラクと複雑な関係にあった湾岸アラブ諸国は、地域のライバル・イランが強力な同盟国ネットワークを通じて比類ない影響力を持つイラクにおいて、ソフトパワーを伸ばそうと、相次いで投資を約束している。これは、イランとサウジアラビアの関係が安定したことによって一部可能になった。
リクソス・ホテルのプロジェクトに出資するカタールのエスティトマール・ホールディングスのムータズ・アル・カヤット会長は、イラク政府には巨大プロジェクトを建設し、国際的な投資家を誘致する能力があると評価した上で「イラク投資の好機だ」と語った。
「イラクは安全で、以前より統制がとれている。バグダッドは今後25年間、アラブで最も重要な首都の1つになると信じている」という。
スンニ派が支配する湾岸諸国は、同派のサダム・フセイン元大統領が1990年にクウェートに侵攻した後、イラクと関係を断絶。しかし、2003年からのイラク戦争で米国主導の連合軍がフセイン氏を追放すると、イランを後ろ盾とするシーア派がイラクで主導権を握る結果となった。
<湾岸諸国と関係強化>
ただ、イラクは中東地域の敵対国同士を協力させる場としての役割を模索しており、湾岸諸国との関係拡大につながっている。2021年と22年にはサウジとイラン代表の会談を主催し、23年3月の画期的な国交正常化への道を開いた。
カタール大学湾岸研究センターのマフジョブ・ズウェイリ所長によると、サウジ、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)はその後、イラクをイランから遠ざけて「アラブの政治環境」に近づけようと、イラクとの経済関係の強化に乗り出した。
サウジは23年5月、政府系ファンドのパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)を通じてイラクへの投資資金として30億ドルを確保したと表明。その後、オフィス、店舗、6000戸以上の住宅を含む10億ドルの複合施設プロジェクトを発表した。
カタールの首長は23年6月にバグダッドを訪問し、その際にエスティトマールは2つの新しい住宅都市、5つ星ホテルの開発、病院の管理・運営に関する契約など、70億ドル相当の覚書を交わした。
ドバイ商工会議所(DCC)のアブドゥル・アジズ・アル・グレール会頭は「イラクは巨大な国だ。大きな可能性を秘めている。彼らはおそらく、最大かつ最良のパートナーはこの(湾岸)地域から来るべきだと気付いている」と語った。
DCC会員企業からの輸出は、昨年上半期に96%近く急増した。
イラクのエネルギー部門は同国の電力の最大40%を供給しているイランにとって影響力の鍵を握っていると言え、湾岸諸国はそこにも関心を示している。
カタールは昨年、仏トタルエナジーズ主導のイラクでのガス回収・石油生産開発事業(270億ドル)に25%出資した。また、カタールのUCCホールディングは、合計2400メガワットの2つの発電所を開発する25億ドルの覚書に調印した。
UAEを拠点とするクレッセント・ペトロリアムは昨年、イラク南部のバスラ、ディヤラ両州で天然ガス田を開発する3つの20年契約に調印した。サウジのACWAパワーは1000メガワットの太陽光発電所を計画している。
また、イラクはクウェート、そして将来的にはサウジと送電網を結ぶ計画を進めている。
<親イラン組織の攻撃>
イランがイラクにおける湾岸諸国のプレゼンスの高まりにどう反応するかは分からない。足元では暴力が増加しており、現在の比較的安定した状態のもろさを浮き彫りにしている。
イラク駐留米軍に対する親イラン武装組織によるロケット弾やミサイルの攻撃はほぼ毎日、4カ月以上続いている。1月にはイラクのクルド人自治区に対するイランの弾道ミサイル攻撃があり、著名なビジネスマンが死亡した。
投資家の多くは、イラクにおける汚職の蔓延(まんえん)や息苦しい官僚主義にも懸念を抱いている。
湾岸研究センターのツバイリ氏は、湾岸諸国による対イラク投資について「政治的、経済的に良い影響をもたらすかどうかは分からない」と述べ、汚職や政争を懸念材料に挙げた。