■業績動向
1. 業績を見るためのポイント
一般の事業会社の売上高に当たるものが営業収益であり、保有物件を系列REITなどに売却することにより得られる売却収入が大部分を占めている。
ただ、売却収入は売却するタイミングにより大きく増減する上、必ずしも利益の伸びと連動するものではないため、業績を見る指標としては適切とは言えない。
本業(主に手数料収入で稼ぐ不動産ファンドビジネス)における業績指標としては、営業総利益に注目するのが妥当である。
ただ、不動産投資事業における損益は、営業総利益として計上されるもののほかに、特別損益(有形固定資産の売却に伴う損益)として計上されるものがあるため、資金調達にかかる支払金利(営業外費用)も合わせて総合的に判断することが必要となる。
したがって、総合的な収益力を示す最終損益(純利益)の動きも重要であることは言うまでもない。
なお、ケネディクス (T:4321)では、アセットマネジメント事業と不動産関連事業の営業総利益を足し合わせたものから、販管費及び一般管理費を控除したものを「ベース利益」として重視しており、同社の安定的な収益力を示す指標となっている。
また、不動産投資事業についても、関連する損益を合算した「不動産投資損益」を指標としている。
したがって、大まかな捉え方をすれば、同社の最終損益(純利益)は、「ベース利益」と「不動産投資損益」によって構成されており、「ベース利益」は受託資産残高に連動して着実に積み上がる一方、「不動産投資損益」は自己勘定投資(約800億円程度)の10%を目標投資リターンとする運用の成果とみなすことができる。
2. 収益体系
(1) アセットマネジメント事業
アセットマネジメント事業は4つの手数料が収益源となっている。
特に、受託資産残高に対して毎期、安定的な収益が期待できるアセットマネジメントフィーが同社の収益基盤を支えている。
(2) 不動産関連事業
不動産関連事業は、不動産管理業務(プロパティマネジメント等)や不動産を利用した運営業務(サービスオフィス等)による手数料収入が収益源となっている。
(3) 不動産投資事業
自己勘定投資による賃貸事業損益や不動産売却損益のほか、匿名組合分配損益などが収益源となっている。
特に、不動産売却損益は不動産市況の影響を直接受けやすいところに特徴がある。
また、前述のとおり、不動産投資事業における損益は、営業総利益として計上されるもののほかに、特別損益として計上されるものがあるため、資金調達にかかる支払金利と合わせて総合的に判断する必要がある。
3. 2017年12月期決算の概要
2017年12月期の業績は、営業収益が前期比15.8%増の26,349百万円、営業利益が同28.9%増の12,285百万円、経常利益が同7.7%増の11,455百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同3.6%増の10,516百万円と期初予想を上回る増収増益を達成した。
また、受託資産残高も前期末比17.6%増の2兆33億円(前期末比3,003億円増)と順調に拡大している。
事業別の営業総利益を見ると、「アセットマネジメント事業」が受託資産の拡大に伴って大きく伸びた。
一方、「不動産関連事業」は先行費用の発生※1等によりわずかに減益となった。
また、「不動産投資事業」が縮小しているのは、1)一部フィー収入の振り替わり※2や、2)海外案件を含めた複数案件の後ろ倒し(期ずれ)によるものであり、特に1)による影響を考慮すれば、「不動産投資事業」も好調に推移したと評価するのが妥当である。
※1 サービスアパートメント事業に関する初期費用(家具の入れ替えなどを含む)。
※2 「不動産投資事業」でのキャピタルゲインとして見込んでいた損益(約20億円)が、フィー収入として「アセットマネジメント事業」(その他フィー収入)に振り替わったもの。
なお、安定的な収益力を示す指標として重視する「ベース利益」が前期比123.3%増の67億円(計画は40億円)と大きく伸びた一方、不動産投資事業からの「不動産投資損益」が同43.7%減の49億円(計画は87億円)と計画を下回ったのは、前述のとおり、一部フィーの振り替わり等によるものであり、実態としてはおおむね計画どおりにバランスよく拡大していると評価することができる。
また、注目すべきは、着実に成長してきた安定的な手数料収益(AMフィーやPMフィーなど)により、販管費を賄うことができる収益構造に変化してきたところである。
受託資産残高は、前述のとおり、2兆33億円(前期末比17.6%増)と順調に拡大し、目標の1兆9,000億円をクリアした。
そのうち、ベースAUMについても、REIT(メインスポンサー)や私募ファンドの伸びにより1兆3,732億円(同17.1%増)と大きく伸びている。
REIT(メインスポンサー)については、KRR(商業施設等)※1及びKPI(大型オフィス及びホテル等)※2が積極的な物件供給により大きく伸長した。
また、これまでの縮小傾向にあった私募ファンドについても大きく底を打ち、増加に転じている。
下期に大型案件の組成※3があったほか、インフラファンドや住宅、ホテルなどの開発ファンドなどが寄与している。
※1 KRRは、ケネディクス商業リート投資法人の略。
※2 KPIは、ケネディクス・プライベート投資法人の略。
※3 横浜みなとみらい地区における三菱重工横浜ビル(新規コアファンドの組成)及びその隣接地(開発用地)への投資(開発ファンドの組成)によるもの。
財務面では、連結対象不動産の増加等により総資産が前期末比5.7%増の190,761百万円に拡大した一方、自己資本も積極的な株主還元(自己株式の取得や配当金の支払い)を実施ながらも同4.9%増の91,949百万円に増加したことから、自己資本比率は48.2%(前期末は48.6%)とほぼ横ばいで推移した。
有利子負債もノンリコースローンの増加により前期末比5.9%増の80,500百万円に拡大している。
ただ、財務の安全性は維持されており、資本効率性を重視した資本政策は高く評価できる。
4. 2017年12月期における投資実績
不動産投資事業における自己勘定投資については、自己資本の範囲内という方針のもと、約332 億円(前年は約340億円)の新規投資を実行した。
注目すべきは、大型案件(横浜みなとみらい地区)の獲得に向けた隣接地(開発用地)の取得(約74.4億円)のほか、KRR向けの商業施設(約31.6億円)や米国西海岸の賃貸住宅への投資(約38.5億円)、マレーシアでのオフィスビルの取得(約41.2億円)※1などが挙げられる。
一方、投資元本の回収についても、REIT 向けのブリッジファンドやREIT 投資証券(私募REIT)等から約401億円を回収しており、いわゆる「リサイクル投資」※2を繰り返しながら、投資先行状態が解消してきたと言える。
※1 2018年1月にスポンサーサポートする「AmanahRaya REIT」へ売却済。
※2 回収資金の中から新規投資を行う資金循環により、投資元本を増やさない同社の投資方針。
2017年12月末の投資金額総額(投資エクスポージャー)679億円の内訳を見ても、ブリッジや開発などが比率を下げた(手離れした)一方、コアや海外案件が増えており、分散された投資エクスポージャーを構築している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田 郁夫)
1. 業績を見るためのポイント
一般の事業会社の売上高に当たるものが営業収益であり、保有物件を系列REITなどに売却することにより得られる売却収入が大部分を占めている。
ただ、売却収入は売却するタイミングにより大きく増減する上、必ずしも利益の伸びと連動するものではないため、業績を見る指標としては適切とは言えない。
本業(主に手数料収入で稼ぐ不動産ファンドビジネス)における業績指標としては、営業総利益に注目するのが妥当である。
ただ、不動産投資事業における損益は、営業総利益として計上されるもののほかに、特別損益(有形固定資産の売却に伴う損益)として計上されるものがあるため、資金調達にかかる支払金利(営業外費用)も合わせて総合的に判断することが必要となる。
したがって、総合的な収益力を示す最終損益(純利益)の動きも重要であることは言うまでもない。
なお、ケネディクス (T:4321)では、アセットマネジメント事業と不動産関連事業の営業総利益を足し合わせたものから、販管費及び一般管理費を控除したものを「ベース利益」として重視しており、同社の安定的な収益力を示す指標となっている。
また、不動産投資事業についても、関連する損益を合算した「不動産投資損益」を指標としている。
したがって、大まかな捉え方をすれば、同社の最終損益(純利益)は、「ベース利益」と「不動産投資損益」によって構成されており、「ベース利益」は受託資産残高に連動して着実に積み上がる一方、「不動産投資損益」は自己勘定投資(約800億円程度)の10%を目標投資リターンとする運用の成果とみなすことができる。
2. 収益体系
(1) アセットマネジメント事業
アセットマネジメント事業は4つの手数料が収益源となっている。
特に、受託資産残高に対して毎期、安定的な収益が期待できるアセットマネジメントフィーが同社の収益基盤を支えている。
(2) 不動産関連事業
不動産関連事業は、不動産管理業務(プロパティマネジメント等)や不動産を利用した運営業務(サービスオフィス等)による手数料収入が収益源となっている。
(3) 不動産投資事業
自己勘定投資による賃貸事業損益や不動産売却損益のほか、匿名組合分配損益などが収益源となっている。
特に、不動産売却損益は不動産市況の影響を直接受けやすいところに特徴がある。
また、前述のとおり、不動産投資事業における損益は、営業総利益として計上されるもののほかに、特別損益として計上されるものがあるため、資金調達にかかる支払金利と合わせて総合的に判断する必要がある。
3. 2017年12月期決算の概要
2017年12月期の業績は、営業収益が前期比15.8%増の26,349百万円、営業利益が同28.9%増の12,285百万円、経常利益が同7.7%増の11,455百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同3.6%増の10,516百万円と期初予想を上回る増収増益を達成した。
また、受託資産残高も前期末比17.6%増の2兆33億円(前期末比3,003億円増)と順調に拡大している。
事業別の営業総利益を見ると、「アセットマネジメント事業」が受託資産の拡大に伴って大きく伸びた。
一方、「不動産関連事業」は先行費用の発生※1等によりわずかに減益となった。
また、「不動産投資事業」が縮小しているのは、1)一部フィー収入の振り替わり※2や、2)海外案件を含めた複数案件の後ろ倒し(期ずれ)によるものであり、特に1)による影響を考慮すれば、「不動産投資事業」も好調に推移したと評価するのが妥当である。
※1 サービスアパートメント事業に関する初期費用(家具の入れ替えなどを含む)。
※2 「不動産投資事業」でのキャピタルゲインとして見込んでいた損益(約20億円)が、フィー収入として「アセットマネジメント事業」(その他フィー収入)に振り替わったもの。
なお、安定的な収益力を示す指標として重視する「ベース利益」が前期比123.3%増の67億円(計画は40億円)と大きく伸びた一方、不動産投資事業からの「不動産投資損益」が同43.7%減の49億円(計画は87億円)と計画を下回ったのは、前述のとおり、一部フィーの振り替わり等によるものであり、実態としてはおおむね計画どおりにバランスよく拡大していると評価することができる。
また、注目すべきは、着実に成長してきた安定的な手数料収益(AMフィーやPMフィーなど)により、販管費を賄うことができる収益構造に変化してきたところである。
受託資産残高は、前述のとおり、2兆33億円(前期末比17.6%増)と順調に拡大し、目標の1兆9,000億円をクリアした。
そのうち、ベースAUMについても、REIT(メインスポンサー)や私募ファンドの伸びにより1兆3,732億円(同17.1%増)と大きく伸びている。
REIT(メインスポンサー)については、KRR(商業施設等)※1及びKPI(大型オフィス及びホテル等)※2が積極的な物件供給により大きく伸長した。
また、これまでの縮小傾向にあった私募ファンドについても大きく底を打ち、増加に転じている。
下期に大型案件の組成※3があったほか、インフラファンドや住宅、ホテルなどの開発ファンドなどが寄与している。
※1 KRRは、ケネディクス商業リート投資法人の略。
※2 KPIは、ケネディクス・プライベート投資法人の略。
※3 横浜みなとみらい地区における三菱重工横浜ビル(新規コアファンドの組成)及びその隣接地(開発用地)への投資(開発ファンドの組成)によるもの。
財務面では、連結対象不動産の増加等により総資産が前期末比5.7%増の190,761百万円に拡大した一方、自己資本も積極的な株主還元(自己株式の取得や配当金の支払い)を実施ながらも同4.9%増の91,949百万円に増加したことから、自己資本比率は48.2%(前期末は48.6%)とほぼ横ばいで推移した。
有利子負債もノンリコースローンの増加により前期末比5.9%増の80,500百万円に拡大している。
ただ、財務の安全性は維持されており、資本効率性を重視した資本政策は高く評価できる。
4. 2017年12月期における投資実績
不動産投資事業における自己勘定投資については、自己資本の範囲内という方針のもと、約332 億円(前年は約340億円)の新規投資を実行した。
注目すべきは、大型案件(横浜みなとみらい地区)の獲得に向けた隣接地(開発用地)の取得(約74.4億円)のほか、KRR向けの商業施設(約31.6億円)や米国西海岸の賃貸住宅への投資(約38.5億円)、マレーシアでのオフィスビルの取得(約41.2億円)※1などが挙げられる。
一方、投資元本の回収についても、REIT 向けのブリッジファンドやREIT 投資証券(私募REIT)等から約401億円を回収しており、いわゆる「リサイクル投資」※2を繰り返しながら、投資先行状態が解消してきたと言える。
※1 2018年1月にスポンサーサポートする「AmanahRaya REIT」へ売却済。
※2 回収資金の中から新規投資を行う資金循環により、投資元本を増やさない同社の投資方針。
2017年12月末の投資金額総額(投資エクスポージャー)679億円の内訳を見ても、ブリッジや開発などが比率を下げた(手離れした)一方、コアや海外案件が増えており、分散された投資エクスポージャーを構築している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田 郁夫)