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複合災害(新型コロナ×モンスーン)のリスクに直面したインド

発行済 2020-06-02 10:35
更新済 2020-06-02 10:41
© Reuters.  複合災害(新型コロナ×モンスーン)のリスクに直面したインド

いまだに多くの国がコロナショックに苦しむ中、またもや自然災害の襲来である。

インド気象局が使用するサイクロンの強度区分で最も強い「スーパーサイクロン」となったサイクロン「アンファン」は、5月20日にベンガル湾から上陸しインド東部やバングラデシュに大きな被害を及ぼした。

インドでのスーパーサイクロンの発生は、1999年に1万人もの犠牲者を出したオディシャサイクロン以来21年ぶりであり、5月21日のBBCの報道によれば、少なくともインドで72人、バングラデシュで12人の死者が確認されている。

両国で300万人が避難し、5万5千戸以上が全壊したとの報道もあり、被害の全容がわかるまでには数日かかるとみられる。

世界保健機関(WHO)が公表しているデータによれば、インドでは1月末に最初の新型コロナウイルス感染者が確認されてから、1か月ほどは累積感染者が5人にとどまっていた。

しかし、3月に入ってから感染が急拡大し、5月20日の時点では累積感染者が106,750人、累積死亡者数が3,303人に達していた。

感染拡大を防止するためにロックダウンを実施中で、通常避難所となる学校等はすでに隔離施設として使用されていたこともあり、州政府が実施する被災者救助や避難所開設は極めて困難な状況に直面している。

インドでも自然災害は多く発生しており、ベルギーのルーヴァン・カトリック大学災害疫学研究センター(CRED)が作成している国際災害データベースの統計によれば、1900年から2019年までにインドで発生した自然災害は729件で、アジアでは自然災害が多いとされる日本の約2倍となっている。

発生件数では、洪水等災害が301件、サイクロン等暴風災害が199件と突出して多く、合わせて総発生件数の68.6%を占め、この2つの自然災害による死亡者数も24万人を超える。

しかし、インドで最も多くの死亡者を出す自然災害は、様々な原因で発生する伝染病である。

発生件数は69件と洪水やサイクロンの7分の1に過ぎないが、死亡者数は454万人に上り自然災害による全死亡者数の50%を占める。

こうしたインドの特性からも、今回のサイクロンによる災害が新型コロナウイルスの感染拡大に及ぼす影響が強く懸念される。

6月1日時点で、インドでの累積感染者数は190,535人、累積死亡者数は5,394人に達している。

5月20日時点での累積感染者数を100とすると、5月21日以降、105.3、111.0、117.2、123.5、130.1、136.2、142.2、148.3、155.3、162.8、170.6、178.5と感染拡大のペースにいまだ衰えは見えないが、死亡者数は比較的抑制されている。

5月20日時点の累積感染者数に対する累積死亡者数から算出した死亡率を100とすると、5月21日の98.8から、97.8、96.1、94.8、93.6、92.6、92.4、92.5、91.7、92.5、91.6、91.5と多少の振れ幅はあるものの着実に減少傾向にあった。

感染拡大のペースよりも死亡者数増加のペースが低いということになる。

現状では医療体制は維持されているとみられるが、サイクロンによる避難等が長期化すれば新型コロナウイルスの感染状況に影響を与える可能性は否定できない。

日本感染症学会によれば、新型コロナウイルスの潜伏期間は1~14日、平均5.8日とされており、サイクロンによる感染状況への影響が表面化するのはもう少し先になると思われる。

こうした状況に加えて、22日には西部ラジャスタン州で熱波が発生し、一部の地域では最高気温が46.6℃に達した。

インド気象局は北部や中部、西部の一部の州で27日まで熱波が発生するとして警報を発表していた。

インドでは、こうした異常気温による災害が全自然災害に占める割合は低く、発生件数で8%、死亡者数では0.2%に過ぎない。

しかし、サイクロンによる被害や新型コロナウイルスの感染拡大と複合されれば、その影響度は何倍にもなる可能性がある。

複合災害の危険性に常に直面している日本として、今後のインドの状況から目が離せない。

サンタフェ総研上席研究員 米内 修防衛大学校卒業後、陸上自衛官として勤務。

在職間、防衛大学校総合安全保障研究科後期課程を卒業し、独立行政法人大学評価・学位授与機構から博士号(安全保障学)を取得。

2020年から現職。

主な関心は、国際政治学、国際関係論、国際制度論。

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