新田裕貴
[東京 31日 ロイター] - 政府が主導して地方銀行の経営統合・合併の環境を整備する一方で、銀行側がそのメリットを見いだせておらず、今後も大きな進展は期待できないとみる市場関係者は多い。しかし、地銀の経営を取り巻く環境は既に厳しく、今後は新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた企業支援という責務も増す。金融庁は少しでも余力のあるうちに進むべき道を決断するよう呼びかけており、体力の弱い地銀にとっては正念場となりそうだ。
<相次ぐ支援策もメリット感じない銀行>
地方経済の再生を掲げる菅義偉首相の「地銀の数が多すぎる」との発言を皮切りに、日銀と政府は地銀の経営統合・合併を促す支援策を相次いで打ち出した。
日銀は、経営基盤を強化、もしくは経費率(OHR)を改善した地域金融機関を対象に日銀当座預金に0.1%の特別付利を与える制度を導入した。政府も独占禁止法を適用しない特例法を施行、来年夏には補助金制度も創設する予定だ。
一方で、市場の受け止め方には温度差がみられる。ある銀行アナリストは、これまで経営統合が進まなかったのは、銀行自身が現状維持を上回るメリットを感じられなかったためだと指摘する。「その状況が大きく変わってきているわけではない」といい、来年以降も、再編の動きに大きな進展はないとの見方だ。日銀の特別付利についても「ほとんどの銀行はOHRの面での活用を念頭に置いている。それをきっかけに再編しようという動きは、極めて限られる」と話す。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の安岡勇亮アナリストは、大手地銀を交えた再編の動きに至るにはまだ距離があるとみている。大手地銀も低収益に陥っており余裕がなく「(インセンティブで)多少の後押しがあったとしても、今動く状況にはない」という。
<リーマン時より厳しい経営環境>
政府が地銀再編を必要と考える背景には、地銀を取り巻く経営環境の悪化が要因にある。過去を振り返っても、地銀再編を巡る議論が加速したのはリーマン・ショックなど金融危機が起き業績が低迷した時だが、いずれの時もドラスティックな再編は起きず、現在でも100以上の地銀が存在している。
しかし、足元では低金利や人口減少、フィンテックの台頭に加え、新型コロナ感染拡大により地銀の経営は厳しさを増している。金融庁のまとめによると、地銀103行が発表した2020年度中間決算の純利益は前年同期比11.5%の減益。利ざやで稼ぐことができたリーマン・ショック時とは、状況が大きく変化している。
さらにこれからは、コロナ禍で苦しむ地域企業を支えるという局面が、資金繰りから企業再編・再生へと移っていく。資金繰りでは政府の実質無利子・無担保融資などに下支えされた部分があるが、企業再編・再生の段階となると政府の支援がなくなり、地銀自身がある程度のリスクを取って融資することなども必要となってくる。
ある金融庁幹部は「そういう時にどのくらい力があるかが問題になってくる」と話し、経営基盤の弱い地銀では、地域企業を支え地域経済に貢献するのが難しいとの認識を示す。
<「経営者は将来を考えるべき」>
今後は、とりわけ人口減少が深刻な地域を基盤とする地銀の経営環境はさらに厳しくなると予想される。UBS証券の足立正道チーフエコノミストは、来年以降に経営の効率化につながる再編が起きない場合は、数年から10年のうちに国の管理下に置かれる地銀が出てくると予想。今後、利益増が見通せない地銀を中心に「(インセンティブを)この機会に活用しない手はない」と考える。
先のある金融庁幹部も、再編に後ろ向きな地銀について「5年後、10年後を考えるのが今の経営者の仕事だ」と述べ、将来を見据えた行動を取るべきだと指摘する。地域の企業を支え地域経済を活性化させる役割を担う地銀にとって経営基盤の強化は不可欠で、そのためにコスト削減やビジネスモデルの転換などと並んで、経営統合・合併も選択肢の一つになるという。
「まだ余力がある今のうちに将来を見通し、アクションを起こしていかなければいけない」と話している。
(新田裕貴 編集:田中志保)