神鋼商事<8075>(東証プライム)は鉄鋼製品、鉄鋼原料、非鉄金属、機械・情報、溶接材料・機器を扱う商社である。KOBELCO(神戸製鋼グループ)の中核商社として、グループビジネスの深化やSDGsを意識した環境リサイクルビジネスの拡大などを追求している。22年3月期は取扱数量増加や価格上昇などで前回予想を上回る大幅増益で着地した。そして23年3月期も経常増益(過去最高)予想としている。不透明感を考慮して小幅経常増益予想にとどめているが、さらに上振れ余地がありそうだ。積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。株価は3月の年初来高値圏から利益確定売りで一旦反落したが、決算発表を機に反発している。自律調整を交えながら上値を試す展開を期待したい。
■KOBELCO(神戸製鋼グループ)の中核商社
神戸製鋼所<5406>系で、KOBELCO(神戸製鋼グループ)の中核商社として鉄鋼製品(鋼板製品、線材製品など)、鉄鋼原料(輸入鉄鋼原料、合金鉄、コークスブリーズなど)、非鉄金属(銅製品、アルミ製品、非鉄金属地金・スクラップなど)、機械・情報(ゴム・タイヤ機械、製鉄・非鉄機械、化学機械、環境関連機器、電池用材料、液晶用材料、PC部品など)、溶接材料・機器(溶接材料、溶接関連機器、溶接ロボットシステムなど)を扱う商社である。
21年9月には、日新イオン機器(NIC)から半導体・FPD用イオン注入装置の製造を手掛ける中国・NIHY(揚州)の株式を買い取り、社名を神商精密器材(揚州)に変更して子会社化した。21年11月には、子会社の神鋼商事メタルズがベトナムにアルミ切断加工販売会社を設立(22年4月稼働予定)すると発表した。21年12月には子会社のSCWが日本エア・リキード合同会社から大半の溶接関連資機材事業を譲り受けた。
22年3月期のセグメント別(その他を除く5セグメント)の経常利益構成比は鉄鋼が42%、鉄鋼原料が9%、非鉄金属が31%、機械・情報が17%、溶材が3%だった。鉄鋼、鉄鋼原料、非鉄金属は、取扱数量と市況の影響を受けて収益が変動しやすい特性がある。
■収益力・商社機能の強化および投資の促進を推進
中期経営計画(22年3月期~24年3月期)では「明日のものづくりを支え社会に貢献する商社」を目指し、目標数値に最終年度24年3月期経常利益95億円(鉄鋼41億円、鉄鋼原料13億円、非鉄金属23億円、機械・情報13億円、溶材5億円)以上、ROE9%以上、ROA3%以上、自己資本比率20%以上、D/Eレシオ1.0倍程度を掲げている。
基本戦略としてM&Aも積極活用し、収益力の強化(関係会社の機能最適化と戦略的活用、事業ポートフォリオ見直し)、商社機能の強化(グループビジネスの深化の追求、SDGsを意識した環境リサイクルビジネスの拡大、海外拠点主導のビジネス開拓、新事業開発の強化、DX時代に適したビジネスモデルの創出・提案)、投資の促進(北米・アジアでのサプライチェーンの深化と創造、事業投融資の加速、製造拠点の設備投資)などの戦略を推進している。
投資額は3年合計200億円としている。内訳は自動車向け鋼材加工事業(中国、北米)に20億円、環境リサイクル事業(日本、東南アジア)に30億円、アルミ加工事業(北米、中国、東南アジア)に80億円、M&Aによる流通再編(日本、東南アジア)に20億円、その他・海外チャンネル拡大・サプライチェーン強化に50億円としている。
鉄鋼は海外(中国、米国など)拡販や海外現地需要取り込み、鉄鋼原料は鉄スクラップとバイオマス燃料の取り扱い拡大、非鉄金属は半導体・自動車向け部材やエアコン用銅管の取り扱い拡大、機械・情報は建設機械部品の海外取り扱い拡大、溶材はM&Aによる流通再編や販売機能の強化を推進する。
株主還元の基本方針は、財務体質の強化と将来の事業展開に必要な内部留保等を考慮しつつ、連結配当性向30%を目標に安定的な配当を維持するとしている。
■サステナビリティ戦略も推進
重点分野としてはEV・自動車軽量化関連と資源循環型ビジネス関連を掲げ、サステナビリティ戦略として、リサイクル事業(鉄スクラップのグローバル拡販)、バイオマス事業(バイオマス燃料の安定供給、供給事業化)、雑電線屑の再資源化などを推進している。
21年12月にはバイオマス燃料(PKS)のGGL認証を取得した。持続可能な社会の実現に向けた取り組みを一層強化し、更なるバイオマス燃料の取り扱い拡大を図ることで低炭素社会の実現に寄与する。
22年1月には、内閣府や経済産業省などが推進する取引先を含めたすべてのサプライチェーンの共存共栄と新たな連携を目的とした「パートナーシップ構築宣言」に賛同し、全国中小企業振興機関が運営するポータルサイトに公表した。取引事業者全体の共存共栄と新たな連携を目指すとしている。
さらに22年4月1日付で、サステナビリティ基本方針と重要課題(マテリアリティ)を制定するとともに、取締役会の諮問機関としてサステナビリティ委員会を設置した。サステナビリティへの取り組みをより一層強化するため推進体制を構築した。
■22年3月期大幅増益、23年3月期経常増益予想、さらに上振れ余地
22年3月期の連結業績(収益認識会計基準適用のため売上高の前期比増減率は非記載、利益への影響なし)は、売上高が4943億51百万円、営業利益が21年3月期比2.3倍の100億54百万円、経常利益が2.4倍の97億26百万円、親会社株主帰属当期純利益が3.2倍の71億36百万円だった。配当は195円増配の245円(第2四半期末85円、期末160円)とした。
なお収益認識会計基準適用の影響額として、従来方法に比べて売上高と売上原価がそれぞれ7268億67百万円減少している。また工事契約について原価回収基準に変更した影響で、従来方法に比べて売上高と売上原価がそれぞれ2億75百万円増加している。
自動車向けを中心とする需要回復に伴い、鉄鋼や非鉄金属における取扱数量増加や価格上昇などが牽引し、前回予想を上回る大幅増益だった。経常利益は過去最高を更新して着地した。営業外収益では持分法投資利益が2億03百万円増加、営業外費用では売掛債権譲渡損が3億14百万円増加、特別利益では負ののれん発生益1億83百万円を計上、債務免除益7億29百万円を計上、投資有価証券売却益が6億52百万円減少、特別損失では減損損失が9億39百万円減少、投資有価証券評価損が5億22百万円減少した。
セグメント別利益(経常利益)は、鉄鋼が需要回復による取扱数量増加・鋼材市況価格上昇や北米子会社の業績回復で6.7倍の41億32百万円、鉄鋼原料が神戸製鋼所向け取扱数量増加や価格上昇で2.3倍の7億18百万円、非鉄金属が銅製品・アルミ製品・非鉄原料の取扱数量増加で63.6%増の30億33百万円、機械・情報が建機部品・電池関連材料・半導体検査装置・工事の増加で29.2%増の15億82百万円、溶材が建築鉄骨・建機・造船・自動車向けの好調に事業譲受効果も寄与して2.3倍の3億24百万円だった。
なお四半期別に見ると、第1四半期は売上高が1139億44百万円で経常利益が23億26百万円、第2四半期は売上高が1102億32百万円で経常利益が24億80百万円、第3四半期は売上高が1270億88百万円で経常利益が26億58百万円、第4四半期は売上高が1430億87百万円で経常利益が25億05百万円だった。
23年3月期の連結業績予想は、売上高が22年3月期比9.2%増の5400億円、営業利益が3.5%減の97億円、経常利益が9.0%増の106億円、親会社株主帰属当期純利益が1.4%減の70億円としている。配当予想は22年3月期比5円減配の240円(第2四半期末120円、期末120円)としている。
運賃増加や連結範囲変更などで小幅営業減益だが、全体として22年3月期の事業環境が継続し、さらに北米エネルギー市場回復も見込んで経常増益予想としている。
セグメント別利益(経常利益)計画は、鉄鋼が鋼材価格上昇(10億円増益)などで11億円増加の52億円、鉄鋼原料が原料炭価格上昇による子会社の利益増加(5億円増益)などで4億円増加の11億円、非鉄金属が取扱数量増加(6億円増益)だが運賃等の販管費増加(10億円減益)などで5億円減少の25億円、機械・情報が連結範囲変更の影響(2億円減益)などで3億円減少の13億円、溶材が事業譲受による溶接材料取扱数量増加(1億円増益)などで2億円増加の5億円としている。
23年3月期も取扱高増加(過去最高)で経常増益(過去最高)予想としている。不透明感を考慮して小幅経常増益予想にとどめているが、さらに上振れ余地がありそうだ。積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。
■株価は上値試す
株価は3月の年初来高値圏から利益確定売りで一旦反落したが、決算発表を機に反発している。自律調整を交えながら上値を試す展開を期待したい。5月20日の終値は3730円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS790円00銭で算出)は約5倍、今期予想配当利回り(会社予想の240円で算出)は約6.4%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS7107円83銭で算出)は約0.5倍、時価総額は約330億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)