[ニューヨーク 5日 ロイター] - 米IT業界は今年、大規模な人員削減のあおりで人材多様化の取り組みが後退し、女性や人種的マイノリティー、ひいてはキャリアの長い人々にとって試練の年になりそうだ。
調査会社のデータによると、IT企業が昨年来進めてきた大規模削減では、女性と中堅社員が相対的に多く解雇されている。
米大手IT企業は近年、人材採用を強化するとともに「多様性、公平性、包括性(DEI)」を優先課題に掲げてきた。しかし、2020年半ばからは人員余剰、金利上昇、企業と消費者の行動変化といった問題に見舞われ、大規模な人員削減を発表している。これにより、多様性向上の取り組みがリスクにさらされている。
アマゾン・ドット・コムのアンディー・ジャシー最高経営責任者(CEO)は4日、同社の人員削減規模が1万8000人以上に拡大することを明らかにした。顧客管理ソフト大手のセールスフォースは同日、従業員を約10%削減する計画を発表した。
メタ・プラットフォームズ、アマゾン、ツイッター、写真・動画共有アプリ運営のスナップが昨年実施した人員削減は合計9万7000人を超えたことが、雇用調査会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスの調べで分かっている。2021年比で649%の増加だ。
データ分析会社レベリオ・ラブズによると、昨年9月から12月にかけてのIT企業の人員削減では、女性が46.64%、中南米系が11.49%を占めた。これに対し、IT業界全体の人口における女性の割合は39.09%、中南米系は9.96%だ。
レベリオのシニアエコノミストによると、中堅社員の解雇も相対的に多かった。
マサチューセッツ大学アマースト校の社会学教授、ドナルド・トマスコビッチデビー氏は、現在の人員解雇の傾向が続くようなら、IT企業では女性と非アジア系マイノリティーの数が減り、白人およびアジア系男性の支配がさらに強固になると予想する。
ツイッターは現在、人員解雇で女性従業員を相対的に多く標的にしたとして訴訟を起こされている。
<スタートアップに期待も>
黒人とアジア系は、今回の人員削減で被った影響が相対的に小さかった。だが、突然の大規模解雇により、今後は有名IT企業がキャリア初期段階の多様な人材を呼び込みにくくなるかもしれない、とブラビティのモーガン・デボーンCEOは言う。同社は黒人IT会議「アフロテック」を主催している企業だ。
人材採用コンサルタントでラティノズ・イン・テックの共同創業者、ベンジャミン・フアレス氏は、経験を積んだ社員が居座る結果、マイノリティーの人材が新入社員レベルの仕事に就く際の競争が激しくなるだろうと言う。
新入社員レベルの仕事は、多様な人材がIT産業に足場を築く上で、しばしば最良の入り口となる。
企業による多様な人材の採用を助けるミルキー・ウェイ・テック・ハブのナディヤー・ジョンソンCEOは、IT各社が従業員多様化のための予算を削っていると指摘。「一時期、特に(黒人男性)ジョージ・フロイドさん殺害事件後の1、2年間に優先課題だったプロジェクトを後退させる流れがある」と語った。
ただ、今後に希望を抱いている人々もいる。
ラティノズ・イン・テックのフアレス氏は、大量解雇によってマイノリティー主導のスタートアップの起業が増えることに期待を寄せる。
「IT業界で中南米系の人口が増えて欲しいが、DEIの取り組みの一部が機能しなくなっている。必要なのは、基本的に自ら道を切り開いていくことだ」とフアレス氏は語った。
(Doyinsola Oladipo記者)