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焦点:SⅤB破綻に見る、デジタル時代の「取り付け騒ぎ」の構図

発行済 2023-03-22 17:12
更新済 2023-03-22 17:18
© Reuters.  3月21日、経営破綻した米シリコンバレー銀行(SVB)で起きた急激な預金流出は、金融規制当局が直面する新たなリスクを浮き彫りにしている。写真は13日、カリフォルニア州サ

[ワシントン 21日 ロイター] - 「たった24時間で420億ドル」――。経営破綻した米シリコンバレー銀行(SVB)で起きたこうした急激な預金流出は、金融規制当局が直面する新たなリスクを浮き彫りにしている。すなわち、ソーシャルメディア主導の預金取り付けだ。

経営が危ないとみなされた銀行の前に預金者が長蛇の列を作るという光景は、もはや過去の出来事になろうとしている。デジタル技術が加速する中で育ってきた今の世代の顧客は、スマートフォンを数回タップするだけで預金を引き出せる。

今月6日からの週にソーシャルメディア上で、有力投資家ピーター・ティール氏のファウンダーズ・ファンドを含むベンチャーキャピタル数社がSVBから現金を引き揚げるよう助言しているとの情報が伝わると、株価は急落。顧客が一斉に逃げ出した。当局がSVBを閉鎖したのは10日になってからだった。

スイス政府の肝いりで19日、UBSによって救済合併されることが決まったクレディ・スイスも、ソーシャルメディアの恐ろしさは十分過ぎるほど身に染みている。

というのも昨年、ソーシャルメディア上の不確かな情報のせいで顧客が離れ、同行傘下の幾つかの法人の流動性の要件が未達になってしまった。

コロンビア大学リッチモンドセンターのトッド・ベーカー上席研究員は「人々が非常に素早く大量にコミュニケーションできるという事実が預金取り付けを巡る動きを様変わりさせ、恐らくは流動性リスク管理について、われわれが考えるべき方法も変えたのだろう」と述べた。

富豪で大手ヘッジファンドを率いるウィリアム・アックマン氏は、SVB破綻の数日後、預金者は全ての現金を完全に引き出すことができると政府が明確に保証しない限り、オンライン口座とソーシャルメディアの存在による預金取り付けに対して、世界中で安全と言える銀行はなくなった、と警鐘を鳴らした。

規制当局も預金取り付けが、かつてないほど急速に進む可能性に向き合っているという自覚はある。だが、具体的にツイッターが生み出すパニックに対し、どう対処できるかは不明瞭のままだ。

SVB破綻後、米当局が預金全額を保護すると決定したことは多くの関係者を驚かせた。複数の専門家は、他の銀行からの預金流出に対して当局が、必要十分な懸念を有している表れだと話す。

ピーターソン国際経済研究所のニコラス・ベロン上席研究員は「預金者がこれほど素早く動くことはなかったということが、預金全額保護決定の土台になったのだろう。SVBの預金流出(のペース)は未曽有だった」と解説した。

<対話戦略の欠如>

銀行業界の何人かの関係者は、新たにSVBのような破綻が起きるリスクは小さいと主張している。

その理由として、SVBの顧客層がハイテクとベンチャーキャピタル起業家という「仲間内」で固められ、ソーシャルメディア主導の預金取り付けに対して際立って脆弱だったという点を挙げた。

カリフォルニア州に拠点を置くベネフィシャル・ステート銀行のランデル・リーチ最高経営責任者(CEO)は「SVBは影響力の中心に位置し、このエコシステムに事業が集中していた。それは、別のさまざまな分野で展開している他の銀行とは異なる」と指摘した。

それでも世界各地の預金者は、たとえ自分の取引先銀行の経営が健全だと考えていても、なお安全策を講じつつある。

ドイツのあるバイオテクノロジー投資家はクレディ・スイスと取引があったが、UBSの救済合併合意以前に取材したところ、クレディ・スイスは「良い銀行」と信じているとしながらも、個人の預金を別の金融機関に移したと明かした。「SVB(の破綻)で、預金がどれほどあっという間に消えるかが分かった」という。

コーネル大学のダン・オーリー教授(法学)は、SVBの余波が大きくなったのは、当局のコミュニケーション戦略が欠如していたからだとの見方を示した。

本来なら、SVBが破綻した10日午前から週末が終わるまでに当局が「SVBは特異な事業モデルを構築しており、他の銀行はそれほど危険ではない」と説明すべきだった。だが、それをしなかったことで全ての預金者が自分のお金を心配し、金融システムの緊張が増幅されてしまったという。

実際、米国の地銀に重圧が広がり、ファースト・リパブリック銀行株は流動性を巡る懸念から20日に47%も値下がりした。

© Reuters.  3月21日、経営破綻した米シリコンバレー銀行(SVB)で起きた急激な預金流出は、金融規制当局が直面する新たなリスクを浮き彫りにしている。写真は13日、カリフォルニア州サンタクララの同行本店に集まった人々(2023年 ロイター/Brittany Hosea-Small)

野村ホールディングスのデジタル資産子会社、レーザー・デジタルのジェズ・モヒディーンCEOは、SVBの騒ぎとソーシャルメディア上で常に思惑が行き交う現実を考えると、銀行は週末を含めて1年365日、24時間のサービス提供体制構築を最終的に迫られるのではないかとみている。

ボストン・カレッジのパトリシア・マッコイ教授(法学)は、当局側もソーシャルメディアを常に監視し、銀行の対処方法に関する指針の整備が必要になると指摘。「ソーシャルメディアで根拠不明のうわさが出回ってパニックが起き始める兆しがないか、四六時中目を光らせていなければならない」と付け加えた。

(Hannah Lang記者)

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