[ニューヨーク 8日 ロイター] - 6月の米雇用統計が予想より堅調だったため、米経済に景気後退(リセッション)が差し迫っているとの懸念は幾分和らいだ。だが、同時に米連邦準備理事会(FRB)が積極的な利上げを続けるというシナリオの妥当性は強まった形で、今年の株式などの資産価格にさらなる波乱を引き起こす可能性がある。
米雇用統計発表前の数日間は、米経済の勢いが鈍ってFRBが従来の想定より早めに利上げペースを緩めるか、利上げを打ち止めるのではないかとの期待を背景に、株価や債券価格が持ち直した。S&P総合500種は6月の安値から6%戻し、10年国債利回りは一時2.75%に低下したほどだ。
ところが、8日の雇用統計で非農業部門雇用の前月比増加幅が37万2000人と市場予想の26万8000人を大きく上回ると、逆にFRBが今以上に急激な利上げに踏み切るとの観測が広がった。
金利先物市場で基本シナリオとして織り込まれたのは、政策金利が年末までに3.5─3.75%に上がるという展開。これは6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)終了後にFRBが公表したFOMCメンバーの大勢見通しよりも高い水準だった。
一部の投資家にとって、こうした事態は、上半期の市場を揺るがしたボラティリティーが今後も続くことを意味する。いったいどの程度金融を引き締める必要があるかがはっきりせず、市場全体のリスク志向が脅かされるからだ。
フェデレーテッド・ハーミーズのチーフ株式ストラテジスト、フィル・オーランド氏は「インフレ、そしてFRBのタカ派姿勢がそれぞれピークを付けたのかどうか分からない。インフレと金融政策、企業収益トレンドがそろって不確実なことで、株価が下落方向になるのは必至だと示唆される」と指摘した。
雇用統計発表直後の株価の反応は小さく、S&P総合500種の下落率は0.1%にとどまった。一方、10年債利回りは約3.1%まで跳ね上がった。
キャピタル ・エコノミクスのアナリストチームは「6月雇用統計によって、FRBは現在市場が織り込んでいるより大幅な利上げを実施し、今年の米国債利回りを押し上げるというわれわれの見通しが裏付けられている。米国のリセッションは回避されると考えるが、米国株は金利上昇と企業収益の期待外れの伸びに足を引っ張られるとの予想は変えていない」と記した。
OANDAのエドワード・モヤ氏は、FRBが米経済のソフトランディングへの道筋を何とか進もうとしている中で、株式市場の振れが激しくなることに投資家は慣れるべきだとの見解を示した。
雇用統計は確かにしっかりした内容だったとはいえ、週間失業保険新規申請件数など最近発表された他のいくつかの指標は、それほど明るくなかった。
チャールズ・シュワブのマネジングディレクター、リチャード・フリン氏は「雇用関連データは景気の遅行指標で、経済が下を向き始める局面でしばしば堅調となる。本日の(米雇用統計という)良いニュースにもかかわらず、株価は引き続き金融引き締めと流動性縮小、成長下振れに伴う重圧を感じ続けそうだ」と主張した。
(Lewis Krauskopf 記者)