■澁澤倉庫 (T:9304)の業績動向3. 2020年3月期の能力増強2020年3月期において好調だったのが、日用品や飲料の倉庫業務と輸配送業務である。
このため、倉庫業務では保管能力の増強を進めてきた。
ほかに、短期的なニーズへの対応や好立地の自社開発など、様々な能力増強のための取り組みも実行した。
(1) 拠点新設と拠点増床消費財の取扱い拡大が見込まれることから、同社は拠点を拡充している。
物流倉庫の新設と言うと、物流不動産のような超大型の賃貸物件をイメージしやすく、大型自社化という流れも強い。
しかし同社は、初期負担の軽い賃借物件を運営するほうが有利と考えている。
確かに、取引先の物流に合わせてフレキシブルに拡幅移転ができるし、万が一取扱量が減るような局面が来ても、改廃が容易である。
このため同社は、近年の成長戦略にのっとって飲料・アパレル向けに保管能力を増強、岐阜、三芳(埼玉)に倉庫を新設、船橋で拠点増床をした。
多品種小ロットの機械の流通加工を行う松戸も拠点増床を実施した。
これらは2020年3月期だけでなく、2021年3月期の収益貢献にもつながることが期待されている。
さらに、消費税増税を睨んで在庫を積み増したい日用品や飲料のメーカーのニーズを受け、臨時に上里倉庫(埼玉)と尼崎倉庫(兵庫)の2拠点を確保した。
非常に短期的で特殊なケースだが、採算に乗りやすいことから、同社は積極的に対応することにした。
(2) 澁澤ABCビルディング2号館物流倉庫や配送センターとして活用してきた横浜市恵比須町の自社所有地を再開発してきたが、2020年3月に第2期工事が終了、澁澤ABCビルディング2号館が完成した。
設備投資減税の制度がある神奈川県にあり、羽田に近く、若者に人気の繁華街・横浜駅から2駅、京浜東北線新子安駅から徒歩10分、首都高速インターチェンジ至近という地の利と、オフィス並みの空調、高い天井高、大型エレベーター、耐荷重、レイアウトフリーといったハイスペックを生かした、高い付加価値のある研究開発施設兼倉庫となっている。
2014年に完成した澁澤ABCビルディング1号館に続き非常に人気である。
2020年3月期は完成が3月だったことから費用先行になったと思われるが、2021年3月期には早くも利益貢献が期待される。
新型コロナウイルスの影響は心配だが予想はやや保守的4. 2021年3月期の業績見通し2021年3月期業績見通しについて、同社は営業収益66,700百万円(前期比0.2%減)、営業利益3,700百万円(同5.3%減)、経常利益4,000百万円(同4.2%減)、親会社株主に帰属する当期純利益2,700百万円(同4.1%減)と見込んでいる。
国内経済は、新型コロナウイルス感染症の影響により下振れリスクが生じている上、景気回復の見通しが不透明な状況にある。
このため物流業界では、エネルギー価格の下落傾向はプラスに作用するものの、企業の生産活動の縮減や輸出入貨物の減少が懸念されている。
不動産業界でも、空室率の増加や賃料相場を下落などのリスクが高まることが予測されている。
こうしたなか、新型コロナウイルス感染症の影響が2020年9月頃まで続くことを前提に、同社は予想を立てたようだ。
同社は、物流事業の増収要因として、前期に稼働を開始した澁澤ABCビルディング2号館と三芳倉庫が通期フル稼働することから、倉庫業務と陸運業務の収益拡大を見込んでいる。
一方減収要因として、新型コロナウイルス感染症の影響により、生産財及び消費財全般の物流の落ち込みと、輸出入貨物の取扱い減少を予想している。
結果、物流事業全体で減収減益という予想になった。
また、不動産事業では、オフィスビルを中心に稼働は安定的に推移すると予想している。
なお、こうした予想は、新型コロナウイルスによる不透明感のなかでの前提のため、今後予想数値の修正が見込まれる場合には、速やかに開示することとしている。
しかしながら、日用品など必需品は総じて新型コロナウイルスの影響を受け難いと思われること、自粛が続いている外食向けが多い酒類についても、このまま輸配送が減ったとしても保管料が発生し、在庫が積み増しされればさらに新たな保管料が発生すること、松戸や船橋での増収効果も期待できること、現状2021年3月期の保管能力増強の予定はないが、好条件の物件があれば増強投資の可能性があること、飲料物流が一定の拡大トレンドにあること(関東など増強投資をかけたいエリアはまだ多く残っていると思われる)——などから、物流事業の減収予想はやや保守的と思われる。
不動産事業についても、テナントにオフィスが多いため新型コロナウイルスの影響が出にくい事業構造になっていること、テレワークが増えれば建物内人口の減少から各種雑務や空調使用料が減るものの費用も減少すること——から、利益率はむしろ改善傾向にあると言えるだろう。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)