[サンフランシスコ/ワシントン 17日 ロイター] - 11月8日に行われる米中間選挙の公正性を確保する上で、外国勢力の干渉よりも国内発の偽情報拡散や選挙事務従事者への脅迫の方が懸念要素としては大きい――。
ロイターが取材したサイバーセキュリティー当局者や法執行部門責任者らは、こうした見解を示した。
これまでの刑事捜査で判明した情報に基づくと、近年の米国における選挙でロシアとイランの情報機関はハッカーやソーシャルメディアの偽アカウントを駆使し、投票行動に影響を及ぼしたり、社会的な対立をあおろうとしたりしたことが分かっている。
ただ、今回に限ると、ロシアもイランも自国の問題に手いっぱいで中間選挙を標的に「工作」を仕掛ける態勢は整っていない、と2人の米政府高官は話す。ロシアはウクライナに侵攻中で、イランは「反スカーフデモ」の対応に追われているからだ。
一方、米国では、特に2020年の大統領選後にトランプ前大統領が結果を受け入れず「選挙は盗まれた」と根拠のない主張を展開して以来、選挙の公正性が議論の的になっている。
こうした中でサイバーセキュリティー・インフラストラクチャー・セキュリティー庁(CISA)のイースタリー長官は先週「現時点で選挙のインフラに弊害をもたらす、もしくは混乱させる何か特定の、あるいは信頼に足る脅威は認識していない。とはいえ現在の選挙に脅威を与える環境というのは、かつてないほど複雑化している」と強調した。
実際に20年以降、ロイターが詳しく報じたように選挙事務従事者に対する脅迫や嫌がらせ、物理的攻撃は何件も発生してきた。複数の世論調査からは、共和党支持者の大多数は、前回の選挙でトランプ氏は勝っていたとなお信じている構図も浮かび上がる。
先の米政府高官の1人は「選挙事務従事者への暴力に関する言及は数多い。だから、われわれはこれらの脅威全てを積極的に調べてきた」と話す。
その高官によると、言論・出版・集会・信教などの自由を定めた合衆国憲法修正第1条によって、ある範囲までのコメントは罰せられない。「例えば『誰それが死ねば良いのに』なら言論の自由が保障される。しかし、『誰それの家に行って殺してやる』と言えば捜査対象だ。こんな物騒な発言をする人々はごく少数だが、ソーシャルメディアで情報は増幅される。そのため、これは個人的には最大の懸念になると言いたい」という。
CISAによる選挙の偽情報取り締まりを支援している超党派団体「ジ・エレクション・インレグリティー・パートナーシップ」は、20年の選挙についての偽情報とデマのほとんどは、主にトランプ氏支持者の要望に応じる形で極右のインフルエンサーたちがばらまいたと分析した。
<根付いてしまった分断>
カリフォルニアに拠点を置く選挙調査団体・OSETの選挙インフラ政策・技術に関する専門家、エドワード・ペレス氏は「20年以降に起きた最も厄介な変化は、選挙を巡る偽情報がいかに広がるようになったかだ」と語る。
ツイッターにも協力している同氏は「過去に外国勢力が米国社会に分断の種をまこうとした試みは、成果を発揮しているように見える。なぜなら今、選挙に対する一般市民の信頼を損なう偽情報の拡散活動の大部分は、国内の誰かが行っているからだ」と嘆いた。
今年7月には、米検察当局があるロシア人の男を訴追した。この男が、フロリダやジョージア、カリフォルニアの政治団体を動かして米国の選挙に干渉したり、ロシアの政治宣伝を広めたり、社会的な不和を醸成させたりしていたとの理由だ。
だが、前出の米政府高官2人の話では、米国民に誤った情報を与えて投票行動に影響を行使しようとする外国の工作活動が、何か進行している形跡はない。
むしろ、CISAや米連邦捜査局(FBI)などの政府機関はツイッターや、フェイスブックとインスタグラムを傘下に持つメタ・プラットフォームズといったソーシャルメディア企業と連携し、選挙に絡む国内発の偽情報の取り締まりを続けている。
ツイッターの広報担当者は、同社としても外国および国内からの「情報活動」もしくは偽情報流布を防ぐ措置を講じていると説明。「悪意を持つ者が生み出す脅威の増大には、総合的な対処が必要になる。だからこそ、われわれは常に外部の専門家や法執行機関と関係を保ち、悪事にかかわる者への理解を深め、協力して対応する戦略を練ろうとしている」と述べた。
(Zeba Siddiqui記者、Christopher Bing記者)