[キーウ 10日 ロイター] - ロシアがウクライナ全土にミサイル攻撃を仕掛けた10日朝、首都キーウの住民で歴史教師のアンジェリカ・テラニスさん(52)は、ケージに入れた飼い猫とともに、自宅がある集合住宅の薄暗い地下室で空襲警報が完全に解除されるのをじっと待っていた。
テラニスさんは「これはテロリズムだ。テロ国家(ロシア)がなぜそのように認定されないのか、私には全く理解できない」と憤りを隠しきれない。
キーウが直近でミサイル攻撃に見舞われたのは4カ月前。それ以来市民の間に広がっていた「一定の安心感」は瞬時に消し飛んだ。ロシアの侵攻が始まった時のパニックが再燃し、市内の中心部と外周部にミサイルが着弾した後の数時間は、大小の通りからほぼ人影がなくなった。
ロシアは、クリミア半島とロシア本土を唯一つなぐ橋の爆発をウクライナ側の「テロ」と断定し、報復措置としてミサイル攻撃に踏み切ったと表明。一方ウクライナ大統領府は、橋の爆発はロシアの治安機関内部の対立が原因だとみている。
キーウ中心部にあるシェフチェンコ公園付近には2発のミサイルが立て続けに飛来し、1発は大学に隣接する交差点に、もう1発は集合住宅が並ぶ場所から20メートルほどしか離れていない子どもたちの遊び場に着弾した。神経外科の病院で働くナタリア・コスチュクさん(39)は、自身が暮らす集合住宅がこの時の爆発でがれきに覆われた、と隣人から電話で伝えられた。
割れた窓ガラスをじっと眺めていたコスチュクさんは「隣人は電話で、どこもかしこもガラスだらけだと話していた。正直なところ、この目で現場を見るまで信じられなかった。われわれも隣人も、この寒空でどうやって眠れば良いのか」と、途方に暮れた様子だった。
コスチュクさんはそれでもキーウにとどまりたいと考えているが、夫は避難したがっている。「戦争が起きた当初、夫は『急いで、戦争が始まった。行かねばならない』と言った。今回も同じだ。2度目の恐怖を味わった」と振り返った。
<あわてて避難>
キーウ市民はこれまで何カ月も空襲警報をほとんど無視してきたが、この日のミサイル攻撃では身を守ろうとあわてふためく事態になった。
パニックに陥った大勢の市民は地下鉄駅の入り口に集まり、さらなるミサイル攻撃があればいつでも中に駆け込める態勢で待機。さまざまな建物の地下室も避難者であふれ返った。燃料供給が途絶えるのを心配した人々はガソリンスタンドに行列をつくり、ロシアがウクライナに侵攻した2月24日当時の情景を思い起こさせた。
近くにミサイルが着弾した際に、集合住宅の7階にある自宅で高校1年生の生徒に歴史のオンライン授業をしていた教師のテラニスさんは、生徒から早くノートパソコンをしまって地下に避難するよう促された。ミサイル攻撃はクリミア橋爆発の報復だというプーチン大統領の主張については「橋(爆発)の前から砲爆撃はあったし、これからもあるだろう」と何の関係もないと一蹴した。
<開き直り>
中には大胆な行動を取る市民も見受けられた。昼時になるとシェフチェンコ公園には人々が戻り始め、巨大な着弾の跡を興味深そうに観察し、電動スクーターを走らせる猛者まで現れた。歩道の露店で果物などを売る光景も見られた。
ミサイル着弾地点近くの建物の地階にあるバーでは、経営者のデニス・ミハイロフスキーさん(38)が飛び散ったガラスを慎重に片付けていた。爆発で店の防犯警報が作動したという。
「警報が鳴って警備チームが到着した時、窓ガラスと扉はなくなっていた。だから爆発の威力が相当大きかったのは明らかだ」と説明。窓の内側に金属のシャッターを備えていたので内部は破壊を免れたという。
「ボトルは全て無事だ」と喜ぶミハイロフスキーさんは、手早く窓を補修して近く営業を再開する計画だ。
「われわれは攻撃にはもう慣れっこになっている。今さら何か恐しいものなどあるだろうか」
(Max Hunder記者、Jonathan Landay記者)
*動画を付けて再送します。