山崎牧子 Heekyong Yang
[東京/ソウル 2日 ロイター] - 韓国半導体業界が、関連部材を国産化する取り組みを本格化させている。日本政府が韓国への輸出管理を強化したことを受け、日本製に依存することへのリスクが改めて意識されたためだ。半導体材料市場で高いシェアを保ってきた日本の部材メーカーでは不安が広がっている。
日韓両国の業界関係者によると、韓国半導体最大手のサムスン電子 (KS:005930)は、7月から輸出管理が強化された3品目のうち、半導体の回路を作るための感光材「フォトレジスト」や、回路を加工する薬品「フッ化水素」を巡り、日本製以外の製品の採用について精査している。
両品目とも一部については既に個別に輸出が許可されたものの、今後、継続して出荷が認められるのかは不透明だ。共に日本が世界シェアの7-8割を占め、技術的な難易度は高いが、切り替えられる部材から徐々に切り替え、日本への依存度を下げる意向という。
フッ化水素については、韓国化学メーカーのソウルブレイン (KQ:036830)が、現在建設中の新工場で日本製に匹敵する高純度品を生産する計画だ。同社幹部によると、新工場は政府が迅速に建設申請を認可。9月末までに完成させ、年内にサムスンとSKハイニックス (KS:000660)への供給に向けて準備に入る。高純度のフッ化水素は、日本のステラケミファ (T:4109)が6割の世界シェアを持つ。
一方、レジストについて、サムスンは「日本製の代替は難しいと判断した」(業界関係者)という。レジストは、生産工程によってほぼすべてカスタマイズされており、製品を開発するまでに綿密なすり合わせが必要なため、「数カ月から2年かかる」(レジスト最大手の東京応化工業 (T:4186))。シティグループ証券の池田篤アナリストも「ベースの開発力は何十年もの蓄積が大きく、(新参メーカーは)対応しにくい」と指摘する。
ただ、レジストについても最先端以外の製品については韓国メーカーがシェアを伸ばしている。サムスンが先行する「3次元NAND型フラッシュメモリー」と呼ばれる半導体では、極限の回路微細化は必要とされず、韓国の東進セミケム (KQ:005290)が独占的にレジストを供給する。韓国政府からの多額の補助金によって投資リスクが軽減されれば、東進などの現地メーカーが最先端のレジストを開発し、東京応化やJSR (T:4185)などの競合となる可能性もある。
輸出管理厳格化の余波は、3品目以外にも広がっている。業界関係者によると、今後、輸出管理が厳格化される品目が増えるとの懸念から、日本のシェアが高いシリコンウエハーや研磨用スラリーなどの半導体部材についても、日本メーカーに前倒しで出荷するよう韓国半導体メーカーから要請が来ているという。ウエハーでは、信越化学工業 (T:4063)とSUMCO (T:3436)の2社で市場のおよそ6割を握る。
日本の部材メーカーは、NEC (T:6701)や東芝 (T:6502)などが1980年代に世界に躍進した際に技術を磨いた。比較的早くから海外メーカーにも食い込み、実直に顧客の要求に応じてきたことが評価され、日本の半導体産業が衰退した後も世界的に存在感を維持。韓国でも、部材国産化の試みは以前からあったが、技術的な参入障壁や、部材をつくるための原材料のサプライチェーンの欠如などから、思うように進展せず、日本との分業体制を保ってきた。
サムスンとSKハイニックスという、世界1位と3位の半導体メーカー(2018年実績)を擁する韓国は、日本の部材メーカーにとって最重要市場のひとつ。日本政府は「今回の措置は禁輸ではなく、国内のサプライヤーには影響がない」との立場を貫くが、部材メーカーの間では、韓国が国産化に向けて本格的に動き始めたことについて「ボディブローのように利いてくる」と警戒感が高まっている。
(編集:内田慎一)