【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。
筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。
関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。
考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信しているフレイザー・ハウイー氏の考察「緊迫下の市場開放(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。
———ポートフォリオ投資だけを見ても、金融市場開放の複合的な影響は小さくない。
外国の投資家が保有する中国国債は総額約2,400億米ドル、チャイナ・コネクトを通じた資金流入額は1,000億米ドル、QFIIはやや後れを取っているものの推定900億米ドルに上る。
香港やニューヨークに上場しているオフショアの中国資産や、オフショア債券の外国保有も相当な規模だが、上記の3つのプログラムだけで現在の中国国内証券の資産規模4,000億米ドルを優に上回っている。
これらの数字は一層拡大することが確実だ。
市場開放により中国のA株と債券が、ファンドマネジャーが投資の基準とする世界的な投資インデックスの一部に採用され、当然のように、パッシブ投資の資金が中国の証券に配分される必要が出てくるからだ。
中国は閉鎖的で投資は難し過ぎると相手にしなかった人たちもいるが、その逆を行く投資額が5,000億米ドル近くに上っている。
10年、20年前の状況と比べると開放の度合は目を見張るほどだが、比率でみれば外国人投資家の参加は依然として低調である。
これまで見てきた大きな数字も、中国の証券保有額全体からみると、一桁台前半の比率を占めているにすぎない。
世界における中国経済の規模から考えると期待よりはるかに低い比率であり、また外国投資が20%を占めるインドのような市場と比べても大幅に低い。
中国の市場開放の速度はあまりに遅く、この比率がそれを示している。
しかし中国当局はようやく、外国の投資家や金融仲介機関をスターティングゲートに導いたのである。
遅きに失した感はあるが、制度や投資の手段が整い、外国企業は少なくとも中国の国内投資戦略を適切に立案する機会を得られた。
なぜ変わったのか。
なぜ今なのか。
いや、本当の問題は、なぜそんなに長くかかったのかである。
開放すべき根本的な理由やその必要性は、中国当局の首脳もかなり前から理解していたが、国内の政治不安や外国人を管理できなくなる恐れをずっと懸念していたのだ。
1997年のアジア金融危機の教訓が中国の姿勢に大きな影響を及ぼした。
外国のファンドマネジャーがニューヨークでボタンを押すとタイから10億米ドルが流出するという単純な事例が、中国の規制当局者に何日も眠れない夜をもたらしたのだろう。
市場の規模が拡大し、外国投資を監視・監督するための投資チャネルの構造が適切であれば、外国資金が暴れまわるわけではないということを、今や彼らは理解している。
現在の開放に意味があるのは、いくつかの事実を反映しているからだ。
第一に、開放がもたらす競争に市場や国内企業が耐えられると中国が確信していることだ。
すでに述べたように、資金の流れを監視できるようになったことは、バブルとその崩壊のサイクルがいかに起こりやすいかを何度も示してきた市場に対する大きな安心感を与えている。
第二に、開放が中国に真の利益をもたらすということだ。
海外投資家の中国向けエクスポージャーに対する需要は大きい。
海外市場のほとんどで上場企業数が停滞しているか減少している一方で、中国の国内市場では毎年数百件の上場が行われ成長が続いている。
中国経済は今かなり弱まっており、特にショック時には資本流出が起きるリスクが依然高いため、外国資本の流入を容認することで、中国をグローバルな資金の流れの中に統合し、自国への資金流入を見込むことができる。
中国の現在の開放が自動操縦のように進んでいると考えるのは間違いである。
国内市場には、運営上の観点から改善や合理化できる面が数多くあり、さらに重要なこととして、上場企業の質と財務情報の開示は総じてお粗末だとみなされている。
不良債権比率を過小報告している最大手の銀行から、架空の銀行預金残高を作成している民間企業まで、中国企業を警戒すべき理由は多い。
しかし、だからこそ多くのファンドマネジャーが中国に熱狂している。
悪質な企業の中に優良な企業やビジネスが隠れているので、銘柄選択を行うには最適の市場になっているのだ。
日々の流動性は非常に高く、他のアジア市場を合わせたよりも高い場合が多い。
このため、短期のトレーダーにとってはトレンドを追う機会が豊富な市場といえる。
規制当局やその政治的指導者たちは、依然として結果を導くことを過度に重視しているため、今後何年にもわたって市場活動に介入を続けると予想されるが、国内外を問わず投資家はこれが中国におけるビジネスの一部であり、重要な部分であると認識している。
中国ではゲームのルールが異なるということを理解すべきであり期待は抑える必要がある。
しかしだからと言って、投資家が利益を得る機会がないということでもなければ、説得力のある投資ストーリーが存在しないということでもない。
このような金融上の関係拡大は、最終的には資本戦争の推進力を弱めることになるのだろうか。
その点は全くはっきりしていない。
ルビオ上院議員をはじめとする議員たちがこれまでに提案してきた措置は非常にターゲットを絞ったものだからだ。
しかし、すでに中国に巨額の投資を行いその継続を望んでいる機関投資家のコミュニティーからは、資本戦争に対し大きな反発が起こることになるだろう。
中国は世界第2位の経済大国であり、今後もしばらくはその地位を維持するとみられる。
中国の資本市場と債券市場は世界最大規模になっている。
今後も外国の金融機関には引き続き多くの機会があるだろう。
何年にもわたって失望を味わってきた外国企業は、何を達成できるのか、どのように関与すべきかについて現実的である必要があるが、彼らが進んで中国を離れることはないとみられる。
米国と中国の分断は現実に進んでいる。
この大きなトレンドは今後何年も続くだろうが、すべての産業が同じように影響を受けるわけではない。
中国は製造業の世界的サプライチェーンにおいてはそれほど重要ではなくなるかもしれないが、このまま進めば、中国が資本の流れにおいてより重要な地位につくことをあらゆる指標が示している。
外国企業や投資家は中国国内の資本市場へのアクセス拡大のため数十年に及ぶロビー活動を行ってきた。
そして今、好機をつかもうとしている。
しかし同時に、長年求め続けてきたその関係はかつてないほどの試練にさらされている。
※1:中国問題グローバル研究所 https://grici.or.jp/この評論は9月26日に執筆