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焦点:日本電産と日産がジヤトコ巡り綱引き、自動車に電動化の波

発行済 2020-10-14 19:05
更新済 2020-10-14 19:09
© Reuters. 焦点:日本電産と日産がジヤトコ巡り綱引き、自動車に電動化の波

白水徳彦

[東京 14日 ロイター] - 精密小型モーターで世界トップシェアを握る日本電産 (T:6594)が、さらなる成長の原動力として目を向けているのが自動車だ。電動化の波が押し寄せる中、バッテリーに蓄えた電気を駆動力に変える技術にビジネスチャンスを見いだし、企業を相次いで買収。総仕上げとして、日産自動車 (T:7201)が7割以上の株式を持つ変速機メーカー、ジヤトコ(静岡県富士市)の取得に乗り出している。

事情に詳しい複数の関係者によると、日産はその申し出を拒否。しかし、日本電産を売上高1.5兆円規模の企業に育て上げた創業者の永守重信会長は、財務状況が悪化した日産はいずれジヤトコを手放すと踏み、接触を繰り返している。

<垂直統合から水平分業へ>

トラクションモーター、あるいは「e-Axle(イーアクスル)」と呼ばれるこの技術は、電動化が進む自動車業界の中で競争の最前線になりつつある。年間28億─30億ドルと推定されるトラクションモーターの市場規模は、2030年までに200億─300億ドル規模まで拡大すると予測されている。永守氏は、このうち35%を獲得したいと公言している。

電動化によって自動車はエアコンや洗濯機、パソコンと同じ道をたどると永守会長はみている。「外観は異なるが中を開けたら全部同じ部品」──永守氏は今年1月の記者会見でこう語り、電気自動車の中核技術は汎用化、標準化されていくとの見方を示した。バッテリーと、そこに蓄えた電気を車軸に伝えて車を走行させる技術は、競争力の高い一握りのプレーヤーが供給することになるとにらんでいる。

その1社に食い込むため、76歳の永守氏は日産自動車が7割以上の株式を持つ変速機メーカー、ジヤトコを買収し、日本電産の車載事業と統合することを狙っている。

日産が抵抗するそのやり取りの詳細の一端が、このほどロイターの取材で明らかになった。ジヤトコを巡る日本電産と日産の綱引きは、電動化の流れがどれほど急速に自動車産業を変えつつあるかを浮き彫りにしている。

「日本電産は家電・エレクトロニクス産業のやり方、考え方を自動車に持ち込んでいるようにみえる」と、大和証券のアナリスト、坂牧史郎氏は言う。自動車産業もモデルチェンジの頻度が増え、1社ですべてを作り上げる垂直統合型から、部品や素材を外部調達して組み立てる水平分業型に移行する可能性があると、坂牧氏は指摘。「部品の電気化、電子化がさらに進み、商品サイクルが3年を割り込んでくると(電機業界と)同様の変化が起きてくるかもしれない」と語る。

<バッテリーと並ぶ重要技術>

トラクションモーターは変速機、モーター、インバーターを組み合わせた電気自動車の駆動装置(パワートレイン)だ。バッテリーに蓄えたエネルギーを制御し、駆動力に変換する「頭脳」とも言える。減速時に発生するエネルギーをバッテリーに戻して蓄電もする。

トラクションモーターの性能が電気の消費効率と自動車の加速性能、走行距離、しなやかな走りを左右する。

電気自動車が価格の引き下げを迫られる中で、トラクションモーターはバッテリーと同様に自動車メーカーがしのぎを削る主戦場になりつつある。バッテリー技術と並び、最も効率化とコスト低減を進める余地がある。

二酸化炭素(CO2)の排出量を削減しようという世界的な取り組みに、技術の進化は欠かせない。米ワシントンにある環境問題のシンクタンク、国際クリーン交通委員会のヤン・ジーフェイ氏によると、自動車から出るCO2の割合は全体の約17%を占めている。

大型車や燃費の悪いスポーツ・ユーティリティ車(SUV)に乗る人が増えたせいで、CO2の削減ペースは鈍化していると、アナリストのヤン氏は指摘する。中国やインドといった新興国の中流層の間で、二輪車から自動車への乗り換えが起きていると指摘する専門家もいる。

トラクションモーターを巡る動きは、自動車部品業界の中でも活発化している。トヨタグループのデンソー (T:6902)とアイシン精機 (T:7259)は2019年、合弁会社ブルーイーネクサス社を設立。今年になってトヨタ自動車 (T:7203)はこの合弁会社に10%出資した。

米部品メーカーのボルグワーナー (N:BWA) は同業の英デルファイを買収し、日立オートモーティブはホンダ系のサプライヤー3社と経営統合することを決めた。

完成車メーカーでは独フォルクスワーゲン (DE:VOWG_p)と米フォード・モーター (N:F)が技術提携し、電気自動車分野で協業を進めている。トヨタ自動車も、他社との提携でトラクションモーターなど電気自動車の製造コストを引き下げようと動いている。

米ゼネラル・モーターズ (N:GM)や日産などは、トラクションモーターにはコスト低減余地が大きく、自動車そのものを差別化するために重要だとして、独自のシステムを自社開発したいと考えている。

トラクションモーターをバッテリーやその他の部品とうまく結合することで、より静かでスムーズ、経済的な走りを実現できると考えていると、GMの電気推進担当エグゼクティブ・チーフ・エンジニアであるアダム・クヴィアトコウスキー氏はインタビューで語った。

「複雑な(e-Axle)の技術は知的財産(IP)の塊で、資本集約的、常に自社で設計し、生産したほうがいい」とクヴィアトコウスキー氏は語り、自社でトラクションモーターを手掛けず外部から調達する場合、技術の詳細や効率性を確認できないため、最適化されていない駆動装置を使い続ける恐れがあると付け加えた。

<日本電産の提案に日産は難色>

トラクションモーターのマーケットリーダーになるのに必要なのは、価格を低減することだと日本電産の永守会長は語る。それには生産を増やすことに加え、システムを構成するすべての部品と副次技術を生産できるようにすることが必要だという。

モーター専業の日本電産は、電子制御装置に精通した企業を探してきた。2014年に自動車用電子制御システムメーカーのホンダエレシスを、2019年にオムロンの車載事業を買収した。そしてトラクションモーターの技術を完成させるため、日産が株式の75%を保有する変速機メーカー、ジヤトコに買収の照準を定めている。

永守氏の考えを良く知る関係者によると、社用ジェット機をはじめ、非中核資産の売却を余儀なくされる日産の財務状態を考えれば、ジヤトコ買収の協議は進むと永守会長は踏んでいる。

ロイターは永守氏に取材を申し込んだものの、応じなかった。ジヤトコ買収に関心を寄せていることについて日本電産に書面で問い合わせたが、同社はコメントを控えた。

日本電産はこれまで、複数の日産幹部を引き抜いている。永守氏は昨年、日産の副最高執行責任者(副COO)に内定した直後に関潤氏を一本釣りした。2019年10月8日、専務だった内田誠氏が日産の最高経営責任者(CEO)に就任するというニュースが流れた翌朝、関氏はヘッドハンターから電話を受けたと、事情に詳しい関係者は明かす。永守氏は、関氏と直接話をしたいと考えていた。

それからほどなく、関氏は日本電産の本社がある京都へ向かった。永守氏と会い、申し出を断るつもりだったと、同関係者は語る。逆に永守氏は関氏に対し、自動車業界に押し寄せる電動化の波に乗り、2035年までに日本電産を10兆円企業に成長させるため、手を貸して欲しいと説得した。

2人の話し合いが進む中、日本電産は昨年11月、ジヤトコ買収を日産に打診した。事情を知る複数の関係者によると、日産経営陣はトラクションモーターという主要技術は自社で保有したいと考えており、回答は「ノー」だった。ロイターの問い合わせに対し、日産も日本電産もコメントを控えた。

関氏は年明けまでに日産を退社した。1月13日に新幹線で京都へ向かい、特別顧問として日本電産に入社、4月に社長に就任した。

関氏の最初の仕事の1つは、古巣から優秀な人材をさらに引き入れること、さらにはジヤトコの買収を成功させること。日本電産は2月、再び日産に接触した。

前出の複数の関係者によると、日産の回答はまた「ノー」だった。日産のアシュワニ・グプタCOOは関氏ら日本電産幹部に対し、トラクションモーターの次世代技術開発に向け提携していくことにしか関心がないと非公式に伝えたと、同関係者らは言う。

ジヤトコは「技術的な競争力の厳選の1つ」であり、日本電産に株式の過半数を握らせるつもりはないこと、どうしても現金が必要になればまずは保有するダイムラー株約1.5%を売却すること、競争力あるトラクションモーターを開発する提携以外の協議には応じないこと。グプタ氏はこうした話をしたという。

日本の月刊誌「FACTA」は6月、日産がジヤトコ売却を巡って日本電産と協議を進めていると報じた。日産はこれを否定している。

8月6日、日本電産の幹部2人が横浜市にある日産グローバル本社を訪問するのが目撃された。パワートレインと電気自動車の技術開発を統括する平井俊弘専務執行役員に会うためだ。関係者によると、平井氏はジヤトコを売却するつもりはない、日本電産とはトラクションモーターの提携についてしか話さないと繰り返したという。

日産のグプタCOOは8月19日、静岡県富士市にあるジヤトコ本社へ出向き、社員にメッセージを伝えた。グプタ氏は日本電産の社名は挙げずに、ジヤトコは「日産にとって重要な資産」であり、「パートナー」と考えていると語った。ジヤトコの広報はロイターに対し、グプタ氏の発言の要旨を認めた。

<コストを大きく下回る販売価格>

永守会長はトラクションモーターの将来性を確信しており、5000億円を投資して中国、メキシコ、ポーランドに工場を建設する考えだ。完成車メーカーへの販売価格はすでに1200─1300ドルまで引き下げている。平均製造コストは1800ドル程度と推定されており、これを大幅に下回ることになる。

© Reuters. 焦点:日本電産と日産がジヤトコ巡り綱引き、自動車に電動化の波

トラクションモーターの売り上げは開示していないが、日本電産の発表によると、中国の広汽新能源汽車や広汽豊田汽車、吉利汽車などに供給している。吉利とダイムラーの合弁会社、中国の長城汽車と独BMWの合弁会社にも供給するとの噂があるが、日本電産はコメント控えた。販売価格についてもコメントしなかった。

(白水徳彦 取材協力:山崎牧子 日本語記事作成:久保信博 編集:石田仁志)

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