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拡大する日本のプレゼンス−海上自衛隊インド太平洋方面派遣の意義−【実業之日本フォーラム】

株式2021年11月26日 10:15
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© Reuters.
2021年11月16日、海上自衛隊は、南シナ海において日米共同対潜訓練を実施したと公表した。
南シナ海では、海上自衛隊のみによる対潜訓練の実績はあるが、日米共同の対潜訓練は初めてであった。
今回の訓練は、中国が主権を主張する南シナ海で行われたということに加え、令和3年度インド太平洋派遣訓練に参加中の海自艦艇が実施したことに大きな意味がある。


海上自衛隊は、「自由で開かれたインド太平洋」構想に沿う形で、2017年から艦艇をインド太平洋方面に派遣している。
艦艇の海外派遣は、新任幹部の海への習熟や国際感覚育成のための遠洋練習航海、ソマリア沖における海賊対処活動、中東地域における情報収集活動等多岐にわたる。
それらの海外派遣活動と、今回のインド太平洋派遣は根本的に異なる。
海自が公表した派遣目的は、各国海軍との共同訓練をつうじた戦術技量の向上と周辺諸国との相互理解の増進及び信頼関係の強化と、極めて漠然としたものである。
派遣期間中に国際観艦式やマラバール等の共同訓練に参加することもあるが、これらはあくまでも展開期間に行われるイベントの一つにしか過ぎない。
インド太平洋において行動するというのが最大の目的であり、展開期間中、情勢に応じていかなる任務にも対応するというのが大きな特徴である。
これは、米海軍原子力空母の展開、Deploymentに近い運用形態である。


米海軍は現在11隻保有する原子力空母を修理、訓練及び展開の3ローテーションで運用している。
展開期間は国際情勢に応じ変化するが、5~8か月が普通である。
世界各地で紛争が生起した際、大統領は、空母はどこにいるかを真っ先に確認すると言われている。
展開期間中の空母は、空爆等の実作戦を実施するだけではなく、関係国との共同訓練や、親善訪問等を行う。
空母が所在する場所がアメリカの国益上重要と考えている地域であることを示すものである。
例えば、中東海域に米空母が不在となる時期はほとんどない。


米空母の展開(Deployment)と比較すると、海上自衛隊艦艇のインド太平洋派遣行動の戦略的影響力は限定的である。
自衛隊の装備構想には、米空母が保有する兵力投射能力(空爆等)は含まれておらず、必然的に相手に対する威圧が決定的に欠けている。
一方で、海自最大の護衛艦(海外ではヘリ搭載空母と言われている)が姿を見せる、いわゆるプレゼンス効果は高い。
日本政府が「自由で開かれたインド太平洋」を強調している中で、QUAD4か国の海上共同訓練(マラバール)をインド洋、ベンガル湾及び西太平洋で行うことは国際的にも注目を集めている。


また、展開期間は米空母展開期間よりも短く2~3か月である。
これは、護衛艦「いずも」と「かが」の2隻のうち1隻を交互に派遣するという運用状況からやむを得ないものである。
短い展開期間ではあるが、この展開期間中、補給及び親善を兼ねて5~6か所に寄港している。
この寄港地の選択も、日本の国家意思をアピールする手段である。
過去5回のインド太平洋派遣訓練で、4回以上寄港した国は、ベトナム、シンガポール、スリランカ及びフィリピンの4か国であり、インドが3回とこれに続く。
これらの国の港に海上自衛隊艦艇が日本の国旗を翻し入港することで、それぞれの国との強い協力関係をアピールすることができる。


最後に、展開期間中実施される共同訓練の国際的影響力も無視できない。
外国艦艇との共同訓練は準備段階から細かな調整が必要である。
このため、対面方式またはテレビ会議をつうじ、会議等を積み上げ、合意事項を紙に落とし込んで双方が確認するといった手順がとられる。
しかしながら、洋上行動中は対面形式の会議はおろか通信状況によってはテレビ会議すら十分実施できない。
このような環境下で、米国を始めとする各国との共同訓練を実施したということは、それぞれの国との運用に係る共通の基盤、いわゆる相互運用性(インターオペラビィティ)が確立しており、最小限のやり取りで共同訓練が実施可能であることを意味する。
これまで、それぞれの国との共同訓練を積み上げてきた成果と言える。
今回実施された南シナ海における対潜訓練は、米国だけではなく、豪印英仏加等のいわゆる西側諸国とも同様の作戦が実施可能であることを示す。
活動を活発化させる中国海軍が、ロシア海軍以外に共同作戦を実施する相手がいないのと対照的である。


いっぽう、海上自衛隊艦艇のインド太平洋方面派遣行動は、海上自衛隊、防衛省にいくつかの課題を提供している。
第一に、本行動の法的根拠をどこに置くかという点である。
ソマリア沖海賊対処行動や、すでに終了しているが、インド洋における給油支援活動は、それぞれ特別措置法に基づき実施されている。
しかしながら、インド太平洋派遣はあくまでも通常の訓練等の延長線上にあり、平時において自衛隊に認められている権限に基づき行動する。
海上自衛隊が、いままでにないDeploymentという新たな行動を開始したにもかかわらず、派遣艦艇が、何らかの紛争に遭遇しても、できることは限られている。
プレゼンスを示しながら、いざとなったら何もできないということが露呈した場合、我が国に対する信用は地に落ちる。
行動海域周辺情勢の把握や不測事態生起時の対応についての十分な準備と、情勢変化に柔軟に対応できる展開部隊と国内司令部との連携確立が不可欠である。


次に、兵力不足がより明確となったことである。
今回の派遣部隊のヘリコプター搭載機数は、護衛艦3隻でわずか4機に過ぎない。
ヘリコプター14機を搭載することのできる護衛艦「かが」には2機しか搭載されていない。
防衛白書の資料によると、2021年3月31日現在海上自衛隊が保有するヘリコプター(SH-60J及びK)は83機である。
海上自衛隊は5か所の陸上航空基地に加え、30隻以上のヘリコプター搭載護衛艦を保有しており、10機以上搭載できる護衛艦も4隻ある。
83機という数は、日本周辺海域における行動を想定し、必要に応じ陸上航空基地からの追加派遣を考慮した機数と考えられる。
しかしながら、多数機搭載を前提とする、「いずも」及び「かが」を長期間展開させる運用を一般化するのであれば、ヘリコプター保有機数の抜本的見直しが必要であろう。
少子高齢化が進む日本では、隊員の確保は至難の業である。
無人機の開発が必要不可欠であり、研究開発を加速しなければならない。


派遣の中心となる護衛艦「いずも」と「かが」は基準排水量1万9,950トンであり、旧帝国海軍の正式空母「蒼龍(そうりゅう)」の1万8,800トンに匹敵する大きさである。
艦艇の性能をその大きさではかることは不適当であるが、やはり大型艦のプレゼンスは無視できない。
海上自衛隊はそのプレゼンスを拡大しつつあるが、その大きさに似合うハード及び運用支援体制というソフトをさらに充実させる必要がある。


サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。
護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。
退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。
2021年から現職。


写真:HIROYUKI OZAWA/アフロ


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