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【小倉正男の経済コラム】日立製作所・資生堂などが進める「ジョブ型雇用」とは何か?

発行済 2022-01-22 16:00
更新済 2022-01-22 16:05
【小倉正男の経済コラム】日立製作所・資生堂などが進める「ジョブ型雇用」とは何か?

【小倉正男の経済コラム】日立製作所・資生堂などが進める「ジョブ型雇用」とは何か?

■日立が「ジョブ型雇用」に踏み込む

 日立製作所が、「ジョブ型雇用」を全社員に広げる方針を明らかにしている。ジョブ型雇用では管理職、一般社員とも、事前に職務に必要なスキルが明らかにされ、その執行が要求される。資生堂などもジョブ型雇用にシフトを進めている。生産性の改善を目指す動きといわれている。

 一般に日本の企業では、「終身雇用×年功序列」を前提に総合職型の運用が行われている。幅広い仕事を経験して徐々に地位・報酬が上がっていく。「就職」ではなく、いわば「就社」が慣行として定着している。ジョブ型雇用は、そうした「メンバーシップ型雇用」と根本的に異なる。報酬・賃金は、職種を基本にしてスキル、経験、需給などを加味して決められる。

 日立としては、ジョブ型雇用への移行に周到に時間をかけて地ならしをしてきたようだ。人事制度は、管理職、一般社員とも、機微に触れる問題だけに拙速には踏み込めない。よくよくのことだが、これを避けては企業として環境変化に対応できないという思いがある模様だ。

 組織というのは、制度の枠組みと運用の妙で決まる。人事制度は管理職、一般社員とも直接的に利害関係にあるのは言うまでもない。ジョブ型雇用には、「会社が新しいことをやるときは何か思惑がある」「スキルがない場合は退社に追い込まれる」「これから年功序列の恩恵に預かる時期なのに全てがパーになる」と警戒論、否定論が多数を占めている。

 日立としても、人事制度を誤れば会社が傾くリスクがある。それだけに周到な準備と強い決意で踏み込んだとみられる。確かにこの分野はそうでなければ踏み込めない。

■流動性は上昇するが「既得権益」問題という大障害

 ジョブ型雇用が全体に広がれば、雇用の流動性は格段に上がることになる。場合によったら、報酬次第でライバル他社などに「就職」するといったことが珍しくなくなる。報酬、賃金が上がるケースも出てくるかもしれない。

 管理職、一般社員もプロフェッショナル化が促進されるわけだから生産性は向上する契機になると想定される。生産性が上がれば、30年間の長きに及んで横ばいという日本の平均賃金・所得に変化が現れる契機となる可能性も生み出されるとみられる。

 しかし、企業によってはジョブ型雇用を悪用するケースも出てくるということも考えなければならない。日立、資生堂あたりならある程度信用できるが、とんでもない企業がジョブ型雇用を運用すれば、勤労者に不利益な事態が生じるケースが出てくる可能性もある。

 それにともあれ事は簡単ではない。一般企業では「終身雇用×年功序列」という日本型経営に「既得権益」を持っている層が存在する。「抵抗勢力」といっては語弊が生じるが、その問題が大きな障害となる。例えば年功序列でこれから上に上がっていく40歳代内外の中堅社員たちにとっては、ジョブ型雇用は人事面で「不良債権」を渡されたようなものに等しい。確かに現実問題として揉めないでは済まないことになる。

■「令和の秩禄処分」となるのか?

 私としては、ジョブ型雇用に踏み込める企業は積極的に挑戦すべきだと思っている。だが、ジョブ型雇用を進める場合は、既得権益など利害関係者との調整・地ならしが避けられない。ある種の「補償」などを考えていかなければ、抵抗は止まないのではないかと思われる。 

 明治期には「秩禄処分」(1873年・秩禄奉還の法)布告が行われている。明治政府は、布告で江戸期からの旧士族という世襲階級を終わらせるために現金、「金禄公債証書」を渡すことを明らかにしている。旧土佐藩、薩摩藩など不平士族が多数という土地では、金額を多めにして渡したといわれている。

 旧士族の世襲は根付いていた慣習(既得権)だったし、それに武力も備えていたから明治政府は慎重に対処した。実質的に旧身分への補償を行ったのだが、明治政府も財政は火の車である。しかし、旧士族の不満は収まらず、佐賀の乱、神風連の乱、萩の乱(1876年)に続いて西南戦争(1877年)など内戦が勃発している。

 平成期にも企業年金、給料、退職金など凄まじい削減が行われた。これに対しては何らかの補償があったのかどうか。ジョブ型雇用が広がるとすれば、この“令和の時代”だが、こうしたあたりはどうなっていくのかという問題が残る。平成期、そして令和期と「秩禄処分」めいたことが行われるとすれば、厳しい時代だなと思わないではいられない。

 「終身雇用×年功序列」の日本型経営は、GDP(国内総生産)の成長が続いていれば継続できる。しかし、GDPの成長が止まれば、継続が困難になる。経済成長によるパイを大きくできなければ、「秩禄処分」めいたことが続くことになりかねない。それがいまという時代であるのは何とも間違いない。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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