[ニューヨーク 29日 ロイター] - 29日の米国債市場で2年債の利回りが10年債を上回る「逆イールド」現象が一時発生した。このことで、いよいよ米経済の景気後退(リセッション)が近づいてきたと心配する声が多くなっている。
投資家にとって、米国債のイールドカーブにおける2─10年債の利回りの逆転はリセッションが到来する恐れがあるという注目すべき警戒信号だ。直近では2019年に逆イールドが起きて、米経済はリセッション入りした。もっともこの時は、世界的な新型コロナウイルスのパンデミックが景気悪化をもたらした要因の1つだった。
デューク大学フクア・スクール・オブ・ビジネスのキャンベル・ハーベイ教授(金融論)は「多くの人がここに注目しており、自己実現の様相を呈してもおかしくない。2─10年債利回りの逆転を目にした人々はリセッションがやってくると考え、行動を変えるだろう。だからあなたが企業経営者なら、設備投資や採用の計画を圧縮する」と話す。
イールドカーブの動きをリセッション予想手段としていち早く活用したハーベイ氏自身の研究対象は、2─10年債とは別の部分だ。それでも、いざ起きた場合に生き残れるように、リセッションに備えるのは悪いことではないと付け加えた。
一方、ブローカーディーラーのLPLファイナンシャルは、2─10年債の逆イールドが1978年以降の全6回のリセッションを全て予告してきたと説明し「強力な指標」だとの見方を示した。
コモンウェルス・ファイナンシャル・ネットワークのグローバル投資ストラテジスト、アヌ・ギャガー氏によると、逆イールド発生からリセッションの始まりまでの期間は平均で22カ月だが、過去6回をみると最短は半年、最長が36カ月と非常にばらつきがある。
一部の投資家は、リセッションの予想という面でイールドカーブは数多くの指標の1つに過ぎないとくぎを刺す。実際、米国株は最近の数週間で上昇し、2月に調整局面入りが確認されたS&P総合500種の年初来下落率は足元で3%前後まで縮まっている。
とは言え、多くの市場参加者は、イールドカーブが発するシグナルに昔からずっと従ってきた。TDセキュリティーズのシニア金利ストラテジスト、ジェナディ・ゴールドバーグ氏は「心理的な要素が加味されているのは間違いない。イールドカーブは、これまで有効に機能してきた。なぜなら、景気サイクルの終わりがやってくるというシグナルだったからだ」と述べた。
<冷静な意見も>
米国債市場では、米連邦準備理事会(FRB)の連続利上げを織り込む形で短期ゾーンの利回りが急激に上昇してきたのに対して、長期ゾーンの利回りは、金融引き締めが経済に打撃を与えるとの懸念から、緩やかな上昇にとどまっている。その結果、イールドカーブは全体としてフラット化が進み、一部で逆イールドが起きた。
もちろん、イールドカーブで経済動向を完全に説明できると確信していない向きもある。一部の市場関係者は、過去2年間にわたるFRBの大規模な債券買い入れが10年債利回りを人為的に低く抑えてきたという事実を挙げ、FRBがバランスシート縮小を開始する時点で利回りが跳ね上がり、イールドカーブがスティープ化するのは必至だとみている。
事態が厄介なのは、イールドカーブの各部分がそれぞれ異なったシグナルを発しているという点にもある。
金融市場は2年債利回りこそがFRBの政策を適切に反映するとみなし、イールドカーブの2─10年部分を注視している。だが、多くの研究論文が好んで用いるのは3カ月物短期国債(Tビル)と10年債の利回り差で、こちらはリセッションを示唆していない。
アライアンスバーンスタインのシニアエコノミスト、エリック・ウィノグラッド氏は、逆イールドを巡る議論は「熱くなり過ぎ」だと指摘。「論じられている内容は理解できるし、リスクテークの観点からフラット化や逆イールドが幅広いリスク資産にとって試練の1つになるとも思う。だが、5ベーシスポイント(bp)の差で逆イールドになったかどうかで、リセッションについて私の不安は増さないだろう」と言い切った。
また、TDセキュリティーズのゴールドバーグ氏は、投資家が今回の逆イールドはそれほど深刻に受け止めなくて済むかもしれないと指摘。FRBの利上げサイクルがまだ始まったばかりで、経済が下振れしそうになれば、金融政策のブレーキを緩める時間的な余裕があるからだと説明した。
ただ、大きな流れは無視できないとの意見もある。コロンビア・スレッドニードルのシニア金利・通貨アナリスト、エドワード・アルフセイニ氏は「逆イールド局面というのは、経済が好況よりもリセッションとの距離の方がはるかに近いのは確かだ。われわれは、まさに今その場所にいる。市場がストレスを受ける地点にやってきたことは明白だ」と強調した。
(Megan Davies記者、Ira Iosebashvili記者)