[東京 27日 ロイター] - 日本製鉄の森高弘副社長は、エネルギーの脱ロシア依存が進み始めた影響で、液化天然ガス(LNG)需要が増加し、掘削用のシームレス鋼管の引き合いが増加していることを明らかにした。同事業は脱炭素化の流れや新型コロナウイルスの感染拡大などで2021年度に赤字だったが、今年度は黒字化を見込むという。
ロシア産LNGのシェアは約17%で世界第2位。ウクライナ侵攻で代わりの調達先を探す国が増える中、ロシア以外の生産国で増産に向けた動きが活発化している。森副社長はロイターとのインタビューで、掘削に使うシームレス鋼管の需要が拡大していると説明。「中東などで増えている」と語った。
同社のシームレス鋼管は腐食しやすい過酷な環境下でも使える高級品で、天然ガス掘削には不可欠とされる。森副社長は、汎用の鋼管が使われる石油向けは石油メジャーの投資が戻っていないことから厳しい状況が続いているが、LNGは「トランジション(移行期の)エネルギーとして残る。そう大きく悲観的ではない」と述べた。
シームレス鋼管事業は19年度後半から厳しい環境に直面した。脱炭素で石油メジャーが投資を手控えたことに加え、コロナの世界的な感染拡大の影響で、21年度に赤字転落した。足元の需要増はおよそ半年後に収益に反映され、さらに円安の追い風もあり、22年度は「間違いなく黒字になる。それなりの利益を出すだろう」と語った。「まずは19年度の利益水準に届きたいが、そこまで行けるかどうかは分からない」とした。
<今期懸念はコスト高、鋼材価格に転嫁へ>
森副社長は今期の懸念材料として、原料高とそれをさらに押し上げかねない円安を挙げ、「鋼材市況が低迷するなかで、原料ばかりが上がるのが最大のリスク」と述べた。ただ、足元の海外市況は「コスト高に対して持続性のない市況水準だと思う。今の原料価格が続くのであれば、市況は戻ってくると思う」との見通しを示した。
同社は5月10日に22年3月期決算を発表した際、ロシア・ウクライナ情勢などで先行きが極めて不透明だとし、今期の業績見通しの開示を見送った。
21年度の鋼材価格は、20年度比1トンあたり3万1500円上昇して11万7700円となった。足元では、主原料、市況原料、物流費などの外部コストが昨年度下期比4万円超上がっている。森副社長は「外部コストの上昇は、サプライチェーン全体で負担していくということは、顧客とも共通認識としてある」と指摘、鋼材価格へ転嫁していく意向を示した。さらには、商品やサービスの価値の部分についても、引き続き価格への反映を求めていく考えだ。
*インタビューは25日に実施しました。