[ムンバイ 24日 ロイター] - インド南部では、映画やテレビのスター俳優を熱狂的なファンが神のごとく崇拝している。応援する俳優の大きな像を造ってミルクを注ぐのは、映画作品の成功を祈る儀式の1つだ。
動画配信大手の米ネットフリックスは、この独特の市場で出遅れていたが、いま、熱心に浸透を試みている。ネットフリックスは、インド国内のさまざまな地方の映画は手広く揃えているが、視聴者をサービスの常連として繋ぎ止めておく鍵となるテレビ向けシリーズとなると、ヒンディ語の人気ドラマをいくつか握っているだけで各地域の地方の言語でのテレビドラマは手付かずのままだ。
ネットフリックスの計画に詳しい関係者6人がロイターに語ったところでは、同社は今年、インド南部の言語のテレビドラマ少なくとも6本の制作開始を決め、いわゆる「トリウッド」市場での契約を推進している。「トリウッド」とは、映画・テレビ産業が盛んなテルグ語(Telugu)及びタミル語(Tamill)地域のTと「ハリウッド」を組み合わせた造語だ。
こうしたインド南部の映画産業は、ヒンディ語市場の「ボリウッド」と同様に多くの作品を生み出しており、アクション満載の派手な内容で知られている。最近は非常に業績も良く、インド国内の興行収入では、今年ここまで圧倒的な勢いを見せている。
情報提供者の1人である「トリウッド」のプロデューサーは、「(ネットフリックスは)この地域のプロデューサーや映画製作者ほぼ全員に会っている。こうした接触の成果は来年までに現われるだろう」と語る。情報提供者は全員、ビジネス機会を失うことを恐れて、匿名で取材に応じた。
ネットフリックスは、人口14億人を抱えるインドを以前から重要な市場と位置付けていた。インド進出から2年を経た2018年、リード・ヘイスティングス最高経営責任者(CEO)は、同社が次に獲得する加入者1億人は、インド市場から得られるだろうと予言した。だがアナリストらの試算によれば、インドでのネットフリックス加入者はわずか500─600万人にとどまっている。
ヘイスティングスCEO自身も認めているように、ネットフリックスのインドでの業績は、他市場に比べ伸び悩んでいる。南部市場への新たな攻勢も、成長機会の模索が同社の急務になっているという事情を反映している。
ネットフリックスは4月、投資家を慌てさせた。1-3月期に過去10年以上見られなかった加入者数の純減が生じたことを報告し、今後さらに減少が進むとの予測を示したためである。その後、同社の株価は50%近くも下落した。
<競合他社に劣る規模>
インドでのネットフリックスは、会員制の動画配信市場における収益シェアという点でライバルを上回っている。メディア・パートナーズ・アジアによれば、2位のディズニープラス・ホットスターの23%に対して、ネットフリックスは39%だった。
だがアナリストらによれば、加入者基盤が弱すぎて、とても安心はできないという。ネットフリックスの500-600万人に対し、クリケット競技の配信権を握っているディズニープラス・ホットスターは約5000万人、地元のライバルであるZee5は推定2000万人だ。またアナリストらは、アマゾン・プライム とソニーLIVの加入者数もネットフリックスの数字をかなり上回っていると推測している。
米国を本拠とするパロット・アナリティクスで戦略ディレクターを務めるジュリア・アレクサンダー氏は、「(インド市場の潜在的可能性は)過小評価できない」と語る。
「ネットフリックスが地元のクリエイターや撮影スタジオ、製作会社ともっと強い関係を構築し、インド国内でしっかりした立ち位置を確保することによって同国市場の可能性を活かしきれなければ、他のライバルにそれを許すことになる」とアレクサンダー氏は言う。
ロイターではネットフリックスに対し、インドでの業績に対する批判や地方言語市場への攻勢について取材した。同社は回答の中で、「インドにおける長期的な成功戦略」と称するものに自信を持っている、と述べている。
「会員の獲得と会員向けコンテンツの多様さの両方に関して、インドは引き続き当社にとって非常に大きな投資機会・成長機会となっている」とネットフリックスは言う。
ネットフリックスの伸び悩みは、コスト意識が非常に高いインド市場において、競合他社よりもかなり高い料金設定になっていることが主な原因だ。昨年末に料金を引き下げて競争力を増したとはいえ、依然としてライバルよりもかなり高額のままだ。
最高画質で4台までのデバイスで利用できる配信プランは、月649ルピー(約1000円)。ディズニーの同等プランは299ルピーだ。デバイス1台までのモバイル専用プランは、ネットフリックスでは月149ルピーだが、ディズニーは同じ金額で3カ月利用できる。
ネットフリックスは高品質サービスというブランド性があるだけに、さらなる値下げに消極的なのかもしれない。そうだとすれば、加入者数の大幅な成長に向けた最善の道は、テレビドラマのラインナップを拡大することである、とアナリストらは指摘する。
だが、ロイターの取材に応じたインドのプロデューサー2人によれば、ネットフリックスはライバルに比べ製作発注までに要する時間がかなり長く、コンテンツ開発者へのフィードバック提供もスムーズでないという。
ネットフリックスからロイターへの回答では、こうした批判については触れていなかった。
新たにインド南部の地方言語によるコンテンツが加わったとしても、ネットフリックスは依然としてライバルに先行されている。たとえばアマゾンは先月、オリジナルの新作テレビドラマを22本発表した。そのうち8本はタミル語かテルグ語によるものだ。
ネットフリックスとの協議を進めているというあるプロデューサーは、「ネットフリックスはまだ発注段階で、アマゾン、ディズニー、ソニーに比べると出遅れている。他社はすでに配信を開始しているか、まもなく開始する段階だからだ」と語る。
(Shilpa Jamkhandikar記者、翻訳:エァクレーレン)