[ロンドン 19日 ロイター] - エネルギーコスト高に苦しむ西側の鉱業大手に、世界最大の資源消費国である中国の景気減速が追い打ちをかけている。中国が大型の財政刺激策を行うとの期待も遠のいており、鉱業大手は事業縮小や人員削減を迫られる恐れが出てきた。
過去数年は資源高が続いたため、多角化経営を行う鉱業大手は危機的な財務状況にまでは至っていない。しかし豪リオ・ティント、英アングロ・アメリカン、英アントファガスタなどの業界大手は中間決算が減益となり、株主還元を縮小した。
高い利益を維持している豪BHPや英グレンコアなども、向こう数カ月間は需要減退によってリターンが低下しかねないとの懸念を示している。
国際通貨基金(IMF)の予想では、2023年の世界経済の成長率は2.9%に減速する見通し。世界の原材料の50%以上を消費する中国は、新型コロナウイルスの拡大を厳格に抑える「ゼロコロナ」政策に固執し、ロックダウン(都市封鎖)を繰り返して生産と需要の減速を招いている。
2015─16年に中国経済が減速して需要とコモディティー価格の急落につながった際、政府は大規模な財政刺激策を実施した。しかし今回の景気減速では、今のところそうした措置を見送っている。
リオ・ティントの元最高経営責任者(CEO)、ジャンセバスチャン・ジャック氏は「多くの業界関係者は、中国が近く大型の刺激策を発表するのを当てにしているようだ」と指摘した上で、「しかし国内で差し迫った問題が生じない限り、中国が世界に恩恵をもたらすような大型刺激策を繰り出すとは考え難い。危うい地政学的環境を踏まえると、なおさらのことだ」との見方を示した。
<中国と西側のムード悪化>
ロシアが2月にウクライナに侵攻して以来、中国と西側の関係は悪化。ペロシ米下院議長が今月台湾を訪問したことで、ムードはさらに暗くなった。
コモディティー需要が減少して価格が下がれば、鉱業企業は設備投資の縮小や裁量的支出の見直し、人員採用の抑制を迫られかねないとジャック氏はみる。
ジャック氏によると、その次の局面では「赤字の非中核資産を再編し、人員削減を積極化し、さらには納入契約を見直すという、より大きな難題に取り組む」ことになりそうだ。コストの現状を反映していない長期契約について、顧客と交渉を再開する必要が出てくるかもしれないという。
ロシアのウクライナ侵攻により、世界的にエネルギーコストは上昇した。特にロシアの天然ガス供給に大きく依存するドイツはその影響を受けやすい。
ドイツ政府は臨時措置として、消費者や緊急サービスを守るために産業界へのエネルギー供給を制限するとみられ、自動車大手のフォルクスワーゲン(VW)やBMWは生産縮小を余儀なくされる見通しだ。自動車産業はコモディティーを大量に利用する。
自動車産業は既に、インフレによる購買力の低下を背景に、消費需要が減退する兆しがあると報告している。
オールド・ミューチュアルのポートフォリオマネジャー、イアン・ウッドレイ氏は「悪夢のシナリオは、エネルギー不足によってドイツの自動車や化学など一部産業が長期間の閉鎖を迫られることだ」と指摘。「これらはコモディティーの大量消費先なので、明らかに影響が波及するとともに、サプライチェーン(供給網)をさらに揺るがすだろう」と予想した。
エネルギー料金の高騰により、イタリア、ノルウェー、スロバキア、スペイン、オランダの各国では亜鉛とアルミニウムの精錬所が生産停止に追い込まれており、企業によるとさらに停止が拡大する可能性も高い。
ノルウェーのアルミニウムメーカー、ノルスク・ハイドロのパール・キルデモCEOは7月の決算発表後、「部品を買いたい自動車メーカーがいないのであれば、わが社が生産する理由はない」と述べていた。
(Clara Denina記者)