■窪田製薬ホールディングス (TYO:4596)の主要開発パイプラインの概要と進捗状況
2. 遠隔眼科医療モニタリングデバイス「PBOS」
(1) PBOSの特徴と競合状況
「PBOS」は、ウェット型加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫等の網膜疾患の患者を対象にした遠隔眼科医療モニタリングデバイスである。
患者自身が網膜の厚みの測定や撮影を行い、担当医師がインターネットを介してそのデータを確認し、治療(投薬)の必要性の有無を診断する。
従来、こうした患者は定期的に通院してOCT※検査を行い、必要に応じて治療(眼内注射)を行っていた。
「PBOS」では、在宅で手軽に検査できることから検査のための通院の必要性がなくなるほか、適切なタイミングで治療を受けることが可能となり、症状が悪化するリスクを低減できるといったメリットがある。
距離や経済的な問題で定期的に通院できず症状を悪化させる患者も多いだけに、在宅で手軽に検査できるデバイスの潜在的なニーズは大きいと見られる。
病院側でも検査よりも治療に充てる時間を増やしたほうが経営面でプラスとなるほか、製薬企業にとっても適切な投薬が実施されることで従来よりも販売量が増える可能性があるなど、すべての関係者がメリットを享受できる仕組みとなっているのが特徴だ。
※OCT(Optical Coherence Tomography):赤外線を利用して網膜の断面を精密に撮影する検査機器のこと。
緑内障や加齢黄斑変性等の網膜疾患患者の診断用として使用される。
特にコロナ禍以降は、感染防止対策という面からも在宅OCTのニーズが増している。
このため、米国医師会では在宅OCTの活用を推進するため、保険適用に必要となる手続きのガイドラインを2020年7月1日付で発表しており、普及する条件は既に整っていると言える。
在宅OCTを商用化している企業はまだなく、開発済みの企業としては同社のほかNotal Vision, Inc.など数社に限られる。
同社製品は、操作ボタンの大型化や操作方法を音声ガイダンスでサポートする機能を実装するなど、高齢の患者に配慮した設計となっているほか、検査時間も競合のNotal Vision製品より短く手軽に利用できることが特徴となっている。
Notal Visionの製品は米国で販売承認申請中となっており、同社はやや遅れた格好となっているが、今後巻き返すチャンスは十分あると見られる。
(2) 今後のスケジュール
現在の開発状況については、2022年1月より国内の医療機関(鹿児島園田眼科・形成外科)で開始された前向き介入研究が終了し(41例実施)、同結果などを踏まえ共同開発契約締結に向けた交渉を進めている。
同研究は使用感の評価を目的としたもので、医師主導の臨床試験として行われたため、結果については同社の判断では開示できないが、おおむね良好な結果が得られたようだ。
本研究の責任者である院長の園田祥三医師は、眼科医療にAIを活用するための研究開発に積極的に取り組んでおり、2020年に新設された日本眼科AI学会の評議員にもなっている。
「PBOS」でのAIによる3D画像生成機能などが実用化レベルに達しているとの評価が得られれば、共同開発契約の交渉においてプラスに働くと見られ、今後の学会発表等の内容が注目される。
パートナー契約が締結された場合には、米国にて臨床試験を実施するものと予想されるが、実用化に向けて改善の必要があれば、引き続き自社で開発を継続することになる。
なお、「PBOS」についても特許取得を進めており、2022年8月には、光干渉断層撮影画像をAIによって評価する仕組みについての特許取得を発表した。
同社資料によれば、大手製薬企業が2018年に実施した在宅OCT市場に関する調査※のなかで、在宅OCTに関心を持つ眼科医や患者の割合はいずれも50%以上となっている。
また眼科医のうち、患者が在宅OCTを受け入れると推定した割合も米国で38%、日本で30%であったというデータが明らかとなっている。
コロナ禍が続く現状ではさらに関心が高まっているものと思われ、米国での開発に成功すれば、欧州や日本でも展開していくことが予想される。
※加齢黄斑変性治療薬を手掛けている大手製薬企業であるノバルティス (NYSE:NVS)が2018年に作成した在宅OCT市場に関する調査。
(3) ビジネスモデルと市場規模
米国でのビジネスモデルは、患者の初期負担が軽減されるレンタルサービスとして、毎月利用料を徴収する方式となる可能性が高い。
保険適用されれば患者負担も大幅に軽減できるため、普及も加速していくものと考えられる。
加齢黄斑変性などの網膜疾患は根治療薬がないことから、一度「PBOS」を使うと失明しない限りは継続して使用される可能性が高く、ストック型ビジネスとして将来的に安定した収益源に育つ可能性がある。
米国市場における潜在的な市場規模は、ウェット型加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫等の患者が対象となる。
同社資料※1によれば、加齢黄斑変性の米国における患者数は2010年の206万人から2030年に266万人、2050年に544万人と2.7倍に拡大すると予測されている。
このうちウェット型は約10%程度となる。
また、ドライ型でも黄斑部が地図上に委縮して症状が悪化する患者数はウェット型と同規模いると見られており、こうした患者も対象となる。
このため2050年の対象患者数は110万人程度になると予想される。
一方、北米の糖尿病患者数は2021年の5,100万人から2045年に6,300万人に増加すると予測されている※2。
日本では糖尿病患者のうち糖尿病網膜症の有病率が15~23%で、そのうち約20%が糖尿病黄斑浮腫を併発するとの報告があり※3、米国でも同程度の有病率と仮定すれば米国における糖尿病黄斑浮腫の患者数は2045年時点で180~230万人程度の予想され、「PBOS」の対象となる患者数は現在の約200万人から2050年前後には300万人になると推計される。
※1 出所:Market Scope, The Global Retinal Pharmaceuticals & Biologic Market, 2015.
※2 出所:世界糖尿病連合「IDF糖尿病アトラス」第10版, 2021
※3 中野 早紀子,第114回(公財)日本眼科学会総会2010:135(糖尿病黄斑浮腫は糖尿病網膜症患者の20%に発生するという報告に基づく)。
「PBOS」の月額利用料を千円、2050年時点の普及率を50%と仮定すれば、2050年時点で180億円の市場規模となる。
その時点では欧州や日本でも普及している可能性が高いことから、世界市場としてはその数倍規模になるものと予想される。
加齢黄斑変性等の網膜疾患は主要な失明原因の1つとなっており、高齢者人口が今後も増加の一途を辿ることを考えれば、「PBOS」の潜在的な成長ポテンシャルは極めて大きいと弊社では考えている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
2. 遠隔眼科医療モニタリングデバイス「PBOS」
(1) PBOSの特徴と競合状況
「PBOS」は、ウェット型加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫等の網膜疾患の患者を対象にした遠隔眼科医療モニタリングデバイスである。
患者自身が網膜の厚みの測定や撮影を行い、担当医師がインターネットを介してそのデータを確認し、治療(投薬)の必要性の有無を診断する。
従来、こうした患者は定期的に通院してOCT※検査を行い、必要に応じて治療(眼内注射)を行っていた。
「PBOS」では、在宅で手軽に検査できることから検査のための通院の必要性がなくなるほか、適切なタイミングで治療を受けることが可能となり、症状が悪化するリスクを低減できるといったメリットがある。
距離や経済的な問題で定期的に通院できず症状を悪化させる患者も多いだけに、在宅で手軽に検査できるデバイスの潜在的なニーズは大きいと見られる。
病院側でも検査よりも治療に充てる時間を増やしたほうが経営面でプラスとなるほか、製薬企業にとっても適切な投薬が実施されることで従来よりも販売量が増える可能性があるなど、すべての関係者がメリットを享受できる仕組みとなっているのが特徴だ。
※OCT(Optical Coherence Tomography):赤外線を利用して網膜の断面を精密に撮影する検査機器のこと。
緑内障や加齢黄斑変性等の網膜疾患患者の診断用として使用される。
特にコロナ禍以降は、感染防止対策という面からも在宅OCTのニーズが増している。
このため、米国医師会では在宅OCTの活用を推進するため、保険適用に必要となる手続きのガイドラインを2020年7月1日付で発表しており、普及する条件は既に整っていると言える。
在宅OCTを商用化している企業はまだなく、開発済みの企業としては同社のほかNotal Vision, Inc.など数社に限られる。
同社製品は、操作ボタンの大型化や操作方法を音声ガイダンスでサポートする機能を実装するなど、高齢の患者に配慮した設計となっているほか、検査時間も競合のNotal Vision製品より短く手軽に利用できることが特徴となっている。
Notal Visionの製品は米国で販売承認申請中となっており、同社はやや遅れた格好となっているが、今後巻き返すチャンスは十分あると見られる。
(2) 今後のスケジュール
現在の開発状況については、2022年1月より国内の医療機関(鹿児島園田眼科・形成外科)で開始された前向き介入研究が終了し(41例実施)、同結果などを踏まえ共同開発契約締結に向けた交渉を進めている。
同研究は使用感の評価を目的としたもので、医師主導の臨床試験として行われたため、結果については同社の判断では開示できないが、おおむね良好な結果が得られたようだ。
本研究の責任者である院長の園田祥三医師は、眼科医療にAIを活用するための研究開発に積極的に取り組んでおり、2020年に新設された日本眼科AI学会の評議員にもなっている。
「PBOS」でのAIによる3D画像生成機能などが実用化レベルに達しているとの評価が得られれば、共同開発契約の交渉においてプラスに働くと見られ、今後の学会発表等の内容が注目される。
パートナー契約が締結された場合には、米国にて臨床試験を実施するものと予想されるが、実用化に向けて改善の必要があれば、引き続き自社で開発を継続することになる。
なお、「PBOS」についても特許取得を進めており、2022年8月には、光干渉断層撮影画像をAIによって評価する仕組みについての特許取得を発表した。
同社資料によれば、大手製薬企業が2018年に実施した在宅OCT市場に関する調査※のなかで、在宅OCTに関心を持つ眼科医や患者の割合はいずれも50%以上となっている。
また眼科医のうち、患者が在宅OCTを受け入れると推定した割合も米国で38%、日本で30%であったというデータが明らかとなっている。
コロナ禍が続く現状ではさらに関心が高まっているものと思われ、米国での開発に成功すれば、欧州や日本でも展開していくことが予想される。
※加齢黄斑変性治療薬を手掛けている大手製薬企業であるノバルティス (NYSE:NVS)が2018年に作成した在宅OCT市場に関する調査。
(3) ビジネスモデルと市場規模
米国でのビジネスモデルは、患者の初期負担が軽減されるレンタルサービスとして、毎月利用料を徴収する方式となる可能性が高い。
保険適用されれば患者負担も大幅に軽減できるため、普及も加速していくものと考えられる。
加齢黄斑変性などの網膜疾患は根治療薬がないことから、一度「PBOS」を使うと失明しない限りは継続して使用される可能性が高く、ストック型ビジネスとして将来的に安定した収益源に育つ可能性がある。
米国市場における潜在的な市場規模は、ウェット型加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫等の患者が対象となる。
同社資料※1によれば、加齢黄斑変性の米国における患者数は2010年の206万人から2030年に266万人、2050年に544万人と2.7倍に拡大すると予測されている。
このうちウェット型は約10%程度となる。
また、ドライ型でも黄斑部が地図上に委縮して症状が悪化する患者数はウェット型と同規模いると見られており、こうした患者も対象となる。
このため2050年の対象患者数は110万人程度になると予想される。
一方、北米の糖尿病患者数は2021年の5,100万人から2045年に6,300万人に増加すると予測されている※2。
日本では糖尿病患者のうち糖尿病網膜症の有病率が15~23%で、そのうち約20%が糖尿病黄斑浮腫を併発するとの報告があり※3、米国でも同程度の有病率と仮定すれば米国における糖尿病黄斑浮腫の患者数は2045年時点で180~230万人程度の予想され、「PBOS」の対象となる患者数は現在の約200万人から2050年前後には300万人になると推計される。
※1 出所:Market Scope, The Global Retinal Pharmaceuticals & Biologic Market, 2015.
※2 出所:世界糖尿病連合「IDF糖尿病アトラス」第10版, 2021
※3 中野 早紀子,第114回(公財)日本眼科学会総会2010:135(糖尿病黄斑浮腫は糖尿病網膜症患者の20%に発生するという報告に基づく)。
「PBOS」の月額利用料を千円、2050年時点の普及率を50%と仮定すれば、2050年時点で180億円の市場規模となる。
その時点では欧州や日本でも普及している可能性が高いことから、世界市場としてはその数倍規模になるものと予想される。
加齢黄斑変性等の網膜疾患は主要な失明原因の1つとなっており、高齢者人口が今後も増加の一途を辿ることを考えれば、「PBOS」の潜在的な成長ポテンシャルは極めて大きいと弊社では考えている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)