[東京 10日 ロイター] - 日本防衛装備工業会の村山滋会長はロイターとのインタビューで、武器輸出を本格的に進めるなら与党が協議しているルールの緩和では十分ではなく、米国のFMS(対外有償軍事援助)のような政府主導の制度を創設すべきと語った。弱体化が指摘される防衛産業の支援に政府が乗り出したことを評価しつつ、継続性があるか注視していく考えを示した。
村山氏は川崎重工業の社長、会長を歴任し、現在は同社の特別顧問。今年3月に日本で開かれた防衛装備品の国際展示会(DSEI)に出展した同社の装備品に対し、会場を訪れた参加国の1つから関心が寄せられたという。
村山会長は「紛争当事国には武器を売れないが、ウクライナのようなことをされた国には支援しようという声も出る」と指摘。「われわれでは決められない。外交上、防衛上有利になるからここへ輸出しようという政府の方針がまずあって、その上で初めて(企業が)動ける」とした。
政府は昨年末にまとめた防衛三文書に武器輸出の三原則を緩和する方針を盛り込み、現在、与党である自民、公明両党が運用指針の見直しを協議している。武器輸出の要件緩和で、輸出可能な武器の対象を拡大するほか、自衛隊向けにほぼ限られていた市場の拡大や他国との安全保障関係の強化などを狙っている。
しかし、村山会長は「三原則を外したから売ってこい、というわけにはいかない」と話す。武器輸出は相手国から技術移転や購入資金の支援といった交換条件を求められることもあり、民間企業では対応しきれず、政府が窓口となる米国のFMSのような仕組みを日本も創設する必要があるという。
FMSは米政府が相手国政府と協議し、武器の引き渡しや訓練支援、第三国への移転管理まで手掛ける制度。「オフセット」と呼ばれる交換条件も政府間でやり取りすることから、企業のリスクや負担は小さくなる。
川崎重工が手掛ける哨戒機や輸送機の調達に興味を示す国もあるが、実際の商談まで進んだことはないという。フランスが産業振興策を組み合わせて日本を破ったオーストラリアの潜水艦受注合戦にも言及し、「国の方針、国と国の関係で決まる。日本のほうが価格が高かったとか、技術力が足りなかったなどといった以前の問題だ」と語った。
一方で、FMSを創設するには新たな組織、予算、人員が必要になる。村山会長は「政府内に関係省庁を取りまとめる司令塔的な組織を作って進めることが必要ではないか」と指摘。「海外輸出を、と国が考えるならそれも1つの選択肢だし、今まで通り国内だけでやっていくと考えるのも1つの選択肢」と述べた。
川崎重工で防衛事業に約30年携わってきた村山会長は、6月に国会で成立した防衛装備品生産基盤強化法など政府の一連の施策について、「防衛産業を防衛力そのものと定義している。防衛産業を育成し、持続性を高めなくてはならないという国の方針が初めて出た」と評価した。
同法は財政支援を通じ、防衛省が調達する装備の利益率を高めたり、事業継続が困難となった際に製造ラインの国有化を可能にすることなどが柱。自衛隊に市場が限られる日本の防衛産業は、防衛費の減少や輸入品の増加とともに弱体化が指摘され、採算が合わず撤退する企業も相次いでいた。
政府は2023年度から5年間の防衛費を前回計画の1.6倍となる43兆円に増やすことを決めた。村山会長は予算がついたことを「第一歩だ」と評価する一方、生産増強に必要な設備投資、成長に欠かせない研究開発は長期にわたって費用負担が生じるため、予算や支援に継続性があるかどうか注視していく考えを示した。
村山会長は「収益性、持続性、継続性、成長性。全部一体にならないと産業としては健全にならない」と述べた。
*インタビューは8日に実施しました。
(久保信博、豊田祐基子、Tim Kelly 編集:石田仁志)