1月26日に中国国務院が発表した同国初となる北極圏政策「中国北極政策」には、北極海の海運権の掌握を狙う野心的な計画が明らかになった。
同政策の発表は、ユーラシア大陸を陸路と海路でぐるりと繋ぐ中国主導の経済圏構想「一帯一路」に、北極圏にも広がる第三のルートである北極海航路「氷上のシルクロード」の本格的な開発が始まることを意味する。
中国北極政策には、ヨーロッパとアジアを結ぶ航路「氷上のシルクロード」の開拓、北極における石油・天然ガスなどの天然資源の掘削、漁業資源の利用、北極エリアの観光や新興産業の開発を記し、「利益関係にある諸国と共同で持続可能な経済開発を促進する」と同時に、「自国利益追求のために」北極資源を利用すると記されている。
すでに中国当局は北極海路にあたり、日本を含む海路周辺国の企業にインフラ建設や商用利用を呼び掛けている。
同ルートでは津軽海峡を通過し、北海道の釧路や苫小牧も一部に含まれる。
世界60カ国、世界人口の6割に影響を及ぼすと言われる、習近平氏肝いり政策である一帯一路。
2017年10月の中国共産党大会にも、共産党の最高規則である党規約改正案にも、この巨大構想の推進が盛り込まれた。
あわせて読みたい:中国共産党、「一帯一路」の規約挿入に驚きの声 www.epochtimes.jp/2017/10/29165.html
米ニューズウィーク2017年1月の解説記事によると、中国の目的は、短期・中期的にはルート上の国々でのインフラ建設や通信の契約、機械・装置の提供。
長期的にはそれらの国々に繋いだ貿易関係で中国製品を輸出することを狙う。
一部の専門家は、該当国にチャイナマネーを大量に浸透させ、現地政府を中国政府に傾向させる戦略だと警鐘を鳴らす。
*東京で「氷上のシルクロード」説明会
中国官製メディアによると、東京で2月9日、中国の大手海運企業が開いた「氷上のシルクロード」に関する商業説明会には、在日中国系企業を含む日本法人の代表ら110人あまりが参加した。
説明会を開催したのは、コスコシッピングラインズジャパン(中遠海運日本)。
中国遠洋海運グループ(COSCOSHIPPING)のコンテナ船事業を統括する子会社「中遠海運集装箱運輸(COSCOSHIPPINGLINES)」が100%出資する日本法人だ。
「日本企業」ではあるが、経営陣は中国人で、企業組織には中国共産党支部が置かれる。
同説明会にも同支部共産党書記・盛鋼氏が出席。
同報道によると、在日本中国大使経済商務官・景春海氏も姿を見せたという。
説明会でコスコシッピングラインズジャパン社長・譚兵氏は、日本企業に「一帯一路」および「氷上のシルクロード」参加を呼び掛けた。
景春海氏は日本政府も同プロジェクトに参加意思があり、日中の企業が共同して発展できる事業だとアピールした。
すでにこの北極海航路の日中ビジネスは進んでいる。
環球時報によれば、中遠海運と北海道大学は夏季に氷上のシルクロードを利用して、日本の野菜や海産物を欧州に輸出するプロジェクトを計画しており、今年にも始動する予定だという。
大紀元特集:一帯一路 www.epochtimes.jp/special/187/
*売り文句は「アジアとヨーロッパを繋ぐ最短海路」
中国当局が目を向ける北極海ルートには、南下ルートの「一路」よりも有利な条件がいくつも揃っている。
中国発欧州着のルートでは、ユーラシア大陸を南下する「一路」は2万1000キロ、北上する北極海航路は1万3000キロ。
消耗する燃料も時間も大幅に減る。
また、中東の紛争地域や海賊出没地域を避けることができる。
そして、通航料の高額なスエズ運河も通らず欧州まで繋ぐことができる。
北極海ルートは海運路としては海氷や流氷に覆われ、夏以外は航行不能なルートだった。
しかし、地球温暖化による影響か、航行できる期間は長くなっている。
北極評議会(ArcticCouncil)の一組織である北極圏監視評価プログラム(AMAP)によると、2030年からは夏に氷海がなくなる可能性があるという。
北極クマ(参考写真)
共産党機関紙・環球時報によると、このアジアとヨーロッパを繋ぐ最短海路は実際、5年前に「成功」しているという。
中遠海運の貨物船は2013年8月15日に江蘇省を出発し、ベーリング海を抜けロシア北部を通り、北極海、グリーンランド海、ノルウェー海を通り9月10日、オランダのロッテルダム港に到着した。
中遠海運は、2017年末までに貨物船10隻を航行させており、2018年にはさらに砕氷タンカー3隻を追加する予定だ。
今後もさらに北極海航路の専用貨物船を増加させると同紙は報じている。
*「ビジネスの思惑ではない」日本の専門家も警鐘鳴らす
国際政治学者で福井県立大学教授の島田洋一氏は、「氷上のシルクロード」が日本の安全保障の不安材料になると指摘する。
中国当局が南シナ海周辺諸国の主張を無視して島嶼を占拠し、軍事目的と考えられる人工島の建造を続けていることを例に挙げた。
「長い間、中国が軍事目的で北極海を利用したがっていることは、公然の秘密だった」と島田氏は英字紙サウスチャイナ・モーニングポストに対してこう述べた。
「中国側は経済的なチャンスについて多く話している。
貿易とビジネスの機会が増えることは確かだが、しかし、北京の決定は人民軍の動きを念頭に置いたものだ」
「南シナ海の島嶼を奪うために同様の論理的根拠を用いていた。
中国側が単純にビジネスの思惑で動いていると捉えるのは、全く甘い考えだ」。
合わせて読みたい:フィリピンが中国に抗議へ、南シナ海の人工島に空軍基地建設か www.epochtimes.jp/2018/01/30556.html
南極で「豪州のリーダーシップを中国が侵している」=豪シンクタンク www.epochtimes.jp/2017/08/28245.html
北海道を中心に外国資本による土地や資源買収を調査する前北海道議会議員・小野寺まさる氏は2月8日、時事評論番組「虎ノ門ニュース」に出演し、氷上のシルクロードにおいて北海道の釧路や苫小牧は中国当局の注目する港になっていると述べた。
小野寺氏の作成した解説地図によると、日本海に接しない中国本土は、中国当局が借款する北朝鮮の羅津港、清津港を使い津軽海峡を通り、北海道の釧路港と苫小牧港へ繋ぐ。
釧路日中友好協会によると、中国政府は、北海道最北の稚内と露サハリンの間にある宗谷海峡ではなく、北海道と青森県の間の津軽海峡が「国際航路の主流になることを確認している」という。
新千歳空港にも近い苫小牧港には、中遠海運の幹部2人が視察。
6月には北極海ルートで巡った貨物船が初入港した。
また、日本政府により国際バルク戦略港湾に選定された釧路港では大規模開発が進んでおり、ここ3年で中国大使館公使、程永華大使、一等書記官が視察した。
1等書記官は釧路日中友好協会2016年12月例会に出席し、「北極海航路の試験運用に本腰を入れている。
アジアの玄関口として、釧路には『北のシンガポール』となるような成長性を期待している」と述べた。
同会会長の中村圭佐氏は2018年1月26日『日中友好・新春の集い』北海道・札幌日中友好協会に出席し、あいさつのなかで「習近平政権のめだま政策である『一帯一路』『氷上のシルクロード』では、釧路が国際的にも大変注目を集めている。
釧路市の発展はそのまま北海道の活性化に直結する命題」と強調した。
中国共産党政権主導の経済計画が北海道に浸透していることが垣間見える。
小野寺氏は「これは(私の)妄想などではなく、中国による世界戦略の一つとして北海道が含まれているということを確認していただきたい」と述べ、広く周知を呼び掛けた。
(文・佐渡道世)
【ニュース提供・大紀元】