Lauren Silva Laughlin
[ニューヨーク 1日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米銀最大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)が、経営破綻した銀行の救済を巡る波乱の舞台の主役として戻ってきた。
15年前にベアー・スターンズの買収で苦い思いを味わったダイモン氏はその後、もう救済にはかかわらないと発言していた。ところが1日朝、中堅銀行ファースト・リパブリック銀行を連邦預金保険公社(FDIC)の管理下から引き取ると表明したのだ。
これで当面、納税者にかかる重圧は和らぐし、取引条件面からすればJPモルガン株主にもプラスに働くのは間違いない。だが破綻銀行について、「大き過ぎてつぶせない」という危険な発想をさらに定着させない形でどうやって処理すべきか、米当局が有効な手だてを持ち合わせていないことも改めて浮き彫りとなった。
JPモルガンにとって今回は非常に有利な取引と言える。ファースト銀の2290億ドル弱の資産と約1730億ドルのローンを実勢評価額よりおよそ13%低い価格で取得できるからだ。税金とFDICへの1060億ドルを支払った後、統合費用を計上する前の段階でJPモルガンは26億ドルの利益を確保できる。資本バッファーに対する悪影響も想定していない。
FDICはダイモン氏の支援を得るために、幾つかの好条件も提示した。ファースト銀のローンポートフォリオの大部分について損失の最大8割の負担を申し出たほか、500億ドルの固定金利タームローンも提供する。
通常の環境であれば、JPモルガンがファースト銀を買収するのは認められなかっただろう。まして幾つかの公的な支援措置付きなどもっとあり得ない。全米の預金残高の少なくとも10%を保有する銀行は買収を通じてそれ以上預金を拡大するのは許されないからだ。JPモルガンも昨年末時点で、この上限を超えていた。
それが今回、買収のお墨付きをもらったことでJPモルガンとダイモン氏は一層強大な存在になる。シティグループのジェーン・フレーザーCEOやバンク・オブ・アメリカのブライアン・モイニハンCEO、PNCファイナンシャル・サービシズのビル・デムチャックCEOといった面々は、業界最大手行がさらに巨大化するのを座視するしかない。
JPモルガンの株価がこの日、終値で2%超上昇し、ダイモン氏が自身のために政府の寛大な措置を引き出す優れた能力を持っていることが市場に評価されている点も確認された。
一方、ファースト銀を巡る当局の姿勢により、次に銀行破綻が起きた場合にどうなるのかという疑問も提起されている。FDICは3月下旬、預金流出が続いていたファースト銀のためにJPモルガンなど大手11行に300億ドルの資金支援を要請した挙げ句、今回の破綻に至っただけに、もうこうした手を使うのはほぼ不可能になった。つまりFDICは難しい立場に陥り、これ以上モラルハザードを引き起こさずに米国の預金者を救う適切な方法をなかなか見つけられないことを物語っている。
その半面、ダイモン氏は一連の行動を通じて立場が強固になった。ファースト銀の預金者だけでなく、ある意味でFDICも救済したからだ。もっともこれで納税者が安泰になったという保証はない。今後の課題は、ダイモン氏によるファースト銀救済が、確実に米国の銀行破綻の最後の1件になるような道筋をつけることになる。
●背景となるニュース
*JPモルガンは1日、ファースト・リパブリック銀行の大半の資産を購入し、この日同行を管理下に置いた連邦預金保険公社(FDIC)から預金や他の債務を引き継いだと発表した。
*この取引の一環としてFDICは新たに500億ドルの5年物固定金利タームローンを提供。一戸建て住宅ローンと商業不動産向けを含めた商業用ローンからの損失の80%もカバーする。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)