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カルナバイオ Research Memo(7):脂質キナーゼ関連販売の本格化で創薬支援事業の売上高は初の10億円乗せ

発行済 2017-04-06 15:08
更新済 2017-04-06 15:33
カルナバイオ Research Memo(7):脂質キナーゼ関連販売の本格化で創薬支援事業の売上高は初の10億円乗せ
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■今後の見通し

2. 事業セグメント別見通し
(1) 創薬支援事業
創薬支援事業の売上高は前期比287百万円増の1,000百万円、営業利益は同250百万円増の443百万円となる見通し。
売上高の内訳を見ると、アッセイ開発で前期比213百万円増、キナーゼタンパク質の販売で同60百万円増と両分野で増収要因の大半を占める格好となる。
アッセイ開発の増加は2016年7月より販売を開始した脂質(Lipid)キナーゼであるDGK(ジアシルグリセロールキナーゼ、全10種類を販売しているのは世界でもカルナバイオサイエンス (T:4572)のみ)に関する大型アッセイキットの受注獲得を見込んでいることによる。
キナーゼタンパク質の増加は前期に落ち込んだ売上の回復を目指すものである。


DGKは昨年の米国がん学会におけるシカゴ大学のトーマス・ガジェウスキー教授の発表以降、低分子によるがん免疫療法の分野においてにわかに注目が高まっている。
がん細胞を攻撃するキラーT細胞の働きに関与していることが明らかとなったためだ。
具体的には、DGKα及びDGKζと呼ばれる2種類のキナーゼが、キラーT細胞を眠らせる信号を伝達する役割を果たしていることがわかっている。
このため、DGKαとDGKζの働きを阻害する薬剤ができれば、キラーT細胞の働きを活発化させ、がん細胞への攻撃力が回復されるというわけだ。
オプジーボ等のチェックポイント阻害剤を使った治療では、メラノーマなどのがん患者に対して3割程度の患者にしか治療効果が現れないが、これは全身の免疫力が低下している患者、もしくは免疫力はあるにしてもキラーT細胞が十分活動していない患者だと推測されている。
DGKα、DGKζの働きによってキラーT細胞が十分働かないことが分かってきており、DGKα及びDGKζを標的とする治療候補化合物が開発されれば、がん免疫チェックポイント阻害剤による治療効果も一段と高まることが予想される。


こうしたことから、特にこの2種類のDGKに対して抗がん剤を開発する製薬企業等からの引き合いが活発化している。
DGKは基質が脂(Lipid)であることから水に溶けないためアッセイ系の構築、取扱いが非常に難しく、単にDGKタンパク質を購入してもアッセイ系を構築するのに相当の時間がかかる可能性が高いと見ている。
このため現在、同社では既に開発しているアッセイ系(アッセイキット)を販売する提案を行っているとしている。
1社から2種類のDGKのアッセイキットを受注すれば1件1億で合計2億円の売上規模となるものとしており、2017年12月期は少なくとも1社から2件の受注獲得を計画に織り込んでいる。
見込み顧客数は世界のメガファーマで、10社程度が考えられる。


なお、DGKの残り8種類についても脳の機能等と関係が深いため、副作用の少ない医薬品候補化合物の開発を進めていく上では、これらのキナーゼの働きに影響を与えない化合物であることが重要となる。
このため、プロファイリング等の需要は一定規模で見込めることになる。


地域別売上計画を見ると、国内向けが前期比7百万円増の426百万円、北米向けが同266百万円増の466百万円、欧州向けが同11百万円増の84百万円、その他地域向けが同横ばいの22百万円となっており、北米向けでDGKのアッセイ開発サービスの受注獲得を見込んでいると見られる。


(2) 創薬事業
創薬事業の売上高は前述したとおり、シエラからのマイルストーン収入で440百万円となり、営業損失は研究開発費の増加等により403百万円を見込んでいる。
なお、その他の主な開発パイプラインの動向については以下のとおり。


a) Wnt-signal(TNIK)阻害薬
がん幹細胞を標的としたWnt-signal阻害薬について、「NCB-0846」「NCB-0594」の2種類の化合物を国立研究開発法人国立がん研究センターと共同で研究開発している。


特に、本創薬プログラムにおいて国立がん研究センターが注力している大腸がんの90%以上の症例では、Wnt-signal遺伝子に変異が認められ、この遺伝子変異がWnt-signal伝達経路を恒常的に活性化させることによってがん幹細胞を発生させ、がんの再発を引き起こす原因と考えられている。
このWnt-signal経路の活性化に深く関与している物質がTNIKキナーゼであり、同キナーゼの働きを抑制することで大腸がん幹細胞の発現を抑止することを証明した論文を同社と国立がん研究センター等で共著し、その論文が2016年8月に世界的な学術科学雑誌「Nature Communications」に掲載された。
論文では同社の化合物である「NCB-0846」を用いて論証しており、本研究成果の報告は、世界でも初めてのこととなる。
このため、大腸がんの根治につながる治療薬として今後、さらに注目度が高まるものと予想される。
「NCB-0846」については、現在、国立がん研究センター東病院における医師主導の臨床試験に向けた検討が進んでいる段階にある。
今後は、医薬品基準に基づく前臨床試験の実施ならびに臨床試験用の化合物製造体制の構築などの準備を進め、早ければ2018年内にも臨床試験が開始される見込みで、ヒトでのPOC(Proof of concept)を取得し付加価値を高めた上で、導出活動を進めていく予定となっている。


「NCB-0846」と「NCB-0594」は共に同社の化合物だが、その違いは、「NCB-0846」が複数のキナーゼを同時に阻害することからがん細胞とがん幹細胞の両方を死滅させる効果があるのに対して、「NCB-0594」はWntシグナルを選択的に阻害し、がん幹細胞だけを死滅させる効果を持つ点にある。
がん細胞を死滅する治療薬は既に多く上市されていることもあり、海外の製薬企業においては既存治療薬と「NCB-0594」を併用し、治療効果を高めるニーズが高いようだ。
同化合物については溶けにくいという課題があったが、溶かす方法が見つかったことで現在は動物モデルのデータを蓄積している段階にある。


b) TGFβ signaling阻害薬
慢性骨髄性白血病のがん幹細胞を標的としたTGFβ signaling阻害薬について、2015年より広島大学と共同研究を進めている。
現在は化合物の最適化を行っており、早ければ2017年内に候補化合物を選択し、2018年から前臨床試験に進みたいとしている。
白血病の治療法としては、抗がん剤を用いた化学療法や造血幹細胞移植などがあるが、いずれも副作用が強く、患者負担が大きいのが課題となっている。
それに対し、分子標的薬としてはキナーゼ阻害薬であるイマチニブ(商品名Glivec®)やイブルチニブ(商品名Imbruvica®)があり、それぞれ数千億円の売上規模となっている。
ただ、いずれも白血病細胞の増殖を抑えるための薬剤で、白血病の幹細胞を死滅させるものではなく対症療法となる。
同社が開発を進めているTGFβ signaling阻害薬は、白血病幹細胞を死滅させる根治療法を目的としたものであり、研究開発が進めば市場価値も大きなものになることが期待される。
このため、同社では同治療薬の研究開発方針として、臨床試験段階に進め患者での有効性・安全性の確認を自社で行い、市場価値を高めてから導出することが考えられるとしている。


c) 神経変性疾患治療薬
神経変性疾患を対象としたキナーゼ阻害薬では、現在、アルツハイマー病やパーキンソン病の治療薬として、化合物の最適化を行い、今後、前臨床候補化合物の選定を進めていく予定となっている。
細胞レベルでは標的となるキナーゼに対して強い阻害作用を得られる化合物はできているようで、今後は同化合物が生体内(脳内)で同様に作用するかどうかを確認しながら、化合物の選択を進めていくことになる。
ただ、アルツハイマー型の動物を育て、効果を確認するのに時間とコストが掛かるため、今後は製薬企業との共同研究から始め導出契約につなげるスキームも視野に入れているとしている。


なお、アルツハイマー病やパーキンソン病の生化学的な原因は未知なところが多いとされているが、現在、治療法としては脳内にある体を動かす神経伝達物質であるドーパミンを補充したり、ドーパミンの分解を抑制したりする治療薬を複数、併用して服用するケースが一般的となっている。
同社が研究開発を進めるキナーゼ阻害薬は、タウ仮説に基づき、リン酸化タウタンパクの蓄積を抑止し、神経の壊死を抑制する薬となる。


(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)

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