[ニューヨーク 27日 ロイター] - 米銀行危機への懸念が後退したことから、一部の投資家は今回の混乱の震源地となった米地銀のうち経営基盤が強固な銘柄を値ごろ感から物色している。
10日に米地銀シリコンバレー銀行(SVB)が破綻すると銀行システムの安定性を巡る懸念が高まり、地銀セクターは全体が売りを浴びた。「iシェアーズ・リージョナル・バンクETF(上場投資信託)」はSVBの経営危機が伝わった8日以来26%近く下落。「S&Pリージョナル・バンクス・セレクト・インダストリー指数」は23%ほど下げた。
一部の地銀には今なお預金流出の不安がつきまとう。しかしファンドマネジャーの一部は今回の相場下落で株価に割安感が生じたと信じ、危機を乗り越えると見込んだ銀行の買いポジションを組んでいる。
ホッチキス・アンド・ワイリーのポートフォリオマネージャー、ハンター・ドーブル氏は「嵐の中心から比較的離れていると思われる銀行でも(株価が)20%以上下落しているところが非常に多く、バリュエーションが大きく改善している」と話す。ドーブル氏はシチズンズ・ファイナンシャル・グループ、USバンコープの地銀2行の株式を保有。両行の株価はそれぞれ年初から約22%、約18%下落している。
最近の動向からは、今回の銀行危機が収束するのではないかという期待が高まっている。米規制当局は27日、ファースト・シチズンズ・バンクシェアーズによるSVB買収を支援すると発表。ファースト・シチズンズの株価はこの日54%近く上昇した。
ブルームバーグ・ニュースは25日、当局が緊急融資制度の拡充など一段の銀行支援策を検討していると報じた。
オールスプリング・グローバル・インベストメンツのシニア・ポートフォリオマネジャー、マージー・パテル氏は割安感から、この数週間に地銀で新規のポジションを増やしている。
「このセクターで見られた相場下落は、2008年(の世界金融危機)の再来ではないかという懸念を映したものだが、根本的に違うと思う」と言う。
同氏は、銀行は米連邦準備理事会(FRB)による500ベーシスポイント(bp)近い利上げで、この1年間に高金利の融資による収入と、預金者への利払い増加の間でバランスが崩れていたが、それはまもなく改善すると見込んでいる。
バンダ・リサーチのアナリストチームは先週、個人投資家による値ごろ感からの買いも銀行株やETFへの資金流入を後押ししていると指摘した。
それでも、顧客が安定を求めて大手行に預金を移したことから、特に中小行が逆風にさらされている状況に変わりはない。また顧客は資金を当座預金口座から、短期国債、政府の預金保険の付いた口座であるマネー・マーケット・ファンド(MMF)、ずっと利回りの高い他の投資などに回そうとしているかもしれない。
ムーディーズ・インベスターズ・サービスによると、先週大手銀行の預金は1210億ドル増えたが、逆に中小銀行は1090億ドル減った。
ファミリーオフィスであるチェリー・レーン・インベストメンツのパートナー、リック・メクラー氏は、地銀には「預金がとどまっているか、増加していることを示す明るい材料が必要だ」と述べた。
投資家の間ではこの数日、金融の安定性に対する懸念が和らぎ、FRBが次回の連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ決めるとの確信が高まっている。金利上昇は利幅を圧迫する可能性がある一方、預金の流出先となっている高利回りの金融商品の魅力をさらに高める。
CMEのフェドウォッチ・ツールによると、28日午前の時点で市場が織り込む追加利上げの確率は48%で、24日の17%から上昇した。
それでもジェニー・モンゴメリー・スコットのリサーチディレクター、クリストファー・マリナック氏は、地銀のバランスシートは大方が心配するよりも強固で、景気後退や不良債権の増加を乗り切ることができると考えている。
マリナック氏は、銀行は貸倒引当率が2019年第4・四半期の0.92%から1.12%に改善していると推計。パクトウエスト・バンコープとニューヨーク・コミュニティー・バンコープの買いを推奨している。「銀行業界は引き当てがしっかりしており、引当率が上昇している感触がある」と言う。
(David Randall記者)