Andrea Shalal
[ヨハネスブルク/ワシントン 30日 ロイター] - 国際通貨基金(IMF)は30日公表した世界経済見通しで、2024年の世界成長率予想を3.1%とし、昨年10月の2.9%から引き上げた。米国と中国の成長率予想も引き上げ、インフレが予想以上に鈍化していると指摘した。
25年の世界成長率予想は3.2%に据え置いた。2000─2019年の平均値は3.8%。
チーフエコノミストのピエール・オリヴィエ・グランシャ氏は、今回の経済見通しは「ソフトランディング(軟着陸)」が視野に入ったことを示すが、全体的な成長と世界貿易はなお過去の平均を下回っていると指摘。「世界経済は引き続き顕著な回復力を示している。インフレの着実な低下と成長維持のなか、『ソフトランディング』の可能性が高まっている」とし、「世界的なリセッション(景気後退)シナリオからは程遠い」と述べた。
ただ「拡大基盤は依然鈍く、今後混乱する可能性がある」と言及。中東の地政学的緊張のほか、コモディティー(商品)価格やサプライチェーン(供給網)を混乱させ得る紅海での船舶攻撃などのリスクがくすぶっていると警告した。
財政健全化の遅れについては、経済活動を押し上げる可能性があるが、インフレを促進する可能性もあるとした。
IMFは見通し改善の要因として、金融引き締め下での民間支出と公的支出の拡大、労働参加の増加、サプライチェーンの修復、エネルギー・コモディティー価格の下落を挙げた。
世界貿易の伸び率予想は24年が3.3%、25年は3.6%で、過去の平均4.9%を大きく下回る。23年に約3000の貿易規制が導入されたことが背景。
世界の総合インフレ率予想は、24年を昨年10月予想の5.8%に据え置いたが、25年は4.6%から4.4%に下方修正した。グランシャ氏によると、インフレが急上昇しているアルゼンチンを除けば、世界の総合インフレ率はさらに低くなる。
先進国の平均インフレ率予想は2.6%と昨年10月予想から0.4%ポイント引き下げ、25年は中央銀行の2%目標に達すると予想した。新興国および発展途上国の平均インフレ率予想は24年が8.1%、25年は6%に低下するとした。
平均原油価格は24年に2.3%の下落を予想。昨年10月(0.7%下落)から下落幅が拡大した。25年は4.8%の下落を見込む。
<中東情勢を注視>
IMFは、紅海で商船などへの攻撃が繰り返されるなど、地政学的ショックが新たな一次産品価格の高騰を引き起こし、金融引き締めが長引く可能性があると指摘した。
チーフエコノミストのグランシャ氏は「ソフトランディングへの道を歩み続けるのは簡単ではない」とし、紅海での船舶に対する持続的な攻撃を含む地政学的ショックによる新たなコモディティー価格の高騰は引き締まった金融情勢を長引かせる可能性があるとした。
また、中東情勢の動向を注視しているとしたが、広範な経済への影響は依然として比較的限定的で、「現時点では供給側のインフレ再燃につながりかねない主因とは思えない」と語った。
同氏は世界見通しについて、よりバランスの取れた上振れ・下振れリスクを反映していると説明。中東での紛争拡大リスクは、燃料価格下落で予想以上にインフレが鈍化する可能性に相殺されていると指摘。「現時点ではおおむねバランスが取れている」とし、ディスインフレ面で際立っていた1年前の下方リスクの多くは顕在化していないと述べた。
<米中の成長予想引き上げ>
今回、米国の24年成長率予想は2.1%とし、昨年10月の1.5%から大幅に上方修正した。25年は1.7%への鈍化を見込んだ。
グランシャ氏は、財政支援と好調な個人消費が予想引き上げの要因と説明。ただ、国内生産への助成など産業政策の一部が国際貿易ルールに違反する可能性があるとの懸念を米政府に伝えたと述べた。
中国の成長率は、24年を4.6%と予想し、昨年10月の予想から0.4%ポイント引き上げた。25年の予想は4.1%。グランシャ氏は上方修正の要因として、当局による大規模な財政支援、不動産セクターに起因する減速が予想ほど深刻ではなかったことを挙げた。
ユーロ圏の成長率予想は、24年を0.9%、25年は1.7%に下方修正。域内最大の経済国ドイツの24年成長率予想は0.9%から0.5%に下げられた。
<米英欧中銀、利下げは年後半に>
グランシャ氏は主要国中央銀行の金融政策について、米連邦準備理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(英中銀)は24年後半に入るまでは政策金利を現行水準で据え置き、その後緩やかに引き下げると予想した。日銀については、低金利を維持すると予想し、それが「適切」とした。ただ、インフレが大幅に上昇した場合に利上げする態勢を整えておくよう日本に伝えたという。
同氏は、主要国中銀の早期利下げ観測に市場が「過度に楽観的」であると指摘。市場が予想を修正する動きとなれば長期金利が上昇し、財政が急激に引き締められ成長見通しを圧迫することになると述べた。
<新興国・途上国>
新興国・途上国の24年の成長率は4.1%に小幅に上方修正。欧州の新興国・途上国の見通し改善が寄与した。
特にロシアはウクライナ侵攻に関連した軍事費拡大を背景に24年の予想が1.5%ポイント引き上げられ2.6%となった。ただ25年は1.1%への減速を見込む。ただ予想は暫定値で、財政刺激の規模を巡り疑問があるため修正する可能性があるとしている。
アルゼンチンの24年成長率予想は、2.8%からマイナス2.8%に引き下げた。ブラジルとメキシコの成長率予想は上方修正。中南米・カリブ地域の24年成長率予想は昨年10月予想から0.4%ポイント引き下げ1.9%としたが、25年は2.5%への回復を見込んでいる。