〇安定志向への模索が目立ち始めた〇
先進国の金融政策と金利動向を論じる時、謎めいた要素がある。
スワップ市場で数十年ぶりと言われる市場改革が行われている点だ。
リーマン後、数年間議論され、数百ページの文書に及ぶ規制が施行されているようだ。
詳しい内容は分からないが、日米で9月1日から、欧州は遅れて来年初めから実施予定と伝えられる。
このなかで、リスク拡散防止のため、最終的に7000億ユーロ(約80兆円)余りの担保が最終的に必要になる可能性があると8月23日にブルームバーグが報道した。
担保は現金、国債、他の種類とされるが、詳細は不明。
仮に大手金融機関が相次いでポジション調整を行っているとすれば、金利動向が不規則になる可能性がある。
また、デリバティブ残高が多いとされるドイツ銀の経営問題が取り沙汰されるのも納得が行く。
規制強化と言うものが変化の速い市場で妥当なものかどうかの議論もない。
28日、ECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁は「金利は下限に近付いている。
他の政策による補完が必要」との見解を明らかにした。
それに呼応する格好で蘭ABNアムロが「ECBが株式買い入れを開始した場合、総額は2000億ユーロ相当となり、社債買い入れを上回る」との分析結果を発表した。
ECBが株式買い入れに踏み切るかどうか、今後の焦点になると思われるが、BIS規制などで銀行や生保の株式保有を厳しく規制し、日本の株式持ち合いなどが糾弾され分解された結果とも言える。
先行して動くのはスイス中銀。
マイナス金利と為替市場介入で先行するが、介入で膨らんだ外貨準備(6月末時点で6353億スイスフラン=6500億ドル、GDPに占める外貨準備は大きい)を海外株式で運用している(外貨準備に占める株式比率は約20%、2010年は10%とされ、結構以前から購入していた)。
米フェイスブック株の保有が創業者ザッカ—バーグ氏を上回ったと話題になったことがある。
ロイターの試算では、過去1年間に株式保有は41%増えて約1270億フラン。
とくに米株の増加が目立ち、386億ドルから620億ドルに膨らみ、保有上位10銘柄を全て買い増した。
日本株を購入しているかどうかは不明。
昨日も日銀は株式ETFを733億円購入した。
9月に入って10営業日目(累計7330億円)。
8月は707億円4回と増額実施前の347億円2回(3522億円)で、倍増している。
年6兆円から見るとオーバーペースだが、底割れ回避に大きく貢献しているのは事実。
株価下落による無用な不安心理の高まりを回避している点で、有効と言える。
スイス中銀は銘柄選択ルールを明らかにしていないし、インデックスを買っている風でもない。
日銀がこのままインデックス投資を続けて良いものか、議論の余地はあろう。
また、民間金融機関の運用・購入緩和も議論されて然るべきだ。
その場合は、主力株の高い配当利回りが注目されると
思われる。
今後、大企業と言えども、世界の生き残り競争に負ける可能性はある。
韓国・韓進海運破綻で様相が一変しつつある海運業界、中国の生産能力削減を固唾を飲んで見守る鉄鋼業界、そして8年ぶりの協調減産に動いたOPECと、生存競争が激化しつつ、カルテルの流れも目立ってきた。
資本主義の常の流れだが、中銀の保有増はそれらにも一石を投ずることになると考えられる。
以上
出所:一尾仁司のデイリーストラテジーマガジン「虎視眈々」(16/9/29号)