■会社概要
2. 主要開発パイプラインの概要と市場規模
(1) 吸収性局所止血材(TDM-621)
スリー・ディー・マトリックス (T:7777)の止血材は、血管吻合部並びに臓器からの滲出性出血や、内視鏡手術、腹腔鏡手術下での消化管粘膜切除部の小血管、毛細血管からの滲出性出血の止血用途を目的に開発、販売が進んでいる。
止血材(主に心臓血管外科及び一般外科などの手術の際に用いられる止血材)の世界における市場規模は、2016年に約3,000百万米ドルに達したと見られている。
地域別では、米国が1,344百万米ドル、欧州が1,078百万米ドルとなり世界の需要の大半を占めている。
また、欧州以外にCEマーキングの適用により販売可能な国での市場規模は286百万米ドル程度と推計され、これら地域に日本、中国を加えた市場が同社のターゲット市場となる。
現在、止血材としてはヒト+ウシ由来のフィブリン糊が一般的に使用されている。
同社の止血材と既存品との大きな違いは、同社製品は化学合成のため感染リスクがないことに加えて、透明色のため術視野が妨げられないこと、術後洗浄が容易であることなど、操作性や機能面で優位な点が多いことなどが挙げられる。
このため、今後市場シェアを開拓していく余地は大きいと見られる。
なお、1回の手術で使用される同社の止血材の量は血管用で3~5ml、臓器出血用で10ml程度となり、販売価格については地域差があるものの、1万円/ml前後の水準となっている。
(2) 後出血予防材
「PuraStat®」の適用拡大として後出血予防材の開発を進めている。
後出血予防とは、消化器内視鏡術後に治療部位からの術後出血を予防することを指す。
術後に再出血した場合は、緊急止血処置を行うために再手術、再入院を余儀なくされることも多く、医師や患者の負担が増大するだけでなく、医療費が膨らみ医療財政の負担増となっている。
このため、医療現場からのニーズは非常に高くなっている。
EU市場では内視鏡手術が年間約300万件実施されており、このうち術中に出血する件数は約15万件となっている。
一方、後出血の恐れがあるまたは後出血が予想される件数は、その約8.5倍となる約130万件になると同社では推計している。
内視鏡手術向けの止血材の市場規模は現在、10億円程度だが、すべての出血に止血材で対応しているわけではなく、電気焼灼術で止血する場合が多い。
すべての出血に止血材で対応したと仮定した場合、市場規模は50~100億円になると推定される。
後出血予防材として上市されれば、潜在市場はEUだけで少なくとも100億円以上が見込めることになる。
現状、競合品もないことから今後の開発動向が注目される。
(3) 次世代止血材(TDM-623)
次世代止血材は「PuraStat®」と比較して、止血効果が高く(短時間で止血)、低コスト化が可能な止血材として現在、欧州で開発を進めている。
ペプチドの配列数が「PuraStat®」よりも少ないため材料費が低く抑えられるほか、常温で輸送・保管が可能なことが長所となる。
「PuraStat®」は冷蔵保存の必要があったため、物流・保管コストも余分にかかっていた。
ただ、次世代止血材は粘性が高いため使用が不向きな部位・用途などがあり、こうした部位については「PuraStat®」を使用するなど、将来的には棲み分けが進むものと予想される。
(4) 癒着防止材
癒着防止材は手術時に組織の癒着を防ぐために使用する医療材料となる。
組織が癒着した場合、再手術時に癒着剥離を行う必要があるため、手術時間が長くなるほか出血リスクが増大する、あるいは再手術ができないなどのデメリットがあるほか、消化器領域では腸閉塞、婦人科領域では不妊の原因となる可能性もある。
現在、癒着防止材としてはフィルムタイプの製品が多く販売されているが、使用部位に貼付する際に割れたり、狭い部位では貼付できないなど適用範囲が限られるといったデメリットが指摘されている。
同社の癒着防止材はゲル状のため、あらゆる部位に使用できることが強みとなる。
実際、オーストラリアでは耳鼻咽喉科領域で「PuraStat®」の使用による癒着軽減効果が確認されている(50症例中、癒着した例は2症例のみ、通常の止血材では約50%の確率で癒着する)。
同社では、現在「PuraStat®」も含めて複数の開発候補品で有効性試験を実施している段階にある。
癒着防止材の世界市場規模は、2016年の約800億円から2021年には約1,200億円まで拡大すると予想されているが適用範囲が限られていることを考えると潜在需要はさらに大きいと見られる。
(5) 歯槽骨再建材(TDM-711)
歯槽骨再建材は、歯科領域において歯槽骨が退縮し、インプラント手術が適用不可である患者に対して、インプラント手術が適用できるまで歯槽骨を再建することを目的とした医療材料で、目的部位に同材料を注入することにより、歯槽骨の再生を促進する機能を果たす。
米国における市場規模は年間約200百万USドルと見られており、年間190万件程度の歯槽骨再建手術が行われている。
このうち約120万件が異種骨(豚)や他人の骨を足場材として利用する施術が行われており、残りは自身の違う部位からの移植または人工骨などを利用している。
同社の歯槽骨再建材を使えば、感染リスクもなく安全かつ容易に歯槽骨の再建を行うことが可能となる。
(6) 創傷治癒材(TDM-511)
創傷治癒材に関しては、2015年2月に米国のFDAより市販前届(510k)の承認を取得し、販売の許認可を得ている。
同社では他の薬剤とのコンビネーション(抗生物質、抗がん剤、ヒアルロン酸等との混合投与)による治療効果の増大により、製品としての付加価値向上を目指して開発を進めていくことを基本方針としている。
ただ、直近では止血材や次世代止血材、歯槽骨再建材、癒着防止材等の開発を優先的に進めていることもあり、事業化に関しては数年先になると見られる。
(7) siRNA核酸医薬用DDS(TDM-812)
国立がん研究センターとの共同プロジェクト「RPN2※標的核酸医薬によるトリプルネガティブ乳がん治療」における医師主導型の臨床第1相試験を2015年7月より開始している。
同治験では「がん幹細胞」に特異的に発現するPRN2遺伝子をターゲットとし、その発現を抑制する核酸(PRN2siRNA)と、同社の自己組織化ペプチドA6K(TDM-812)をキャリアとするDDSを組み合わせた製剤の安全性評価を行うもので、症例数は30症例を目標に、経過観察を含めて2018年1月頃までかけて臨床試験を行う予定となっている。
※PRN2…がんの転移・浸潤・薬剤耐性を担うターゲット遺伝子。
siRNAは分解性が高いといった特性があり、ターゲットのがん細胞に届くまでに体内で分解されるといった課題があったが、A6Kとの複合体にすることで分解が抑制される効果があり、がん細胞に確実にPRN2siRNAが送り届けられることになる。
既に、イヌの自然発症乳腺腫瘍症例において、核酸医薬としての有効性が確認されており、ここ最近は製薬企業からの問い合わせも増加するなど注目度が高まっている。
siRNA単独では安定性が低く腫瘍部に届くまでに分解されてしまうことが課題であったが、A6Kとの複合体にすることで安定性が高まり、分解が抑制されることが動物実験により明らかとなっている。
イヌの実験では、乳がん腫瘍の縮小効果も確認されており、業界での注目度も高まっている。
現在、複数の大手製薬企業に無償でサンプル供与を行っているが、今後、共同開発に移行する可能性が出てきている。
また、第1相試験の結果が良好であれば企業主導型治験への移行及び大手製薬企業へのライセンスアウトの可能性もあり、その結果が注目される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
2. 主要開発パイプラインの概要と市場規模
(1) 吸収性局所止血材(TDM-621)
スリー・ディー・マトリックス (T:7777)の止血材は、血管吻合部並びに臓器からの滲出性出血や、内視鏡手術、腹腔鏡手術下での消化管粘膜切除部の小血管、毛細血管からの滲出性出血の止血用途を目的に開発、販売が進んでいる。
止血材(主に心臓血管外科及び一般外科などの手術の際に用いられる止血材)の世界における市場規模は、2016年に約3,000百万米ドルに達したと見られている。
地域別では、米国が1,344百万米ドル、欧州が1,078百万米ドルとなり世界の需要の大半を占めている。
また、欧州以外にCEマーキングの適用により販売可能な国での市場規模は286百万米ドル程度と推計され、これら地域に日本、中国を加えた市場が同社のターゲット市場となる。
現在、止血材としてはヒト+ウシ由来のフィブリン糊が一般的に使用されている。
同社の止血材と既存品との大きな違いは、同社製品は化学合成のため感染リスクがないことに加えて、透明色のため術視野が妨げられないこと、術後洗浄が容易であることなど、操作性や機能面で優位な点が多いことなどが挙げられる。
このため、今後市場シェアを開拓していく余地は大きいと見られる。
なお、1回の手術で使用される同社の止血材の量は血管用で3~5ml、臓器出血用で10ml程度となり、販売価格については地域差があるものの、1万円/ml前後の水準となっている。
(2) 後出血予防材
「PuraStat®」の適用拡大として後出血予防材の開発を進めている。
後出血予防とは、消化器内視鏡術後に治療部位からの術後出血を予防することを指す。
術後に再出血した場合は、緊急止血処置を行うために再手術、再入院を余儀なくされることも多く、医師や患者の負担が増大するだけでなく、医療費が膨らみ医療財政の負担増となっている。
このため、医療現場からのニーズは非常に高くなっている。
EU市場では内視鏡手術が年間約300万件実施されており、このうち術中に出血する件数は約15万件となっている。
一方、後出血の恐れがあるまたは後出血が予想される件数は、その約8.5倍となる約130万件になると同社では推計している。
内視鏡手術向けの止血材の市場規模は現在、10億円程度だが、すべての出血に止血材で対応しているわけではなく、電気焼灼術で止血する場合が多い。
すべての出血に止血材で対応したと仮定した場合、市場規模は50~100億円になると推定される。
後出血予防材として上市されれば、潜在市場はEUだけで少なくとも100億円以上が見込めることになる。
現状、競合品もないことから今後の開発動向が注目される。
(3) 次世代止血材(TDM-623)
次世代止血材は「PuraStat®」と比較して、止血効果が高く(短時間で止血)、低コスト化が可能な止血材として現在、欧州で開発を進めている。
ペプチドの配列数が「PuraStat®」よりも少ないため材料費が低く抑えられるほか、常温で輸送・保管が可能なことが長所となる。
「PuraStat®」は冷蔵保存の必要があったため、物流・保管コストも余分にかかっていた。
ただ、次世代止血材は粘性が高いため使用が不向きな部位・用途などがあり、こうした部位については「PuraStat®」を使用するなど、将来的には棲み分けが進むものと予想される。
(4) 癒着防止材
癒着防止材は手術時に組織の癒着を防ぐために使用する医療材料となる。
組織が癒着した場合、再手術時に癒着剥離を行う必要があるため、手術時間が長くなるほか出血リスクが増大する、あるいは再手術ができないなどのデメリットがあるほか、消化器領域では腸閉塞、婦人科領域では不妊の原因となる可能性もある。
現在、癒着防止材としてはフィルムタイプの製品が多く販売されているが、使用部位に貼付する際に割れたり、狭い部位では貼付できないなど適用範囲が限られるといったデメリットが指摘されている。
同社の癒着防止材はゲル状のため、あらゆる部位に使用できることが強みとなる。
実際、オーストラリアでは耳鼻咽喉科領域で「PuraStat®」の使用による癒着軽減効果が確認されている(50症例中、癒着した例は2症例のみ、通常の止血材では約50%の確率で癒着する)。
同社では、現在「PuraStat®」も含めて複数の開発候補品で有効性試験を実施している段階にある。
癒着防止材の世界市場規模は、2016年の約800億円から2021年には約1,200億円まで拡大すると予想されているが適用範囲が限られていることを考えると潜在需要はさらに大きいと見られる。
(5) 歯槽骨再建材(TDM-711)
歯槽骨再建材は、歯科領域において歯槽骨が退縮し、インプラント手術が適用不可である患者に対して、インプラント手術が適用できるまで歯槽骨を再建することを目的とした医療材料で、目的部位に同材料を注入することにより、歯槽骨の再生を促進する機能を果たす。
米国における市場規模は年間約200百万USドルと見られており、年間190万件程度の歯槽骨再建手術が行われている。
このうち約120万件が異種骨(豚)や他人の骨を足場材として利用する施術が行われており、残りは自身の違う部位からの移植または人工骨などを利用している。
同社の歯槽骨再建材を使えば、感染リスクもなく安全かつ容易に歯槽骨の再建を行うことが可能となる。
(6) 創傷治癒材(TDM-511)
創傷治癒材に関しては、2015年2月に米国のFDAより市販前届(510k)の承認を取得し、販売の許認可を得ている。
同社では他の薬剤とのコンビネーション(抗生物質、抗がん剤、ヒアルロン酸等との混合投与)による治療効果の増大により、製品としての付加価値向上を目指して開発を進めていくことを基本方針としている。
ただ、直近では止血材や次世代止血材、歯槽骨再建材、癒着防止材等の開発を優先的に進めていることもあり、事業化に関しては数年先になると見られる。
(7) siRNA核酸医薬用DDS(TDM-812)
国立がん研究センターとの共同プロジェクト「RPN2※標的核酸医薬によるトリプルネガティブ乳がん治療」における医師主導型の臨床第1相試験を2015年7月より開始している。
同治験では「がん幹細胞」に特異的に発現するPRN2遺伝子をターゲットとし、その発現を抑制する核酸(PRN2siRNA)と、同社の自己組織化ペプチドA6K(TDM-812)をキャリアとするDDSを組み合わせた製剤の安全性評価を行うもので、症例数は30症例を目標に、経過観察を含めて2018年1月頃までかけて臨床試験を行う予定となっている。
※PRN2…がんの転移・浸潤・薬剤耐性を担うターゲット遺伝子。
siRNAは分解性が高いといった特性があり、ターゲットのがん細胞に届くまでに体内で分解されるといった課題があったが、A6Kとの複合体にすることで分解が抑制される効果があり、がん細胞に確実にPRN2siRNAが送り届けられることになる。
既に、イヌの自然発症乳腺腫瘍症例において、核酸医薬としての有効性が確認されており、ここ最近は製薬企業からの問い合わせも増加するなど注目度が高まっている。
siRNA単独では安定性が低く腫瘍部に届くまでに分解されてしまうことが課題であったが、A6Kとの複合体にすることで安定性が高まり、分解が抑制されることが動物実験により明らかとなっている。
イヌの実験では、乳がん腫瘍の縮小効果も確認されており、業界での注目度も高まっている。
現在、複数の大手製薬企業に無償でサンプル供与を行っているが、今後、共同開発に移行する可能性が出てきている。
また、第1相試験の結果が良好であれば企業主導型治験への移行及び大手製薬企業へのライセンスアウトの可能性もあり、その結果が注目される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)