[31日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)が、9兆ドル規模に膨らんだバランスシートの縮小、いわゆる量的引き締め(QT)を6月1日から開始するのに伴って、米国債市場で既に低下している流動性がさらに細り、ボラティリティーが高まるかどうかが注目される。
QTは利回り上昇にもつながりかねないが、こちらは経済情勢など他の要素に左右される面が大きい、というのがアナリストの見方だ。
FRBは金融政策正常化とインフレ退治を進めるのに伴って、6月1日以降は保有債券のうち満期到来分の償還金を再投資しない。ただ米国債市場においてFRBの存在感が薄まるとともに、一部の市場関係者からは相場変動に敏感な買い手によって地合い悪化に拍車がかかるのではないかと心配する声が出ている。
クレディ・スイスの金利トレーディング戦略責任者ジョナサン・コーン氏は「QTの影響は、利回り水準や(イールド)カーブではなく、短期金融市場などの領域と市場機能の面でより顕著になるだろう」と語り、準備預金や流動性縮小、ディーラーの負担増という形で出てくるのを見ていきたいと付け加えた。
折しも米国債市場は、不安定な値動きに見舞われている。その背景には、政府の発行額が急増している半面、銀行が規制強化で取引仲介機能が損なわれたと訴えているという事情がある。
ジャニー・モンゴメリー・スコットのチーフ債券ストラテジスト、ギー・ルバ氏は「米国債市場でどちらかと言えば流動性が幾分低下してもおかしくない。なぜならディーラーがFRBのバランスシートに米国債を売る機会が存在しないからだ。それがボラティリティーも押し上げるかもしれない。もっとも債券市場の流動性は既にかなり薄いので、必ずしも方向感が出るとは限らない」と述べた。
各銀行は今年に入って債券購入を減らしてきた。一部のヘッジファンドも、相場の乱高下局面で損失を被った後、市場での存在感が弱まっている。また外国人投資家は、ヘッジコストの高まりと米国以外の債券利回り上昇で選択肢が増えたことを受け、米国債の投資意欲を後退させた。
このためFRBの利回りを抑える力がなくなった分だけは、利回りが上がりそうだ。多くのアナリストは、FRBが利回りを人為的に低く抑え続け、4月の長短利回り逆転(逆イールド)をもたらしたとみている。
TDセキュリティーズのシニア米国金利ストラテジスト、ジェナディ・ゴールドバーグ氏は「リスクは市場が追加的な供給を消化できず、大幅な価格調整が起きることだ。ここしばらく長期国債の供給はコロナ禍前より多いままだろうから、他の条件が同じならば、金利上昇圧力はやや増大し、カーブはスティープ気味になるはずだ」と予想した。
それでも利回り動向は、FRBの利上げ経路や経済情勢の見通しなど他の要素にも影響を受けるし、むしろ影響度ではQTよりこれらの材料が大きくなる可能性がある。
クレディ・スイスのコーン氏は「トップダウン型のマクロ分析に基づけば、利回りの方向性を考える上でQT以外の要素がQTと同等か、それ以上に大事になるだろう」と話した。
FRBによる前回のバランスシート縮小の取り組みはひどい結果に終わった。2019年9月にレポ金利が高騰し、これは17年10月から始まったFRBの資産圧縮によって、銀行の準備預金の水準が低くなり過ぎたことが原因とみられている。
しかしこうした事態が今回発生する確率は低くなった。FRBが常設レポ・ファシリティー(SRF)と呼ばれる、短期市場の流動性ひっ迫に恒久的に対応する枠組みを設けたためだ。
銀行の準備預金やFRBの資金吸収手段であるリバース・レポへの応札需要などから見た過剰流動性も現在はかなりの高水準で、解消には時間がかかるだろう。足元の準備預金残高は3兆6200億ドルと、19年12月の1兆7000億ドルをはるかに上回っている。先週のリバース・レポの応札需要も2兆ドル超と過去最高を記録した。
FRBが保有債券について最大で毎月950億ドル(米国債を600億ドル、住宅ローン担保債=MBSを350億ドル)の規模で圧縮に乗り出すのは9月になってからで、それまでは米国債が300億ドル、MBSが175億ドルの圧縮にとどまる。
ソシエテ・ジェネラルの米国金利戦略責任者スバドラ・ラジャッパ氏は「(資産圧縮は)非常に緩やかに進んでいく。QTの影響があるとしても、それを把握するにはまだ早すぎる」と述べ、影響が顕在化するのは第4・四半期以降になると指摘した。
(Karen Brettell 記者)