仮想通貨市場は現在弱気であるにもかかわらず、仮想通貨業界の新事業は成功しているものもある。注目すべきなのは、銀行や取引所による仮想通貨投資家への資産管理サービスだ。もし仮想通貨をより信頼性があり安全な方法で保管することができたら、機関投資家も一般投資家も、仮想通貨への投資を拡大すると考えられる。
最近の報道によると、世界最大の投資顧問会社の1つであるフィデリティ・インベストメンツが3月にビットコインとイーサリアム向けの資産管理サービスを開始するために準備を進めているという。Coincentral.comは、以下のように述べている。
フィデリティ・インベストメンツが機関投資家に向けた資金管理サービスを提供しようとしているという。機関投資家は仮想通貨の価格上昇に必要な存在だと考えられている
同社はコールドストレージの資産管理サービスを提供する予定であり、顧客の仮想通貨資産はオフラインで保管され、インターネット上にないためハッキングの危険性を減らせる。
同社の取組みは珍しいものではない。多くの他有名資金管理会社もこの市場に参加しようとしている。
1月、スイスの投資銀行であるVontobelがDigital Asset Vault(デジタルアセット保管庫)という資金管理サービスを開始した。同銀行によると、「スイスの銀行や投資顧問会社が銀行機関を活用し、顧客のデジタルアセットの購入・保管をサポートできるように」そのサービスは同銀行のシステムを使用しているという。
ドイツで2番目に大きい株式取引所、Böerse StuttgartはBlocknoxというデジタルアセット管理サービスを行っている。サンフランシスコに本社を置くCoinbase(コインベース)も、10月末にニューヨーク州の銀行法に基づき独立証券保管機関として認められた。同社が行うサービスは、高グレードの管理サービスと言えるだろう。
効果的な安全管理システムは未だに不足
仮想通貨関連のハッキングやそれに伴う損害を考えると、デジタルアセットの安全管理システム事業が成長事業であることは明らかだろう。カナダの仮想通貨取引場QuadrigaCX(クアドリガCX )のCEO(最高経営責任者)が亡くなり、利用者の口座へのアクセスができなくなったことは記憶に新しい。これによって誰が、どのように仮想通貨を管理するべきなのかを考えさせられただろう。
同取引所のCEOはインド旅行中に亡くなり(享年30)、彼のみが同取引所の仮想通貨保管庫へのパスワードを知っていた。結果、通貨、仮想通貨を含む合計約1.9億ドルの資産にアクセスできないままになっている。
今まで仮想通貨の安全管理システムは軽視されてきた、とPledgecampのCEOであるJae Choi氏は述べる。実際、安全管理システムは大幅に不足している。
2つのハッカーグループは、約10億ドルもの仮想通貨を取引所から盗んでいる。このことから、コールドストレージで仮想通貨を安全に管理する選択肢を持つべきであるのは明らかだろう。人々に仮想通貨を認知してもらうためには、仮想通貨業界は伝統的な金融商品のようなシステムを構築する必要がある。最も必要なシステムのひとつとして、資産管理サービスだ。
管理サービスの不足により、ヘッジファンド企業や家庭資産管理サービス企業などの大企業は仮想通貨への投資を行わなかったと同氏は説明を続けた。「もし仮想通貨が伝統的資産のように取り扱われることを望むのなら、伝統的金融システムやモデルにあるような規制・管理システムが必要だ」と同氏は述べる。
安全管理システムの必要性
Invictus Capitalの投資アナリストであるHugo May氏は、熱狂的な仮想通貨支持者、という意味の単語「cypherpunk」という言葉は仮想通貨事業拡大と技術革新の根っこにある「匿名性、プライバシー、自由」のためにあると指摘する。
仮想通貨業界全般において、管理システムは意見の分かれるテーマである。暗号理論によって統制されているデジタルアセットは自己管理するべきだという考えがCypherpunkの拡大に強く根付いている。「Not your keys, not your coins」という有名な言葉があるが、機関投資家からの投資を得たいと考えるのならある程度の管理システムは必要である。
米国の規制法では、投資顧問会社の顧客の資産を認可済みの資産管理会社での管理を求めている。欧州証券市場監督局(ESMA)は、管理責任者に関する安全管理や記録の方法に一貫したルールが現在ないことを問題として指摘した。これらの動きによって仮想通貨に資産管理サービスの基準は高くなっている。
米国とユーロ圏の規制について、May氏は
最も重要な規制の一つは、管理システムの充実である。このトピックは米証券取引委員会において、ビットコインETFの認可に関するとても重要な議題である。
機関が顧客の資産を認可された資金管理会社に保管することを要求している米規制法に対して、規制当局は妥協するつもりがないというのは明らかだ。一方、ユーロ圏では管理システムの要求を含め、仮想通貨政策の方向性を変え始めている」
仮想通貨顧問会社であるINVAOのCEO、Frank Wagner氏は、バンク・オブ・ニューヨーク・メロン(NYSE:BK)、JPモルガン・チェース(NYSE:JPM)、ノーザン・トラスト(NASDAQ:NTRS)などは、仮想通貨業界に介入しようとしている、と言う。これはもちろん仮想通貨にとっていい知らせである。
特に仮想通貨はリスクが高いと評価されていることを考えると、仮想通貨市場拡大のためには管理システムの構築が重要である。
新しい仮想通貨管理方法が現れているため、仮想通貨を「飼いならす」ことも可能であろう。もしそれが実現すれば、仮想通貨は主要なアセットクラスになるだろう。