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上げ渋るイスラエルシェケル【フィスコ・コラム】

発行済 2018-01-21 08:30
更新済 2018-01-21 08:33
上げ渋るイスラエルシェケル【フィスコ・コラム】
イスラエルシェケルは昨年から騰勢を強め、今年に入り対ドルで6年超ぶりの高値圏に浮揚しました。
歯止めのかからない通貨高に当局はお手上げでしたが、2018年は主要国が引き締めに動き始めたため、相対的にシェケルの上値が重くなるかもしれません。



シェケルは1年前の2017年1月以降、同年の春先を除きほぼ一貫して上昇基調が続いており、この1年間で大幅に値を切り上げました。
今年1月12日の取引では、1ドル=3.3918シェケルまで強含み、直近高値の2014年8月以来、6年5カ月ぶりの高値圏に上昇しました。
1月16日に発表された7-9月期国内総生産(GDP)改定値の下方修正を受けシェケル高は一服したものの、上昇基調に変わりはないようです。



イスラエルは、世界トップクラスのハイテク産業や高い出生率などを背景に将来性を見込んだマネーが世界中から流入してきています。
欧州中銀(ECB)など主要国の中銀が緩和的な政策を進めた結果、低金利ながら高成長かつ将来性もあるイスラエル投資の妙味が増したようです。
昨年1年間の値動きをみると、ドルだけでなくユーロやポンド、円など主要通貨に対して強含んだことがわかります。



シェケル高は同国GDPの3割を占める輸出には不利になるため、イスラエル中銀は断続的に為替介入などで通貨高回避の政策を進め、2015年12月に政策金利を0.25%から0.10%に引き下げました。
その後2年間据え置き、足元も低水準が続いています。
消費者物価指数(CPI)は2017年9月に上昇に転じた後もプラスを維持していますが、金融引き締めには時間を要するでしょう。



昨年12月14日に開催されたECB理事会で、2018年は緩和的な金融政策を段階的に縮小していく、との方針が議事要旨から明らかになりました。
英中銀やカナダ中銀も引き締め姿勢を強めており、シェケル買いは弱まる方向になってきました。
また、アメリカのトランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定したことで、中東情勢の不安定化の懸念がシェケル売りにつながる可能性もあります。



実際、トランプ大統領の首都認定直後の昨年12月11日、ニューヨークでテロとみられる事件が発生。
イスラエルへの影響も懸念され、シェケルはいったん売られる展開となりました。
その後、過激派組織「イスラム国」は報復措置としてアメリカ本土でのテロ実行に言及しています。
親米のイスラエルがその標的になる可能性も否定できません。
こうした地政学リスクの点でも、シェケルの上昇圧力は弱まる見通しです。



もちろん、エルサレムの首都認定はシェケルだけの問題にとどまりません。
「万が一」の場合には、原油価格の急騰や世界的な株安、リスク回避の円買いといったネガティブな反応となって波及していくことでしょう。
まもなく就任1年を迎えるトランプ大統領の少しも悪びれぬ笑顔をテレビでみると、従来の秩序が失われた世界で通貨はどのように動くのか、リスクシナリオはいくつも必要と思えてきます。


「吉池 威」

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