Karin Strohecker
[ロンドン 3日 ロイター] - 今年は新興国市場にとって、数十年ぶりの大規模な「選挙年」だ。選挙に伴う財政規律の緩みと、ポピュリスト(大衆迎合主義者)政策へのシフトといった要因が市場を揺るがしかねない。
今年選挙が行われる国と地域は世界人口の半分以上、全世界の生産の60%以上を占める。
選挙年の幕を開けるのは、1月の台湾総統選・立法委員選だ。そして、今年を締めくくるのは、重債務に苦しむガーナで12月に実施される。
チャタムハウス(英王立国際問題研究所)のアソシエートフェロー、デービッド・ルービン氏は「かつて経験したことがない選挙年だ。本当に特別な年になる」と指摘。「アルゼンチンとポーランドで最近実施された選挙によって、選挙はサプライズを起こすものだということを思い知らされた」と付け加えた。
現在、世界は高金利環境にあり、主要国の中央銀行は利下げに向かうと予想されているものの、経済状態の弱い国にとっては重圧となっている。
投資家から見ると、今年の選挙は3種類に分類できる。1つは、結果がほぼ分かりきっているロシアやベネズエラのような国々の選挙。
2つ目はインドやメキシコ、インドネシアのように、結果は明白に見えるが投票で各候補がきちんと競い合う国々。3つ目は南アフリカなど、結果が本当に不確実な国々だ。
昨年のアルゼンチンおよびポーランドの選挙では、投票を控えて政府が財政を緩める傾向にあることが再確認された。次期政権は、その後始末に苦心する可能性がある。
<重大な財政規律>
財政規律は重要なテーマだと見なされている。ここ数年は、新型コロナウイルスのパンデミックからロシアによるウクライナ侵攻に至る数々の外的ショックに加え、世界的に債券利回りが上昇したことで、特にその重要性が増した、と資産運用会社ウィリアム・ブレアのポートフォリオマネジャー、イベット・バッブ氏は述べている。
同氏は「新興国市場全般にわたり、ポピュリスト政策――しばしば『大盤振る舞い』を意味する――を発動できる余裕は、ほとんどなくなっている」と指摘。これまで通り選挙に伴って財政が拡大しポピュリスト政策に傾くようなら「非常に物騒なことになる」と警鐘を鳴らした。
モルガン・スタンレーは、選挙前の大盤振る舞いによる財政リスクが今年、南ア、ルーマニア、ロシア、エルサルバドル、ドミニカ共和国、ウルグアイの各国に投資する上で、主要な注目要因になるとしている。
財政拡大の余波は何年も続くかもしれない。国際金融協会(IIF)の推計では、世界の債務は昨年末時点で既に310兆ドルに達しており、そこに選挙年の財政拡大が押し寄せることになりかねない。
IIFの持続可能性調査ディレクター、エムレ・ティフティク氏は「世界的な選挙年の今年、突然に財政支出が増えれば、多くの国々にとって利払い負担がさらに重くなりかねない」と語り、市場を一層不安定化させる恐れもあると指摘した。
こうしたことから一部では、「債券自警団」が国債を売り、利回りを押し上げるのではないか、との懸念も生じている。
<最初に動くのは為替>
シティグループのストラテジスト、ダーク・ウィラー氏は、選挙への警戒感は為替市場に最初に表れることが多く、特に中南米でその傾向が強いと指摘する。
同氏によると、メキシコペソは投票日に向けて下落し、選挙結果が判明して状況が明確になると反発するパターンがはっきりしている。メキシコは6月2日に選挙を予定しており、世論調査では与党候補が2位に大きく差を付けてリードしている。
ブラックロックでEMEA・iシェアーズ投資ストラテジーを率いるカリム・チェディド氏によると、選挙年に向けて株式に投資資金が流入する傾向は、既に2023年から表れている。
今年は人口世界一のインドでも4月か5月に選挙が行われる予定で、モディ首相が再選されて3期目入りすると予想されている。