[ワシントン 22日 ロイター] - バイデン米大統領はこの1カ月、上院のフィリバスター(議事妨害)の慣行を変えることについて、大胆に探りを入れるようになっている。民主党の主要政策課題を危うくしている共和党側の妨害行為を迂回したいためだ。
バイデン氏は上院のフィリバスターの慣行を変えることには長く反対してきた。同氏は36年間の上院議員の経験がある。しかし、同氏は21日、上院はこの長きにわたる慣行を根本的に変えるべきだと表明した。共和党は今年、フィリバスター戦術を反投票制限法案の阻止に使い、今月は米国を連邦債務不履行の淵に追いやった。
現在の上院で民主党がこの慣行を廃止ないし変えさせたくても、同党はわずかな多数派でしかない。この実現には、廃止や変更に反対を明確に表明しているジョー・マンチン議員とキルステン・シネマ議員などの「穏健派」も含め、民主党議員全員の賛成が必要になる。
<フィリバスターとは何か>
「フィリバスターをする」というのは、議員が登壇し演説し続けて法案などの採決を遅らせることを意味する。
米国民にとっての上院でのフィリバスターのイメージを最初に鮮やかに形作ったのは、往年のフランク・キャプラ監督の名作映画「スミス都へ行く」(1939年)だ。作中でジミー・スチュワート演じる主人公は24時間以上、演説を続けた。
もっと最近では2013年に、ウェンディー・デービス上院議員(テキサス州選出)が人工妊娠中絶への新規制法案を阻止するため、13時間演説した。
しかし、議員がたった1人で何時間も情熱的に演説し続ける有名なイメージは、今日の上院の現実とは違う。現在はフィリバスターを起動し審議を停止させるには、これをちらつかせるだけで十分だ。
フィリバスターを止められるのは上院の圧倒多数である60票だけ。これがそろえば、「討論終結」手続きによって妨害を終わりにさせることができる。
<なぜ民主党に問題なのか>
現在の上院で民主党は50人しかいない。少なくとも共和党議員10人が加勢してくれなければ、フィリバスターを克服できない。
民主党議員がバイデン氏の提案した1兆9000億ドルの新型コロナ対応の景気刺激策を通すことができたのは、もう一つの上院の戦術である「財政調整措置」を活用したからだ。上院議長であるハリス副大統領の1票を加えて51票とした。しかし上院の規則ではこの活用に制限がある。
1兆ドル規模のインフラ投資法案を巡っては共和党議員19人の票を獲得した。しかし、共和党は他の民主党の優先課題、特に投票権の法案については阻止してきている。トランプ前大統領は自分が昨年11月の選挙で負けたのは大掛かりな選挙不正のせいだと虚偽の主張をしているが、共和党優勢の複数の州では、この主張を支持する勢力が投票制限法を新たに可決した。民主党側は連邦上院でこれに対抗する法案を提出したが、共和党側は今年、フィリバスターを使ってこれを阻止した。
共和党側はその後、連邦債務の不履行を回避するための法案をフィリバスターで止められるとも警告。これがきっかけでバイデン氏は今月、同慣行の修正にやぶさかでないと表明するに至った。
バイデン氏はCNNテレビ主催のタウンホール会議では、投票権法や「恐らくもっと多くの法案」を通すため、ルール変更を支持するとまで踏み込んだ。しかし同氏は、自分の国内優先課題の大半を含む主要2法案が成立するまでは、この件では一切動くつもりはないとも表明した。
<上院はいつフィリバスター規則を導入したか>
米憲法はフィリバスターには一切言及していない。しかし、19世紀には既に、上院での長舌の演説がどんどん一般的な戦術となっていた。1917年には上院の多数が業を煮やし、3分の2の多数決で討議を終わらせられるようにすることに賛成した。
しかし、上院で3分の2の票を得るのは至難の業だ。そのため、フィリバスターは続いた。悪名高い史実としては、公民権法を阻止しようとした南部州の上院議員が活用した例がある。
上院は1975年に5分の3の賛成票で止められるようにした。これが現在の60票だ。
70年代の上院指導部は、他の法案の審議中は、フィリバスターに直面している法案を脇に置くことを容認する措置で合意し始めた。たった1つの法案への反対が上院のすべての議事を止めてしまうのを防ぐことを意図していた。しかし、これがきっかけで、フィリバスターは単なる反対もしくは反対をちらつかせることを意味するようになった。
時を経るにつれてフィリバスター行使の数は急増。フィリバスターを克服しようとする投票の件数は、2019-20年の議事日程では298件に上った。直前2年間は168件だった。1969-70年はわずか6件た。
<フィリバスターの修正は可能か>
修正は既にされてきている。
民主党側は13年に、米政府の指名人事の大半について、最高裁判事の人事を除き、60票の賛成票の壁を取り払った。この点では民主党側は単純多数決に歩みを進めた。逆に17年には、共和党が最高裁判事指名で同様の手に出た。いずれも修正は単純過半数の賛成で成立した。
実現の目を見ることができなかったものの、取り沙汰された改革案も幾つかある。投票権法だけはフィリバスターの対象から除く案や、1つの法案に対して立てられる妨害人の数を制限すること、あるいはどちらか一方が折れるまでは議場でその妨害人は物理的に立ち続け、演説し続けなければならないと義務づける案などだ。
<誰が修正に反対なのか>
例えば共和党のマコネル上院院内総務だ。同氏は今年初め、民主党のシューマー院内総務からフィリバスターを廃止しないとの明確な約束を取り付けようとした。ただ結局は、これはうまく行っていない。
マコネル氏は3月、議会のあらゆる動きごとに共和党が採決を求めることで、審議を極端に遅らせることができると脅した。
マコネル氏の側近や議員らによると、マコネル氏が今月に連邦債務上限の一時的な引き上げで採決を受け入れたのも、一つにはフィリバスターを温存したいという願いに基づいたものだったという。