[2日 ロイター] - 2020年米大統領選の結果を覆そうとしたとして1日に起訴されたトランプ前大統領に対して、検察側は南北戦争後の「再建期」に当たる1870年に黒人の公民権を守るために成立した古い法律を根拠として適用する構えだ。
トランプ氏は憲法で保障された有権者の選挙権を共謀して不当に奪った罪や、議会によるバイデン大統領の勝利認定手続きを妨害した罪などに問われている。
連邦検察当局がその根拠法の一つとしているのが、市民が保有する憲法上や法的な権利を奪おうとする共謀行為を禁止している「セクション241」と呼ばれる1870年の法律。当時の議会は、解放された奴隷が社会に溶け込めるような取り組みを進めていた。
元連邦検察官のクリスティ・パーカー氏は、トランプ氏とその周囲の人々が覆そうとした投票結果の対象地域は、バイデン氏に票を入れた黒人の有権者が多い都市部だったと指摘した。
これらの地域にはアトランタ、デトロイト、フィラデルフィアなどが含まれている。
パーカー氏は「再建期に成立した一連の法律が今回の件に適用されることは、多くを物語っている。われわれが南北戦争時代と同じ種類の多くの戦いを今も続けていることも示している」と述べた。
再建期は1877年まで続いたが、歴史研究者の間では結局成果は得られなかったとの見方が多い。黒人への暴力を防げなかったし、政治と社会の面で永続的な人種間の融合も実現しなかったからだ。
ただ黒人に対する暴力をなくそうとする取り組みは、この再建期の法律の主たる目的であり、これまで長い間さまざまなヘイトクライム(憎悪犯罪)の訴追に適用されてきた。
名作とされる1988年の映画「ミシシッピー・バーニング」で取り上げられた、白人至上主義団体クー・クラックス・クラン(KKK)のメンバーが起こした黒人殺害事件を巡る1967年の裁判でも、このセクション241で定められた公民権侵害の共謀行為禁止が中心的な論点になった。
検察当局は長らくセクション241を黒人有権者の権利侵害に立ち向かう武器としてきたし、連邦最高裁も幾つもの判例でそうした法運用を是認している。
トランプ氏は、不正投票を虚偽に主張して選挙管理当局に投票結果をひっくり返すよう圧力をかけるとともに、他者と共謀して偽の選挙人を仕立て上げ自分を勝者にしてもらおうとしたとして起訴された。
複数の法律専門家は、このようなトランプ氏の行為は明らかにセクション241に記された禁止行為に該当すると話す。
別の元連邦検察官のエリック・ギブソン氏は「訴追手続きの観点では、今回の起訴は議会がセクション241を可決した際に想定された通りの罪状で、十分な根拠のあるしっかりしたものだと思う」と述べた。
検察側が裁判でトランプ氏を有罪にするためには、同氏が少なくとも別の1人と共謀し、公正な選挙に臨む有権者の権利を奪ったことを立証する必要がある。同氏が結果的に成功したかどうかは問題にはならない。
起訴状によると、トランプ氏と共謀者は選挙で負けた7州で偽の選挙人を仕立て、2021年1月6日の議会による結果認定に反映させようとしたとされる。
一方トランプ氏は、セクション241に違反する意図はなかったとして無実を主張する可能性がある。同氏は具体的な根拠を示さずに20年の選挙は不正があったと訴つ、自身の行動は選挙の公正性を守るのが目的だとも話している。
この問題は、集中的に行われる公判前手続きの対象になる公算が大きい。
もっとも検察側に確固とした有罪の根拠があったとしても、トランプ氏はたった1人の陪審員を「味方」につければ、審理を無効化できる。政治的な緊張をもたらす案件だけに、これは審理に先立って検察側の最大の懸念要素になっている。そのため陪審員の選任が重要な影響を与えることになる。
ギブソン氏は「トランプ氏陣営は息のかかった人物を陪審員に送り込むことはできない。しかし国民のほぼ半数がトランプ氏に投票したという現実がある」と心配している。
(Jack Queen記者、Sarah N. Lynch記者)