Saleh Salem
[ラファ(パレスチナ自治区ガザ) 29日 ロイター] - パレスチナ人医学生のアセエル・アブハダフさんは、今年パレスチナ自治区ガザにある医科大学を卒業する予定だった。だが彼女は今はテントを自宅として生活し、大学はイスラエルによる空爆によりがれきと化した。自分はいつか医師になれるのだろうか、と悩む日々を送る。
2023年10月7日、1200人以上の死者を出したイスラム組織ハマスの攻撃をきっかけにイスラエルが開始したガザ攻撃により、この狭く人口の密集する飛び地からは日常生活の痕跡が一切失われてしまった。現地の保健当局によれば、約2万5000人のパレスチナ人が死亡したという。
ほとんどの住民にとって先行きは不透明だが、アブハダフさんのような学生にとってはなおさらだ。勉学に励んだ年月に何か意味があったのか、いまや廃墟と化した大学に、自分の学業成績の記録は多少なりとも残されているのか、それすらも分からない。
「幼い頃から医学の道に進みたいと願っていた。子どもだった私は、いつも自分が医師になる姿を夢見ていた。ガザでの暮らしという状況があったから」とアブハダフさんは言う。戦争の惨禍ゆえに、その目標を実現しようという決意はさらに強くなった、と続ける。
アブハダフさんは、ガザ市南部にあるアルアズハル大学医学部の6年の課程で最終学年を迎えていた。今年卒業し、一人前の医師になるためにインターンとして仕事に就く予定だった。最終的な希望は外科医になることだ。
ガザ地区に対する最初の本格的な攻撃の中でイスラエル軍がガザ市を包囲してから数週間が経ち、市内はガザ地区の他地域とほぼ完全に切り離されている。だが、動画や写真、衛星画像によって大規模な破壊が明らかになっている。
指導教官やそれ以外の大学職員、共に学ぶ仲間たちがどうなったのか、見当もつかない。アブハダフさんはクラスメートについて、「連絡手段が何もない。皆が生きているのか死んでしまったのか、何も分からない」と語る。
「テントの中でもいいから学業を再開したい、そして先生方に連絡を取り、医者になるという私たちの夢を叶えるために指導を仰ぎたいと願っている」
<ボランティアとして>
アブハダフさん一家は、ガザ南部最大の都市であるハンユニスで暮らしていた。イスラエルの攻撃はガザ地区の全域に及んでいるが、ハンユニスへの攻撃は、今年に入って地上部隊が侵攻したことにより大幅に激化している。
アブハダフさんの家は破壊され、ガザ地区住民の約85%と同じく、一家はいまやホームレス状態だ。他の住民と同様に現在はラファで暮らしている。エジプト国境が間近に迫り、イスラエルによる空爆に対して比較的安全であると見られている街だ。
アブハダフさんの1日は、家族が暮らすテントの掃除、衣類の洗濯、わずかに入手できた食材の調理、そして家や電気のない暮らしで必要となる多くの困難な家事を処理することでほぼ費やされてしまう。
だがアブハダフさんはそれ以外にも、医療ボランティアとして地元当局にできる限り協力している。実務経験を積むためだが、大学での実習の代わりとするには物足りないと感じている。
ガザ地区では、医療の人手はいくらあっても足りない。イスラエルの砲爆撃により数万人が負傷し、国連の予測では飢餓にも直面しており、住民の多くにとって疾病リスクが高まっているからだ。
アブハダフさんのような医学生がそもそも学業を修了できるかどうか、それもまた今回の戦争で未解決の問題の1つだ。とはいえ、ガザ地区の全ての住民と同じく、彼女にとって最大の関心事は、とにかく生き延びることである。
「このキャンプでつらい日々を過ごしている。何とかして食べ物と飲み物を手に入れるだけで疲れ果ててしまう」とアブハダフさんは話す。
(翻訳:エァクレーレン)