Jeff Mason Heather Timmons
[ワシントン 13日 ロイター] - バイデン米大統領のアドバイザーたちは2020年の大統領選当時、国民がバイデン氏の年齢を問題視すると分かっていたが「トランプ前大統領のもたらした混乱を収めて政治を正常な軌道に戻せる有能なリーダー」と、印象付けることで見事に難関を突破した。
ところが、今回の大統領選で81歳を迎えたバイデン氏の年齢は、有権者の間でさらに不安が高まっている。
執務中のバイデン氏の動作はぎこちなく、歩くスピードもゆっくりで、言い間違いは日常茶飯事。時には各国の指導者の名前すら混同するほどだ。
バイデン氏との面会を終えた一部の外国指導者は、同氏には頭脳の鋭さや集中力があったと明かすが、世論調査の支持率は高齢を巡る懸念が依然として押し下げ要因となり続けている。
私邸などで機密文書が見つかった事件でバイデン氏の訴追を見送った特別検察官は、同氏の記憶力が「著しく限られている」と指摘。これに早速飛びついたのが下院共和党で、バイデン氏が「大統領の職務に不適格なのは間違いない」と攻撃した。
一方で、ホワイトハウスはそうした批判には即座に対処せず、少なくとも最初の段階では統制の取れた形での反撃も行わなかった、と複数の専門家は指摘する。
こうした姿勢について、テキサス大学の政治宣伝研究所のサミュエル・ウーリー所長は「ホワイトハウスの動きから見えてきたのは、多くの面で通常通りに職務を遂行し、敵意や悪口を無視することで、それらを乗り切ろうとする試みだ」と説明した。
ただ、最新のロイター/イプソス調査によると、有権者全体の78%、民主党員でも71%がバイデン氏は政権を運営するには高齢すぎるとの見方を示した。
そして、ホワイトハウスがこのような懸念にどう向き合うか苦闘している間に、ネット空間などではバイデン氏を「よれよれの老人」とイメージさせるような画像や動画(その一部は加工されている)が出回っている。
バイデン氏の年齢や失言を笑いの種にするのは政権発足以降の3年間で、世界的な現象にもなってしまった。
スカイニュース・オーストラリアは、視聴者400万人のユーチューブチャンネルで「バイデン氏対テレプロンプター(演説者向けに原稿の文章を表示する装置)」と題した番組を放送。インド紙ヒンドゥスタン・タイムズが22年のバイデン氏の演説における言い間違いを記録した動画を投稿すると、240万人が視聴した。
こうした中でホワイトハウスとバイデン氏の陣営は、今回の大統領選では同氏のこれまでの政策実績、つまり力強い雇用の伸びや積極的なインフラ投資などをアピールし、有権者の不安に対処する方針を示している。
ホワイトハウスのジャンピエール報道官は12日、バイデン氏の年齢を巡る有権者の認識を変えるための戦略を問われると「われわれは大統領が今まで成し遂げることができたことに重点を置き続ける」と答えた。
とはいえ、その戦略ではバイデン氏が高齢すぎるとの批判や、年齢への不安を依然として沈静化させられないままだ。
コメディアンで政治評論家のジョン・ステュアート氏は、12日に「われわれ有権者がこのような批判と不安について、自ら口を閉ざすという考えはおかしい。候補者は有権者がそれらに言及しないように命じるのではなく、自ら不安を和らげるのが仕事だ」と主張した。
<影落とす特別検察官の報告書>
8日に特別検察官による報告書が公表されてからしばらくして、バイデン氏と記者団の間では、記憶力に関して感情的で時に怒りを交えたやり取りが行われ、同氏は自身の記憶力を「問題ない」と断言。しかし、直後にエジプトのシシ大統領を「メキシコの」と言い間違えてしまった。
その翌日、ハリス副大統領や政府高官らは、特別検察官の報告書は誤っており、政治的な動機に基づいていると一斉に非難した。
民主党内には、バイデン氏に再選を目指させるのが果たして賢明なのかどうか疑問で、報告書でそうした見方が一層強まったとの声もある。
同党ストラテジストのジェームズ・カービル氏は報告書公表後、「政治の世界で最も好ましくないのは、存在する疑惑を認めることだ。これは絶対に改善しない問題だ」と述べた。
バイデン氏陣営は、大統領選本選で対決する公算が大きいトランプ氏を、過激な政策を掲げ、民主主義に対する脅威の存在とみなし、共和党による人工妊娠中絶規制をやり玉に挙げることで、有権者の危機感をあおる作戦も展開するつもりだ。
バイデン陣営が「米国の民主主義を守る」という選挙戦略を展開する中で、政治献金の調達額ではバイデン氏はトランプ氏を上回っている。
バイデン氏の資金調達において有力な役割を果たしているある人物は、特別検察官の報告書が出ても自身がバイデン氏を支持する姿勢は揺るがないと述べた。
ただ、陣営はこの問題で困惑している様子で、過去数日間でバイデン氏の年齢に対する不安感が増幅するばかりになっていると嘆く。
この人物は、年齢問題は民主党にとっては「厄介」で、世論調査を見た有権者の間でこの話が広がり、それをメディアが報道することで一層、話題になる流れになると説明した。
<不公平感>
何人かの専門家からは、トランプ氏も77歳で言い間違いや発言に混同があるにもかかわらず、メディアでバイデン氏だけが高齢を問題にされるのは公平さを欠く、との指摘も聞かれる。
共和党の政治ストラテジスト、メアリー・アナ・マンキューゾ氏は「なぜ、トランプ氏の知的能力も同じように疑問視されないのかを問う必要がある。もしも、二人の候補者がいてどちらも妻に暴力をふるっているとして、どちらか一人だけを追及するとすれば、公益に反する行為だろう」と話した。
バイデン氏をより多くの公共の場に登場させれば、どんな疑念も解消できるのではないか、との提案も出ている。
ウーリー氏は「陣営が言うようにバイデン氏に問題がないならば、信じられないほど積極的な姿勢で、報道陣と向き合うバイデン氏の姿をもっと目にすることができるはずだ。ずっと怒ってばかりいるよりも、その方がよほど理にかなう行動になる」と強調した。