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焦点:中欧諸国、ウクライナ男性が大挙帰国で深刻な労働者不足

発行済 2022-07-30 07:31
更新済 2022-07-30 07:36
© Reuters.  7月25日、ポーランドやチェコなど比較的工業化が進んだ中欧諸国では、ウクライナ人労働者が建設現場や工場の組み立てラインなどブルーカラー職場を支える重要な働き手になってい

[ゴジェフヴィエルコポルスキ(ポーランド) 25日 ロイター] - ポーランドやチェコなど比較的工業化が進んだ中欧諸国では、ウクライナ人労働者が建設現場や工場の組み立てラインなどブルーカラー職場を支える重要な働き手になっている。しかし2月のロシアによるウクライナ侵攻後、大量のウクライナ人男性労働者が戦闘に加わろうと帰国したため、こうした職場では深刻な人手不足が起きている。

企業は女性をブルーカラー職場に配置するための訓練コースを設けたり、アジアの労働者を採用するなど、人材の穴埋めに知恵を絞っている。

ロイターはポーランドとチェコで企業幹部や求人担当者、業界団体、エコノミストなど14人を取材。ウクライナ人労働者の離職が製造業や建設業でコスト増や作業の遅れを引き起こしている様子が分かってきた。

高賃金やビザ要件の緩和が呼び水となり、中欧諸国にはこの10年間にウクライナから大量の労働者が流入。建設、自動車、重工業など、国内の労働者にとっては賃金水準が不十分な職種で雇用を満たしてきた。

中欧ではロシアのウクライナ侵攻前に、ウクライナ人が最大の外国人労働者グループになっていた。業界団体によると、ポーランドとチェコはウクライナ人労働者をそれぞれ60万人前後、20万人余り受け入れていた。

ポーランドの業界団体によると、ウクライナでの戦争勃発後にポーランドを離れたウクライナ人労働者は約15万人で、その大半が男性だ。

ポーランドの路面電車・鉄道建設会社ZUEグループの最高経営責任者(CEO)、ウィスラフ・ノヴァク氏は、下請け業者の1つが最近、線路敷設関連の作業を完了できなかったのは30人のウクライナ人労働者がほぼ全員離職してしまったからだと明かした。

「多くの企業が労働者の大量流出に見舞われ、さまざまな建設現場で大規模な人手探しが行われている」

欧州中央銀行(ECB)は6月、ウクライナ難民の流入がユーロ圏の労働力不足を緩和するとの見通しを示した。しかしユーロ圏以外の欧州工業国では逆のことが起きているようだ。

こうした国に到着した何十万人ものウクライナ難民は女性と子ども中心で、人手が不足しているブルーカラー職を埋めるのは容易ではない。求職があるのは建設、製造、鋳造など肉体的にきつい分野の仕事が多く、こうした職場は女性労働者が運べる重量が法的に制限されている。

チェコ産業連盟のラデク・スピカー副会長は「ウクライナ人労働者の離職で企業は問題が一段と悪化している」と話した。「企業は取引先の需要をすべて満たすことが不可能になっている。納期を遅らせたり、違約金を支払ったりしているのが実態だ」

<埋まらぬ求人>

チェコは国内総生産(GDP)に占める工業セクターの比率が30%と、欧州連合(EU)加盟国中でトップクラス。これに次ぐのが25%のポーランド。

ロシアのウクライナ侵攻前、ドイツに拠点を置く人材紹介会社ホフマン・ペルソナルは3月から6月にかけて1000人余りのウクライナ人をチェコに受け入れる予定だった。

ホフマンのチェコ部門のマネージングディレクター、ガブリエラ・フルバコワ氏によると、ウクライナ人労働者を当てにしていた企業は今、この穴を埋めるのに苦労している。チェコの失業率は3.1%と、EU加盟国で最低水準。フルバコワ氏は「この問題が即座に解消せず、外国人労働者の採用機会が改善しなければ、特に製造業に大きな影響が出るだろう」と語った。

溶接、製造装置操作、金属、フォークリフト運転など資格が必要な製造部門では労働者が数百人規模で不足しているという。

経営幹部や業界団体によると、ウクライナ人労働者離職の影響は、欧州の新興国で特に強く感じられるという。こうした地域は、ドイツなどEU工業先進国に比べて自動化が進んでいないためだ。

電子機器の製造などを手掛けるフィンランドのスカンフィルは、同社が事業展開するポーランドで急激に人手不足が起きたため自動化促進計画を強化した。ただ同社の人事部門の幹部は、自動化が不可能な職場もあり、引き続き多くの労働者が必要だと述べた。

<経済的影響>

BNPパリバ銀行ポルスカのチーフエコノミスト、ミハル・ディブラ氏は、経済データと地元企業からの聞き取り調査を基に、ウクライナ人労働者の離職が少なくとも短期的にポーランド経済に対して悪影響を及ぼすのは明らかだが、その規模を具体的に示すは早計だと述べた。ポーランドはEUで6番目の経済規模を誇る。

企業はウクライナでの戦争によるエネルギーや材料のコスト高騰、パンデミックによるサプライチェーン(供給網)の長引く混乱にさらされており、人手不足の問題が追い打ちをかけた形になっている。企業のインフレ指標である生産者物価指数(PPI)の6月の前年比上昇率はポーランドが25.6%近く、チェコが28.5%だった。

一部の企業は労働者を呼び込むため、給与の提示額を引き上げている。

<企業は人材確保に躍起>

ポーランドの人材派遣会社によると、顧客企業は人手不足に対処するため、男性をより肉体的にきつい仕事に異動させ、その穴を埋めるためにウクライナ難民の女性を採用している。

また働き方を見直し、モンゴルやフィリピンなど、言語や渡航、ビザの問題から迅速な採用が難しい国にも目を向けなければならなくなっている。

人材紹介会社の経営幹部によると、ポーランドは過去13年間でウクライナ人労働者の数が38倍に増えており、こうした対応ではとても追いつかないという。

人材派遣会社が2000人の難民にフォークリフトの操作方法を学ぶコースへの参加を呼びかけたところ、600人余りの女性から回答があり、数十人が最近、4週間のコースの受講を開始した。

受講者の1人で、ウクライナからポーランドに逃れてきた元営業部長のオルハ・ボロビさんは、自動車メーカーの倉庫で職を得た。「ウクライナでは頭を使って働いていた。ポーランドでは体を使っている」と話した。

(Fanny Brodersen記者、Anna Koper記者、Michael Kahn記者)

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