[ロサンゼルス/東京 7日 ロイター] - 米食品医薬品局(FDA)は6日、エーザイと米バイオジェンが開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」(米国名はレケンビ)を正式承認した。米国で今後、保険適用拡大に道が開かれることになる。
レカネマブはアルツハイマー病患者の脳に蓄積する「アミロイドベータ」と呼ばれるたんぱく質を除去するよう設計された抗体医薬で、臨床試験(治験)では早期段階の患者で病気の進行を27%遅らせる効果が示され、FDAは今年1月にレカネマブを迅速承認したが、米国の高齢者向け公的医療保険「メディケア」は保険適用を治験参加者に限定していた。
FDAの諮問委員会は先月、レカネマブが早期段階における治療に有用であることが後期臨床試験(治験)で確認されたとし、完全承認するよう勧告していた。
FDAの正式承認を受け、メディケアを管轄するメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)のチキータ・ブルックスラシュール長官は声明で、レカネマブに広く保険適用する方針を明らかにした。
レカネマブの米国での価格は年間2万6500ドルに設定された。
国際アルツハイマー病協会によると、米国のアルツハイマー病患者の数は600万人以上。エーザイはレカネマブが発売後3年間で米国の10万人の患者に使用されると推計している。
エーザイの米国部門最高経営責任者、アイヴァン・チャン氏は、医療機関でレカネマブを使用する体制を整える取り組みを強化していると述べた。これまでに同薬を使う治療を受けた患者数の公表は控えた。
エーザイが公表した資料では、複数の注意事項が付記され、アミロイド関連画像異常(ARIA)と呼ばれる脳浮腫や微小出血などの副作用に関する説明がある。特に「APOE4」という遺伝子を持つ人の一部は、ARIAの発現リスクが高くなるとしている。ARIAの発現リスクを知るため治療前にAPOE4遺伝子の保持状況に関する検査が必要だと指摘した。
ジェフリーズ証券はこの注意事項や治療前検査の必要性が付記されたことで、売上高の伸びが鈍化すると予想。治療前の検査は「保険が適用されないと理解している」とした。
エーザイの内藤晴夫最高経営責任者(CEO)は「レカネマブによるARIAの発生頻度は低いと理解している」と説明。実際の処方では、アルツハイマー病に対する有効性とARIAにおける重篤なリスクがある可能性を考慮して医師が決定するよう促していると語った。
また「ボックスト・ウォーニング」と呼ばれる注意事項は、昨年FDAが承認した画期的新薬で約4割に付記されており、まれなものではないとした。
注意事項は米イーライ・リリーの競合薬「ドナネマブ」にも適用される見通し。
米クリーブランド・クリニックでレカネマブの臨床試験に携わったババク・トゥーシ医師は、同薬には多くの関心が寄せられるとみられるが、実際に投与の条件を満たす患者は10人に1人程度にとどまると予想。
また、レカネマブはアルツハイマー病の進行を遅らせる薬であり、時間を巻き戻して完治させることはできないと指摘した。
エーザイは米国以外で日本、欧州連合(EU)、中国、カナダ、英国、韓国で同薬の承認を申請しており、日本と中国では優先審査の対象に指定されている。
エーザイは日本時間の7日、FDAの正式承認による2024年3月期の業績予想への影響は軽微で、公表済みの予想に変更はないと発表した。