人は狭かったり深かったりする関係性のなかで、影響を与え合って生きている。
一度しか話したことがない人でも、その人の行動や言動が思いがけず一歩前を踏み出すきっかけになったりすることもある。
逆もまた然りで、知らないうちに自分が他人に対して相手の気持ちや行動を変える何かを与えていることもある。
本書は、17歳で詩人としてデビューしたすみれを取り巻く人々を描いた連作短編集となっており、彼女と関わることでみんなが彼女から何かを得て、前を向いていく。
すみれが影響を与えたのは、彼女と密接に関わっている家族や編集者だけではない。
高校生の時一度だけ言葉を交わした同級生も、すみれの独特な雰囲気に惹かれる隣人の男子大学生も、すみれの才能を見出した担当教師も、みんなすみれから影響を受けて心を動かされている。
私は高校生の時、クラスにいつも一人で居て、不思議で独特な雰囲気を放つ友達がいた。
グループ行動をする女子たちのなかで、彼女は明らかに浮いていた。
彼女のことを「変わっているよね」と冷たい目で見る友達が多かったが、私はたまにその子と話す時があって、それが意外と面白かった。
話の話題さえ独特だったが、私が知らない世界を彼女は知っていたからだ。
彼女は修学旅行の時、バスの隣の席で黙々と小説を書いていた。
小説を書くのが好きだと言っていて、私も幼い頃小説を書いていたからそれで話が盛り上がった。
そして、彼女はその何ヵ月か後、応募した小説コンクールに入賞した。
本書を読んだ時、何となく彼女のことを思い出した。
その友達は特別親しいわけではなかったが、独特な世界観が面白いと感じていたし、高校生で小説の賞を受賞したことは心から感心した。
そのうえ当時から書くことが好きだった私は、自分ももっと頑張ってみようかなという気持ちにもなれた。
集中すると周りが見えないほど異様にのめり込んでしまうすみれは、周りの人からはいわゆる「K・Y(空気読めない)」とみなされて、マイナスに捉えられることが多いだろう。
しかし、本書はすみれのマイナス面を引き合いに出すことなく、むしろ肯定的に、温かく包み込むように描いているのが良い。
また、すみれが周りに影響を与える一方で、すみれ自身もまた、みんなから幸せをもらっているのを感じられる。
瀧羽さんらしい、優しい作品だ。
(さらに忘れちゃいけないのは装丁。
温かみのある黄色を基調とし、猫をモチーフにしたこの装丁は可愛くて本書にぴったり♡)これから先、自分の人生に影響を与えてくれる人はどれくらいいるだろう。
些細なきっかけを大切にしたい。
そして、自分も誰かに影響を与えられるような人になれるといいな。
—追記—本書は、先日紹介したアンソロジー『あのころの、』に収録されている『ぱりぱり』を第1話にした連作短編集である。
『あのころの、』と合わせて読むのも楽しいかも?!(フィスコ 情報配信部 編集 細川 姫花)『ぱりぱり』(実業之日本社文庫) 瀧羽麻子 著 本体価格593円+税 実業之日本社