Rod Nickel Jeff Lewis
[ウィニペグ(加マニトバ州)/トロント 14日 ロイター] - 石油成分を含む砂岩から石油を生産するカナダのオイルサンド企業が、新型コロナウイルス感染の世界的大流行に対処してコストを削減するため、約20億カナダドル(約1600億円)規模の環境対策を棚上げにしている。
業界は温室効果ガスの排出を削減して「汚れた石油」のイメージを払しょくする構えだったが、その取り組みが一部逆行している格好だ。
カナダのオイルサンド事業は黒字化するためのコストが高いため、ここ数年で国際的な石油企業はこぞって同国から引き揚げていた。また世界第4位の産油国である同国にオイルサンド生産による環境への影響緩和を迫るため、一部の銀行や投資家は資金提供を中止していた。
しかし新型コロナ危機で石油需要が急減し、損失が増大したことから、サンコール・エナジー (TO:SU)やカナディアン・ナチュラル・リソーシズ (TO:CNQ)、セノバス・エナジー (TO:CVE)といった大手が、環境投資を当初計画から合計18億カナダドル(13億2000万米ドル)削減した。
ノルウェー最大の年金基金KLPは昨年、カナダのオイルサンド投資から撤退しており、責任投資を管轄するジャネット・バーガン氏は「今回のことを見て、われわれの決断は正しかったとの見方が強まった」と述べた。
コンサルタント会社ライスタッド・エナジーが5月に示したデータによると、カナダ石油産業の上流部門は温室効果ガスの排出量が1石油換算バレル当たり39キログラムと、世界の主要産油国中で最も多く、米国の3倍以上に達する。
対照的に欧州では、コロナ禍中でも大手エネルギー企業が「グリーン・エネルギー」投資に回すキャッシュの割合を増やした。
オイルサンド産業は他の原油生産形態に比べて二酸化炭素(CO2)の排出量が多く、排出量削減を迫る投資家からの圧力がとりわけ大きい。環境への取り組みがぐらつけば、投資家や環境団体を説得するのはさらに困難になるだろう。
カナダの石油企業は近年、CO2排出量の削減に投資してきたが、同国西部全体の排出量は2005年から18年にかけて14%増えている。この間、石油生産は倍増した。
<投資削減>
最も排出量を減らしたのはサンコールだが、同社はこのほど3億カナダドルの風力発電プロジェクトと、CO2などの排出削減につながる14億カナダドルの「コジェネレーション」計画を棚上げした。
同社のバイスプレジデント、ジョン・ミッチェル氏は環境投資について、原油の抽出という中核事業の財務健全性にかかっていると説明した。
セノバスは2050年までに排出量をゼロにする目標を掲げているが、環境投資を含む技術予算の78%、1億3750万カナダドルを削減。当局への届け出書類では、コストと環境への恩恵が両立する計画だけを選んで進めていると説明した。
同社広報担当者は、環境目標達成の決意に変わりはないと述べた。
カナディアン・ナチュラルも排出量削減につながる4600万カナダドルの実験的プロジェクトを中止した。
カナダの石油生産の中心地であるアルバータ州は、新型コロナに伴う健康面の命令順守の必要から、水質試験や土壌・野生動物の観察といった環境監視基準を一時的に緩和した。責任投資に携わる投資家からは、懸念する声が上がっている。
同州エネルギー省の報道官は、緩和措置はあくまで一時的なものだと説明した。
カナダ連邦政府は新型コロナ関連の支援措置を使い、廃棄された油井の洗浄と、企業のメタンガス排出削減を支える融資という2つの環境計画を始動した。しかしロイターが調査した、ここ数年でカナダの石油産業から手を引いたと公表している多くの投資家や銀行、保険会社は、こうした対策が、彼らをこのセクターへの投資に引き戻すには「小さ過ぎて遅過ぎる」と考えていることが明らかになっている。